第30話 加護の活用法


「それにしても、丸薬と言うのは画期的な製法ですねぇ。蜂蜜や山芋を使うなんて、夢にも思いませんでした」

「薬の種類も様々にゃものに対応出来ますし、量り売りも可能ににゃり、買い手も買いやすさを実感出来ます。丸薬は他にも材料が必要ですが、道具も必要です」

「そうですね。ミオの話では、あまり代用できるものはありませんし、製薬には清潔さも大切ですからね。ここは新調するのが一番でしょう。それにしても、明日は丸一日大忙しですね」

「え?」

「商業ギルドには、商業登録とレシピ登録が必要です。勿論、薬の製法と道具の作成レシピです。誰かに真似をされて、利権を主張されては面倒ですからね」

「にゃるほど」


 日本で言う特許だな。

 しかし、かの有名なギルドに行くことになるとは、本格的な異世界デビューにワクワクしちゃう。


「それからまだありますよ。薬師ギルドへの登録が必要です。順番から言えば、こちらが先ですね」

「そうにゃんですにぇ」


 私のデビューの舞台は、商業ギルドから薬師ギルドに変更である。

 私が異世界デビューに思いを馳せていると、エイルさんが纏う気が変わった気がする。


「悠長に構えている場合ではありませんよ?」

「……へ?」

 

 トリップ先から戻ってきた私を出迎えた満面の笑みのエイルさん。


「薬師ギルドに登録する際に、試験があるんですよ」


 目が笑っていない。圧を感じる。嫌な予感がする。


「試験に必要な初歩的な知識を、今晩中に頭に叩き込んでいただきますよ。とりあえず、ミオの実力を測るために、軽く何問か解いていただきます」

「にょんですって!?」


 薬師ギルド。

 登録時に行われる試験の結果で、スタート時のランクが決まる。

 ※ランクにより作れる薬や販売する薬の許可が降りる為、苦学生にとっては今後の人生に関わる一大イベントだ。

 昇級試験は、一年に一度のみである。


「あっ、そうでした。商業ギルドの登録の際に、屋号が必要になります。なんでもいいので、考えておいて下さいね」

「こんにゃ時に、そんにゃ話題を出すにゃ!?」

 

 私が座る机の上には、たくさんの薬草が並び、本が積み上げられていた。


「これを全て覚えるなんて無理よ……」 


 悲痛な顔で同情を誘うつもりのミオだが、残念ながらこの場にいるのスパルタエイルと夢の中に旅立ったジョウだけだ。


「頑張りましょうね?」


 その疑問符を付けた体で、確定している笑みはなんなのさ!?


「ふふっ!」

「にょ~~〜!?」


 あざとい笑いを溢すエイル。おそらく、ミオの顔に浮かんだ不服の文字を読み取ったんだろう。追加で置かれた本を見て、今度こそ、絶望の叫び声が屋敷に響いたのだった。


――――


「酷い目に合わされたようだな」

「喋れにゃい。喋ると、記憶が飛んでいく」


 そういうミオだが、自分が喋っていることに気づいているのだろうか?


「もう頭はおにゃかいっぱいよ。これ以上は出ちゃう。出ちゃうの」


 悩ましげなミオの呪言を聞きながら、世界は今日も、夜が更けて行く。



「あぁ、朝がきちゃった。昨日のやつは、どっか散歩に出かけちゃったの」


 魂を口から吐きながら、絶望するミオ。昨日のやつがなにかは、言わずもがなである。


「まぁ、そう打ちひしがれるな。試験を受けてみんことには分からんだろう?案外身体が覚えていることもある」

「だといいんだけど。私はテスト用紙見て頭真っ白になるタイプだったから」


 本番に強い人が羨ましい。絶対に人生損してたよね、私。苦い思い出に、ほろりと涙が出ちゃう。



「そういえば、加護を授かった者に特別な能力がーつ授けられると聞いています」


 場所は変わって朝食の時間。ゼフさん率いる使用人の方から配膳された朝食を、手取り足取りで食べている。

 うむ。苦しゅうない、近う寄れ。


「はい、そうですよ。もぐもぐ……私は、製作系を頂きました」


 嘘ではない。私の守護者を創造出来る・・・のだ。製作系でも間違いわない。例え、製作回数や製作物が指定でも!


「そうなんですね。ミオはポーション作りも大丈夫ですし、能力値はクラフト系統寄りでしょうかね?」


 それは、錬金釜を言ってます?私自身は、未だ一度もポーション作成したことは御座いません!


「どうでしょうか?まだよく分かりませんにぇ」

「そうだ。昨日はミオのステータスを拝見しましたし、私のステータスを見てみますか?」

「いいんですか!?」


 エルフのステータス!と食いつく私だが、エイルさんは違う反応を予想していたみたい。少しだけ面食らったようだ。次第に目元が緩まり、華が綻ぶ笑みを浮かべた。身構えた笑みは威圧感があるが、自然に浮かんだ笑みは綺麗だった。


「そんなに見たいんですか?別に珍しいものでもないでしょうに。昨日の部屋になりますが、食後でいいですか?」

「はい!」


 私は両手拳を握り、力の篭った返事をする。それを聞いた彼は、またもや愛好を崩してクスクスと笑った。

 私は気付かなかったが、私とエイルさんの会話を微笑ましそうに見ているゼフさんがいたそうだ。


(エルフの主な集落は、クリーク連合共和国にある。この国の賢者をしているのもそうだが、この世界のエルフは金髪だ。エイルの髪は銀髪。銀髪はダークエルフの証だ。だがエイルは、ダークエルフの特徴は髪だけと来た。色々と謎が多そうなエルフだな)

(鑑定で見れば一発にゃのに、見にゃいんだにぇ。少し見にゃおした)


 食事が終わり、今は昨日の部屋へ移動中だ。昼頃には、きっとメダルの認定証が届くだろう。街にお出かけし放題。自由の身。あぁ、待ち遠しい。


(危険な香りがすれば、との昔に暴いてある。だが今のところ、奴にはそれが一切ない。しかも、ガイア様オススメの人物だからな。無碍には出来ん)

(あはは! 神の世界も上下関係は厳しいのにぇ。さて、加護のお話は勿論だけど、もう少しだけ情報が欲しいなぁ)

(そうだな、情報は武器になる。我輩たちには未知の場所だ。いくら情報があろうと困らんからな。それと、ガイア様の加護をそろそろ使用しろ。我輩も全力を持ってミオを守る所存だが、どう転がるか分からんのが人生だ。本格的に動く前に、備えはしておきたい)

(うん、分かった。ちょっと考えてみるね)


 ジョウは私に護衛を創れと言うけど、どうしよう?案はあるんだけど、姿形が思い浮かばない(汗)

 生き物創造とか荷が重いけど、軽く要点を纏めてみよう。

・ジョウは万が一の不備を心配している。

・いざという時に私を護れる生物。それか常時結界の膜を張れる生物。


(う〜ん。私も魔法使えるのに、全っ然出番がない。周囲ばかりが強化されていくのは、気のせいかしら?)

(気の所為ではないな。なんだ?そのような考えが浮かんだということは、加護の活用案が浮かんだか?)

(ジョウの補助的立場の保険が欲しいんでしょ?)

(あぁ。万が一の心配が抜けん。この世界は、恐ろしく命の価値が低いからな。万全に期すのは、当然の備えだ)

(だからさ、危険に晒された時に発動するペンダントとかを考えたんだけど、それじゃ魔道具だ〘いや!発想は間違っていない。そうだな。ガイア様は生物の指定はしていなかっただろう?〙…ちょっと確認してみるね)


 ジョウはなにか浮かんだんだのかな?話の途中で割り込んでくるなんて、普段はあまりやらないからね。

 私はステータスを開き、再度、加護の鑑定を行った。


長くなるので、分けます。


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