第32話 認定証の受難

 コンコンコン!

 扉を叩く音が聞こえ、私をソファに下ろす彼。


「どうぞ」

 

 エイルさんの呼びかけに応え、ゼフさんが綺麗なお辞儀で入室してきた。


「失礼致します。認定証が出来たとのことで、総次長様が来られております」


 そして、面白い言葉を吐いたのだ。


(総次長!?なんな立派な役職な響き!)


 ミオの耳は、自然とダンボに変化する。さすが元日本人。大多数がミーハーの血を引き継いでいると言っても過言ではなかった。ミオもしっかりとDNAに組み込まれていた。


「そうですか。爺や……総次長はどちらに?」


(爺や!?)

(お前は、いちいち、突っ込まずにはおれんのか!?)

(え?聞こえてた?)


 ミオが意図した訳では無いが、興奮すれば、思考が念話になってジョウにまで届いてしまう。


(興奮して思考がダダ漏れでは、まだまだ魔力操作が甘い証拠だ。精進するんだな)


 本来、ジョウは静けさを好む。それがミオの介入で騒々しくなるのだから堪らない。ジョウは諌めずには居られなかった。


(ごめん。気をつけるよ)


 ミオもそれを知っているからこその謝罪だ。


「いつもの応接室で、待機していただいております」

「分かりました。ではミオ、惜しいですが時間切れです。薬師ギルドへは、予定通りに午後一番に向かいます。玄関でお待ちしていますよ?」

「はい、分かりました!」


 応接室に向かうべく、腰を浮かせながら私に念押しをしてくるエイルさん。素直に返事をしておこう。


(多少時間に余裕が出来たな。今日の昼は、ミオのお手軽軽食だ!その後に、ミオの加護を使用するか?)

(使用に至るか分からないけど、素案は纏めたい。ジョウのアイディアは、どんなやつ?)


 新しい生命が生まれるからね。慎重にやらなきゃ。


(我輩の案は、精霊だ。時と空間を操る精霊。時空精霊は、時を止めることは出来ん。だが、スローモーションをかける事は出来る。対象制限付きだが、かなり有効な手札だ。空間については、万が一ミオが連れ去られた時に、その場所に空間を繋げてもらうことが可能だ)

(すげぇチートだ!)


 時を扱うとか、クロノス神の領域じゃない?でも精霊なら、ちょっとだけ介入出来るんだ。

 

(精霊がいるなら、それを束ねる王様とかいるのかな?)

(いるぞ?)

(おぉ!?)

(だが、この空間にはおらん。精霊界で暮らしているぞ。こちらにいる精霊は、生まれたてか、低級か中級だな。上位精霊は、有事の際異常災害にこちらへ来るぐらいだな)

(へぇ。精霊王様の元でなにかの勉強でもしているのかな?)


 次期精霊王は、その上位精霊の誰かがなるのかな。


(佐様。こちらで位を上げれば、次は精霊界で研鑽を積むことになる。精霊王の元で修行に励めば、精霊姫や王子の座も夢ではないだろう。詳細を言えば、奴らこそが次期精霊王の後継候補だ)

(へぇ。精霊界も大変なんだね。それなら、姿形はどうしようかな?この世界の妖精は、日本のファンタジー物語の絵本みたいな感じ?)

(そうか。ミオには見えておらんのだな。一時的に見えるように力を分けてやる。それを書き写すんだ。一度目を瞑ってくれ!)

(うん!)

 

 素直に目を閉じた私に、ジョウがもういいぞと声をかけたので、言われるがまま目を開くと。


(うわぁ!キラキラ金平糖で一杯だ……)


 感動で目を輝かせる私は、ジョウはいつもこんな綺麗な景色を見ているのか……と、少しだけずるく感じた。



エイルSide


「お待たせしました」


 ゼフの開けてくれた扉を潜り、使者が来ている応接室のソファに腰を下ろす。


「お忙しいところ、ありがとうございますじゃ。マクガイア様が申請されていた認定証ですがな、無事にロレンツォ様若様から認可が降りましたぞぃ。若様が、少女にいたく興味を抱かれておりましたわぃ!」

「ありがとうございます、爺や。ローリーロレンツォのミーハーは、今に始まったことではありませんからね。放っておけば、熱も冷めるでしょう」


 対面に座る爺やなる人物は、アターキル辺境伯家の使用人の指揮を取る人物。ロレンツォが小さな頃から屋敷に仕える彼は、名をスチュワートと言う。茶髪に白髪が混じった好々爺だ。目は緑色だがどこまでも深く、こちらを見透かしているような居心地の悪さがある。背はピンと伸びており、杖はいるのか?と疑いたくなる。


「ほっほっほっ!儂も、もう少し様子をみるように進言しましたわぃ。一応、若様も了承しておりましたが、マクガイア様へ書簡もお預かりしてますぞ!」

「有り難いことですが、書簡については嫌な気配しかしません。……持ち帰りいただいてかまいませんよ?」

「そう邪険になされますな。あぁ見えて、今回はかなり我慢されておりますからな。偶には爺の顔に免じて、受け取って下され」


 私が嫌な顔を隠しもせずに言ったのに、臆さずに堂々とするスチュワートには敵わない。


「はぁ。爺やの顔に免じて、手紙は読ませてもらいます。返答には少々お時間をいただきますよ?」


 どうせ十中八九ミオのことに違いない。手紙の内容によっては、ミオに聞かなければならないことも出てくる。


「はい。マクガイア様の都合がつく時……と申し上げますれば、一生返答に時間がかかりそうですからな!なるべく早くお願い致します」

「はい、分かりました」


 スチュワートの言から一週間が限界と察するが、ミオとジョウはこちらに来たばかりだ。落ち着くまでは、あまり負担は掛けたくない。


 メダルの認定証を待ちわびていたミオだったが、おまけに要らぬ騒動が舞い込んで来た気がするエイルだった。

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