第26話 エイルの悪癖

「では、ほんっとうに加護を頂いていているんですね?」


 念押しをするように尋ねるエイルさんは、未だ読み込み処理が停滞中のようだ。話が出来るようになっただけ進歩か。


「はい、そうです。ガイア様とウルシア様から加護を頂いてます。普段は特別にゃ隠蔽で分からにゃいようにしています」

「そうでしたか。隠蔽していないと、危ないですからね。それは正解です」

「はい」

ワフッ当たり前だ!」

「しかし、スキルの数が異常ですねぇ。普通は二つ。多くて四つが上限ですよ? ミオさんは九つ。なにがどうしてこうなったのか?」

「えへ?」


 転生前の人生分も加算されてますとは、言いにくい。日本人必殺! 曖昧に笑って誤魔化せ!


「ふぅ。なんとか落ち着きましたが、心臓に悪い相談事がまだありましたね」

「う?」


 何故、心臓に悪いと決めつけるのか? そう問いただしたいが、少しだけ自覚があるからシラを切るしか出来ない。

 さぁ、まだまだあるぞ。(←ヤケ)


「次はこちらを……」


 私はそう言いながら、鞄をゴソゴソと漁る。 


「まだなにか?」


 相談事じゃないの?って、すっごく嫌そうにしているけど気づいているのかな? エイルさん。私たちが秘密を打ち明けたのは、それなりの理由があるからですよ。なにもないのに、打ち明ける道理はない。そう、ただより怖いものはないんだよ、グフッ。


「ご覧ください!」


 デンッと取り出したのは、例の調薬釜。エイルさんに秘密を打ち明けることになった神具元凶である。


「これはなんです? 見た目は釜のようですが……」

「鑑定してみて下さい」


 さすが賢者。好奇心は人一倍。一度痛い目に遭ったのに、警戒心は薄れ、すぐに食いついてきた。


(ローハン隊長が、『馬に人参を見せれば』発言をした理由が分かった気がする)

(こいつは、知的好奇心が旺盛なんだろう。常人の目盛りを振り切り、遥か高みにいる)

(そんな常識外れみたいに言ったら失礼だよ)

(なにを言う。我輩は褒めていたのだぞ?ハイエルフの血を引く長命種のエルフだ。知的好奇心を満たす時間はたっぷりとある。類は友を呼ぶというが、強ち間違いでもなかったな)

(それ……どういう意味かな?)

(ミオが考えているとおりだと思うぞ)


 こいつ。私は半目でジョウを睨んだが、ジョウはどこ吹く風だ。


「………は? …な……は?」


 私とジョウが意味のない掛け合いをしている間も、絶賛混乱中のエイルさん。

 まぁ、そうだよね。私でもそうなるもん。


 調薬釜は、見た目炊飯器みたいだ。炊飯のボタンのように、色々な機能がある(遠い目)。


 皆様も、もう一度思い出していただこう。


――――――――

鑑定〚調薬釜〛

 創造神ガイアの新神具。その名を調薬釜。薬の製作と知識を搭載した道具。

 ガイアが年甲斐もなく、神力全開で、自重なしで製作した神具。

 自動充魔の不壊が付与されている為、未来永劫可動が可能。

 素材の抽出・分解・合成・製薬ボタンがあり、所持者の負担なく製薬が出来る優れもの。

        ――――――――――


「これはっ、本当に『自分で鑑定しましたよね?』…しましたよ!? しましたが、嘘だと言われたほうがよっぽどっ……」

 

 そう言って顔を覆ってしまった。気持ちは分かる。分かるが、諦めろ。現実は時に非情だ。


「それでですね、私にはこれがあるのでポーションを作る事が出来るんですが『ポーションだけに拘る気じゃないですよね!?』…はい?」 


 ガバっと立ち上がり、長髪の間から覗くは険のある瞳。怖いよ。軽くホラーだよ。さっきまで、現実を受け入れられず悲観に暮れていたのは誰!?


「この釜は、錬金釜と謙遜ない神…じゃなかった! 魔道具ですよ!? た・か・が、ポーション製作で終わらせるわけじゃありませんよね!?」


 出た。研究者の悪い癖。これは、どこの世界も一緒だ。


「たかがポーションって、ポーションは貴重にゃんですよね?ここは辺境。怪我や病気を負った際のリスクについて、痛いほど身に沁みてるんじゃにゃいですか?」


 聖国と薬師ギルドで軋轢が生じているはず。エイルさんが知らないわけがない。

 ただでさえ、市井の一般人は困っているだろう。水面下で争っていると言っても、その余波は必ず生じているはず。それも、社会的弱者に。

 治癒魔法を使える人は少数と聞く。その治癒魔法の使い手を、教会や貴族、富裕層が囲っている。治療を頼めば、その費用はとても莫大だ。財産が飛ぶ人もいるだろう。

 だから、市井に存在する治癒魔法使いは希少で、たとえ軽症の治療だけしか出来なくても、とても重宝されるそう。


♢ 


 ちなみに、現在のポーションの種類と価格がこちら。


低級 売価 銀貨1G 

効能 浅い切り傷や打ち身など軽症度の傷を治す。


中級 売価 金貨1G

効能 剣の深い切り傷や捻挫などの中等度の傷を治す。


高級 売価 大金貨1G

効能 抉られた傷や骨折などの重症度の傷を治す。


特級(別名 神の酒ソーマ

売価 白金貨5枚か応相談・オークション

効能 高級ポーションでは効かない病気にも効果がある。即死以外の病気であれば、殆どが治るとされている。怪我に関しては、向かうところ敵無しである。つまり何でも治る。


超特級1本(別名 エリクサー万能薬)  

売価 国宝級レベル(値付け不可)

効能 特級以上の効果。即死に関しては五分以内なら蘇生可能と言われている。


フリータール王国の一世帯(家族四人)の一ヶ月の生活費は、金貨十枚十万円だ。アターキルのような辺境では、もう少し少ないかも?

 


「つい、研究者としての血が騒いでしまいました。申し訳ありません」

「いいえ。気持ちはよっく分かります。それが、世間一般の反応ですよにぇ」


 うんうん…と菩薩の笑みで頷く私に、エイルさんは、口端が引きつっている。


「何を企んでおいでで?」


 あら?なにかお気づきになりまして?エイルさんの言葉を聞いた私は、ニンマリと笑う。しかし、企むとは失礼な!



   

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