第11話 きゅうちゃんの従魔印


 さて、朝がやってきました。早くも、アターキルに来て三日目です。今日もララさんに先導されて、食堂に向かいます。


「おはよう御座います、ミオ。」

「おはようございます、師匠」

 今日も麗しい銀髪がキラキラと輝いています。中身がスパルタじゃなければ、見惚れるのに(昨日の事を根に持ってる)。


「昨日の従魔契約をした、きゅうちゃんの従魔の印ですよ。渡してあげて下さいね」

「ありがとう御座います!」

 師匠に駆け寄り、彼が手にしていた従魔印が私の手に渡される。

 ジョウと色違いの黄色のガラスで出来ているそれは、きゅうちゃんの羽毛に似合うと思った。少し違うのが、真ん中の✡の金色のマークの下に+が掘られていること。


「師匠、この【+】はなんですか?ジョウの時には無かったと思うのですが…」

「よく気が付きましたね。これは迷子防止機能が付与された従魔印なんですよ。ホーム帰還場所の設定が出来ます。万が一、誘拐や迷子になれば、この対の従魔印に魔力を灯して下さい。そうすれば、ホームへ自動転送されます」

 従魔印について説明する師匠に関心する私を他所に、きゅうちゃんは既に影から出て、どこに着けるか悩んでいるようだ。勝手に出てきた事は、後から注意をしようと思ったら、ジョウが話をしていた。


「なるほど。とても貴重な付与をありがとうございます!」

「いいえ。きゅうちゃんは、ジョウと違い生まれたばかりですからね。ふと目を離した隙に…ということも十分ありえます。影で育てるのも悪いことではありませんが、幼生時の経験に勝る価値は計り知れませんから」

「これ、師匠の作品ですか!?」

「えぇ、頑張って作らせて頂きました」

「凄いですね!本当にありがとう御座います!」

「どういたしまして」

朗らかに微笑む師匠に、私も満面に微笑んだ。

「ララさん。こにょ子は私にょ従魔で、きゅうちゃんと言います。よろしくおにぇがいします」

「きゅ!」

「畏まりました」

 私はララさんへお世話になる旨を告げる。生まれたばかりのきゅうちゃんは、色々な事が新鮮だ。きっと迷惑をかけることもあるだろう。

 きゅうちゃんも片手を上げて、ララさんへ挨拶をしていた。


「ふふっ、可愛らしいですね。ですが、不思議な鳥ですねぇ。私もエルフとして長く生きてきましたが、見たことがありません」

「私やジョウも分からないんですよね。迷彩卵ロストカラーエッグという卵だったんですけど、私とジョウの魔力を主に吸ってたみたいで…」

 あはは!と手を後ろ頭にやり、困ったていを取る。師匠は違う場所に食い付いた。


迷彩卵ロストカラーエッグですって!?レア度☆☆☆☆☆五つ星より更に上の七つ星の素材じゃないですか!?」

 え?七つ星っなに?師匠の言い方から、素材の等級だとは思うけど。呆気にとられる私に、師匠は肩を掴む。少し痛いが、師匠が必死な理由が気になった。


「きゅうちゃんが迷彩卵ロストカラーエッグから孵ったのなら、その殻はどうしたました!?」

「え?確か、ジョウに言われて鞄に仕舞ってますけど…」

「それっ!それを少しでいいので分けていだけませんか!?勿論、師匠弟子間で有耶無耶な取引はせず、ちゃんと商業ギルドを通して販売契約の書面も作りましょう!」

「それは構いませんけど、一体何故そんなに必死なんですか?」

 確か、従魔の契約スキル【リード】を使う時に、ちゃんと紹介したと思ったんだけど…もしかして、色々あり過ぎて、師匠の脳が受け付けなかったかな?(←その通り!)

「私が受け持つ患者の一人が、なん年も重篤状態なんです。今は状態維持がやっとで…」

「そうだったんですね。私は師匠の弟子ですから、相談に乗りますからね!なにかあれば、頼ってくださいね!」

 トンッと胸を張り拳で叩けば、師匠は力ない笑みを見せた。


「ありがとうございます、ミオ」

「ガウッガウッ!?(吾輩も、手伝ってやらんこともないぞ!?)」

「きゅうきゅう!(わたちもわたちも〜!)」

 と、私に追従するように、二人とも師匠に必死でアピールをしていた。かわよ。


「二人はなんと?」

「ジョウは素直性格ではないのですが、手伝いを申告していますね。きゅうちゃんは…『(きゅうは、わたちも!と賛同の意を評しているぞ!それにしてもら吾輩がツンデレとはなんだ!?要らぬ言葉を伝えるでない!)』…私も!私も!と私の意見に賛成のようです」

「それは心強いですね!ありがとう御座います、二人とも」

 華が周囲に舞っている。無理もない。かわゆいもふもふ兄弟の助太刀要請だ。断るほうがどうかしている。キリッ。


 ジョウの念話で通訳してもらったきゅうちゃんの言葉を伝えた後の苦情は、勿論スルーである。ジョウは、ツンデレで食いしん坊。これは紛れもない事実である。


「今日は午後に用事があり無理ですが、明日にでも商業ギルドに登録に行きませんか?」

「いいですよ!私は……読書以外は暇なので」

 視線を反らしながら、弱々しく言えば、師匠は苦笑いである。

「ふふふっ!昨日は意地悪を言いましたが、まずは入門と初級編の暗記をお願いします。薬師ギルドの登録試験には、それらの知識が欠かせませんので…」

「…っわっかりましたぁ!」

 現金だと思えば、思えばいい。私は今、重圧が解き放たれた身体がとても軽いのだ!羽根があれば、飛べそうなほどに。



「私のステータスが見てみたい?」

「はい。目標の師匠となる人のレベルを見てみたいんです」

 真っ当なことを言っているが、単に賢者のステータスが気になるだけである。ミーハーというなかれ。皆も気になるでしょ?

 朝食で食べられるものをララさんが取り分けてくれたのに礼を言い、私は師匠にお願いをした。


「別に構いませんが、見せる項目はこちらで選ばせて頂きますよ?」

「はい!見せて頂けるなら、我儘は言いません!」

(それが既に我儘だと思わないのか?)と呆れの表情で見るジョウは、スルーである。

 そんな朝食時のやり取りを得て、私は今、エイルさんの研究室へご案内されている。


「それにしても、入り組んでますにぇ」

「そうですね。このお屋敷の元の持ち主は貴族でしたから、襲撃のことを考えて作ったんでしょう。玄関や研究や私室のリフォームぐらいしかしていませんので、構造は貴族の屋敷と変わらないですね」

 エイルさんのお屋敷に限らずだが、広くて迷子になりそう。日本でも、からくり屋敷とかがその例だよね。あれは、逃走用の時間稼ぎも兼ねているか。


「それにしても、私のステータスはそこら辺のステータスとは大違いですよ?びっくりしないで下さいね?」

 茶目っ気たっぷりにウィンク一つを決めたエイルさんにより、研究室の扉が開かれた。

「さぁ、どうぞ」

「ありがとうございます!」

 私たち三人は、ぞろぞろと研究室にお邪魔した。


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