第25話 エイルの懇願

 全快した翌日の朝食時に、私はエイルさんへ面会を申し入れた。

 昨日は、念の為にベッドでの静養を余儀なくされたのよ。

 エイルさんから、少しでも体調に異変を感じたら、すぐにいうように!とのお説教とともに。


「どうしたんです?真贋判定はまだ終了していませんが……」


 用があれば、ララに言ってくれたらいいですよ?と顔に書いてある。研き…んんっ!?真贋判定の邪魔になるのは重々承知なんですが、こちらもエイルさんにとっては、重大だと思うんですよ!


「エイルさんにお話があるんです。真贋判定が終わった後で構わないので、お時間を頂けたらと思いまして」

「私に……ですか」


 敢えて、を強調すれば、エイルさんは少しだけ思巡した後、了解の意を示した。


「分かりました。では早速、この後にいかがでしょう?」

「…っ!分かりました。おにぇがいします」


 まさか、すぐに時間を明けてもらえるとは思ってなかったよ!さっさと終わらせたい魂胆が透けて見えるよ、エイルさん!

(ミオの言う通り、大人しく真贋判定後にすれば良いものを)

 ジョウはジョウで、苦虫を噛み潰したような顔をしている。お鼻にシワが寄ってますよ。


「さて、お話とやらを伺いましょうか?ミオさん」


 お互いが対面になるようにソファに座る。ジョウは、私のお膝にいますよ。


「はい」

 と答えながらも、エイルさんの後ろに立つゼフさんが気になった。


(えっと、ゼフさん込みで話す?)

(それは、エイルが聞いた後の判断に任せる。とりあえずは人払いをしてもらえ)

(うん)


 そうだよね。ゼフさんはエイルさん家の執事さんだし、私たちが決めることではない。そう決めて、口を開こうとした瞬間。


「ゼフ。すみませんが、私が呼ぶまで退室して下さい」

「畏まりました」

 

 エイルさんがこちらの意図を悟って、人払いをしてくれた。


「さて、これで始められますか?」

「ありがとうございます。では早速……単刀直入に言います。私を精細鑑定をして下さい」

「え?」


 呆けた顔のエイルさんだったが、すぐに持ち直した。


「ミオさんの精細鑑定って……本気で言っていますか?」


 エイルさんの視線は鋭く、精細鑑定の厄介さが垣間見えた。それも納得の反応だけどさ。これから話す内容より、よっぽど現実性はあると思うよ?

 まぁ精細鑑定なんて、奴隷落ちした人のステータスを見るのに利用するくらいだもんね。(ウルシア様の資料より抜粋)


「はい、もちろん。ステータスを見れば、これから話すことの理解が早いと思いますから」


 精細鑑定。それは、一個人の情報全てが丸裸になる鑑定方法だ。

 通常鑑定スキルを持つ人でも、全てを見通すのは至難の業。精々見られるのは、名前と年齢、種族や職業ぐらいだ。最上位のレベルに到達すれば、スキルなども見れるらしいが。果たして、その領域に到達出来る寿命を持つ種族が、どれくらいいるだろうか?


「分かりました。ですが、精細鑑定を幼子に施したとなれば、私の将来が絶たれます。精細鑑定に似た魔道具がうちにありますから、一先ずは、それで手打ちにしてくれませんか?」

「……はい」


 手打ちと来たか。お願いしたのはこちらなのに、縋るようにお願い返しをされてしまった。

 精細鑑定、恐るべし!

 エイルさんの未来が絶たれるって、どんだけ世間の評判がエゲツナイの!?こんな反応じゃ、冒険者ギルドとかってどうやって登録しているんだろう?

 


「よいしょ!……こちらが、その魔道具ですね」

 隣の部屋に行ったかと思えば、なにやら重たそうな機械を抱えて戻ってきた。


「ここに、乗っていただけますか?」


 床に接するように平行になった台を指差し、そこに乗れという。


「分かりました」


 いや。よく分からないよ?だがここは、大人しく付き合おう。私が台に乗れば、〘対象の探知を確認〙と声が聞こえて一瞬ビビる。


「では、囲いますね」

「へ?」


 エイルさんの言葉に、私は間の抜けた声が出た。ひょっとして、レントゲンの簡易版?持ち運び可能?往診のお医者さんが使う奴!全員のお医者さんが持ってるか知らないが、私は見たことがあった。


「少し光ったり音がなったりしますが、害はありませんから安心して下さい。ミオさんは、その場に立っているだけで構いませんから」

「はい」


 害があったら怖いわ。全力で拒否るよ。エイルさんの未来が絶たれようと、精細鑑定を選択するよ、あたしゃ。


「……よし!終わりましたよ!囲いを外すので、しばらくそのままでいてください」

「はい」


 ピピッ、ジジッと、なにやら外野で音がなっている。案外、私の鑑定結果が印字されてたりして。


 ミオの読みが当たり、外ではジョウが匂いをふんふん嗅いでいたりする。敵情視察かな?ジョウ。



「……」

「……」


 鑑定を終えた室内は静寂が場を支配していた。なんびとたりとも乱すことは許されない。そんな気配をひしひしと感じるのは、目の前に座るエルフが原因かもしれない。


 私の予想が当たった鑑定結果を印字した紙は、今現在、谷よりも深い眉間の皺を刻んだエルフ様が手に持っていた。

 あの……日に透かしても、机に擦り付けても、挙げ句放り捨てても、結果は変わらないと思いますけど。


「もう一度『嫌です』……何故ですかぁ!?」


 いや。逆に聞くけど、鑑定道具は精度が命だよね?それが間違ってましたぁ…なんて、軽々しく言えるような造りで売り出すわけないでしょ?

 そんなことしてたら、苦情出まくり。魔道具回収で負債がドーン!だよ?

 信じがたいのは分かるけど、一旦飲み込んでくれないかなぁ?じゃないと、話が始められないよ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る