第33話 寝た子を起こす
「お待たせしました!」
「いえいえ……」
ちょっと遅かったか?エイルさんとゼフさんは既に玄関に揃っていた。私はララさんに抱えられ、階段を降りる。
「私たちも今着いたところなので、お気になさらず」
相変わらずの微笑みで、本気か冗談から分からなくなる。私は助けを求めて、ゼフさんチラ見するが、忠犬は飼い主に似るよね?彼もまた、エイルさんと同じく笑顔だった。
「玄関先に馬車を用意しています。さぁ、行きましょうか」
エイルさんの言葉を皮切りに、ゼフさんが扉に手をかける。
さぁ、私の異世界デビューが始まるぞ!?私はフンッと鼻息荒く、まだ見ぬ世界に心をときめかせた。
私はベルトコンベアで吸い込まれるように、馬車に収まった。
「ん?ララさんも一緒?」
「はい。細事などを熟す人員がいりますので」
対面に座ったエイルさんは、ジョウが飛び込み足元に座ったのを確認して、ララに命を出す。
「ララ。出発の合図を」
「やりたい!」
エイルさんの言葉に、私は即座に声を上げていた。御者さんに知らせる出発の合図は定番!あれだよね?
「……いいでしょう。どうぞ?」
「はい!」
私はララに支えられながら、座席の背面壁を軽くコンコンッと叩いた。そうすると、ガタンっと馬車が動き出した。
「面白かったですか?ふふっ」
そんな質問は愚の骨頂と言わんばかりに喜ぶ私は、きっと喜色満面の笑みを浮かべているだろう。
人生初の体験!前世では、バスの停車ボタンを押すタイミングを今か今かと待っていたのに似ている!ちなみに前世では、もれなく母との攻防戦が付いてきた。
(中身32歳が童心に還ってやりよるわ)
(ふふっ。今はなにを言われても、スルー出来る!)
ジョウにフッと鼻で笑われようが、私はやり遂げた高揚感が薄れない。
「楽しかったです」
「では、帰りも頼みましょうかね」
微笑ましそうな目で私を見るエイルさんに、私はやった!とガッツポーズ。それを見たエイルさんは、更に笑みを深めた。
「そうだ、エイルさん。今日は、商業ギルドにも行くんですよにぇ?」
「えぇ。薬師ギルドの後に行く予定ですよ」
思い出したように口に出した私に、エイルさんは、どうしました?と視線で伺う様子が見えた。
「魔法紙が欲しいんですけど、商業ギルドで取り扱ってますよにぇ?」
大陸全土の流通を統べる商業ギルドだ。よほどのレアでなければ、取り扱いの品にあるはずだ。
(確か加護の効果を使用する時に、魔法紙が必要だったよね?)
(確かに必要だが、何故エイルに聞くのだ?商業ギルドに行くなら、直に職員に聞けばよいものを。わざわざ、寝た子を起こす必要もなかろうに)
(え?どゆこと?)
はぁ…と溜息をつき、薄目でチラッと私を見ると、そのまま瞼を閉じてしまった。
「確かに商業ギルドに魔法紙はありますが……ミオが購入するのは難しいかも知れません」
申し訳なさそうに眉尻を下げ、言いにく気に告げるエイルさん。
え?なんで?私の思考を詠むように、
「魔法紙のような特殊な商材は、悪用を防ぐ目的で購入制限をしています。ミオだけが買えないのではなく、商業ギルドが定めた範囲に当て嵌まらない方々は、購入出来ません。……それでなんですが、私が所持している魔法紙でよければお譲りしますよ?」
譲ると言った彼の目が怪しい。私はすかさず対価の支払いを前面に出しながら、魔法紙を譲れと交渉に出る。
「本当ですか?対価は支払いますので、お願いします」
「対価を払うなど、他人行儀ですね。私とミオの仲じゃないですか?私はただ、魔法紙の用途を聞ければそれで構いません」
ほら来た!だがこれで、ジョウの態度に納得いった。彼が諦めた表情をするはずだ。私は突いてはいけない藪に突進をしてしまったのだ。
「ははは。他人行儀もにゃにも、まだ出会ったばかりじゃにゃいですかぁ」
やだなぁ……と言いながら、私はこれ以上蛇が出ないように塞がなければ!
「出会ったばかりだからこその親睦を深めなければいけないんですよ。お互いにを知る、良い機会になると思いませんか?」
エイルさんはその機会を口実に、更に深入りするのが目的ですよね?
魔法紙の用途だけじゃ飽き足らず、見学までがワンセットですよね?好奇心が人一倍強いエイルさんだもの。想像に難くない。
(何故気づかなかったのかな?私!)
(今さら悔いても仕方あるまい。一つ勉強になったと思え。エルフは精霊を崇めると言う。精霊と人生を共にするエルフも少なからず存在する。親和性はあるから、問題はあるまい。一応、ミオの保証人だ。此度の精霊創造についても、奴が知る権利はあるだろう)
(そうだね)
私が白旗の溜息を出すと、エイルさんから声がかかる。彼の声音は若干弾んでいて、きっと私の溜息で勝利を確信したんだろう。
2つに分けました。
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