第34話 たのも〜う!
「そろそろ薬師ギルドへ到着致します」
馬車に流れる微妙な空気もなんのその。迷いなくぶった切るララさん。素敵です。
「そうそう、忘れるところでした!身分証明の褒章メダルの認定証をお渡ししますね!」
「おぉ!私もすっかり忘れてました!……ありがとうございます!」
エイルさんが腰紐にぶら下げられた巾着から認定証を取り出した。私はそれを受け取り、お礼を告げる。
筒状の羊皮紙に紐が一巻き。紐を解いて羊皮紙を開いてみると、上等な品質だと一目で分かる代物だった。
「本当にありがとうございます!これがあれば、街も自由に歩けますし、宿にも泊まれます。大変助かりましたが、お代はいくらですか?」
ローハン隊長の誘導で自然に了承して行われた真贋判定だが、今思えば、タダなわけないよね?
鑑定する知識を蓄えるのもタダではないように、物事にはお金が発生する。
目を肥やす為にも、良いものに触れる機会を沢山作らなければならない。当然ながら、コネや人脈が物を言う。その機会一つにも、金銭が絡む。
「お代はローハン持ちなのでお気になさらず」
にこりと微笑むエイルさんに、「え!?」と驚きの声が漏れる。
「いやいや、そういうわけにもいきませんよ!?ちゃんとお支払いしますよ!」
「それなら、ローハンにお礼を渡してみては?アレも強情ですから、お金は受け取らないでしょう」
「お礼のプレゼントをしてみるってことですね。いい案だと思います。内容は考えてみますね。困ったら、相談に乗ってください!」
「はい。構いませんよ」
こちとら、前世は喪女だ。
男性にプレゼントなど、ハードル高すぎである。
(はぁ。世の中は、なにをするにもお金が必要。綺麗事ではすまないこともけど、こういう人情に触れるのも悪くないよね)
「……ん?この、ロレンツォ・アターキルと言うのはもしや?」
ほっこりしながら書面を見ていけば、ある部分で私の視線は止まる。
「えぇ。このアターキル地方を治める領主の名前ですよ。私の名前と連名のはずですよ」
「エイルさんのは分かりますけど、領主様の署名がここにあるということは……」
「えぇ。ローハンの報告では半信半疑だったみたいですが、私が認定申請書を出したら本物だと確信したらしく……貴方に会いたがっていたと、爺やが言っていましたよ」
「え?それは素直に嫌だ」
うげぇ……としょっぱい表情になった私に、エイルさんは声を上げて笑う。認定証の許可を出してくれたことはありがたいけど、対面は御免願いたい。
「あはは。そう言うと思って、遠回しに断りを入れたのですが無駄でしたね」
先手を打たれました……と、先程の巾着から出した一枚の封筒をピラピラと揺らした。
「召集の手紙ですか?」
喉元がコクリと動く。そんな私の様子に、エイルさんは苦笑いだ。気持ちが分かるのだろう。下手になにも言わないところを見ると、私のように蛇を出したくないと見た!
「爺やが進言をしてくれたらしく……今は様子見に徹しています。そのおかげで、接触はもう少し後になるだろうとのことですが、手紙の返事は一週間以内に出さなければなりません」
(嫌だなぁ。そんな距離の測り方)
(その爺やにしてみれば、急に降って湧いた魔従族だ。警戒と困惑が混ざり合っているのだろう。ならば、一定期間の監視をして問題がなければ、領主に会えということなのだろう)
(えぇ?なにその上から目線)
(貴族とは、得てしてそういう生き物だ。理解する方が苦しむことになる。そういうものだと弁えろ)
(……分かった)
「分かりました。私が見ていい場所だけ、後で手紙を見せて下さい」
「はい、お願いします」
私の不精無精の頷きに、エイルさんはなおも苦笑い。全然納得してないのが丸わかりだからね。
そしてララさんの言う通り、話していればあっという間の距離だった。馬車は、少しの揺れを乗せて停車した。
「では、参りましょう」
先ほどの空気など無かったように、いつもの微笑を浮かべるエイルさんに元通り。腰を浮かすエイルさんと、またしてもララさんに抱かれる私。エイルさんから順番に馬車を降りる。
「うわぁ……」
ギルドというのは、大抵が街の中心地にあるイメージだ。この辺境の街アターキルではどうだろう?
馬車を降りたところは、人々が沢山行き交う路上だ。人混みの頭で、向こうの様子は分からない。そして目の前にはデカい建物。
煉瓦造りの二階建ての建物で、キューブスタイルの形状だ。ツートンカラーで二階だけ色が異なる。玄関は両開きの大きいもので、上部はアーチ型に象られたお洒落なデザインだ。
「立派なのは、外側だけですよ。さぁ、行きましょう」
視線を釘付けにしていた私に、呟くように言ったエイルさんは、サッサと歩き出してしまった。
「あっ!待ってくださいよぉ〜」
私はララさんとジョウを伴い、ポテポテと歩を進めた。
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