第24話 二人の秘め事

 きゅう?……きゅ!


「可愛い……」


 衝撃の出会いから明けて翌日。私はすっかり見慣れたきゅうちゃんと、旗揚げゲームをしている。

 ちっこい手足を動かし、私の動きを模倣している。


「熱は大丈夫なのか?」

「うん!頭もスッキリしてるし、身体も元気!」


 両腕をあげて元気アピールをしますが、ジョウは怪訝な表情をします。


「お前の元気は信用ならん。昨夜は皆が心配して、世話をかけたからな。ちゃんと礼を言えよ」

「分かってるよぉ」


 信用ならんって、そりゃないんじゃないの?幼児は突然体調崩したりするもんなんだよ!むぅ。


「きゅう?」

 私が剥れていると、きゅうちゃんは羽を羽ばたかせ、大丈夫?と心配そうに近寄ってきた。


「大丈夫だよぉ、きゅうちゃん!」


 あぁ、見てよ。 

 この純真無垢な瞳! 疑うことを知らない清らかさ! ジョウとは大違いよ。

 私は込み上げる愛しさを胸に、きゅうちゃんを優しく抱き上げた。


「きゅきゅう!」


 抱っこに嬉しそうに左右に揺れるきゅうちゃんも、かわゆす!


 水色のふわふわ綿毛を纏った丸っこさ。サッカーボールくらいの大きさで、背中には小さな羽があり、色は綿毛と同じ。現在も、その羽を懸命に羽ばたかせている。微妙に浮くが、それを手足を使って上手く歩行に生かしている。


 短く細い手足もカワヨ。でもあの手って、頭頂部に届くのかな?痒いときとかに掻けないって超地獄だ。

 そして、昨夜の私に一番の衝撃を齎したのが尻尾である。球体のまんまるお尻から細長く伸びている尻尾。見た目は♠のような形だ。日本では、悪魔の尻尾で通るだろう。


 そんな風貌だから、昨夜はビックリだよね。鳥が生まれるって聞いてたのに、鳥の要素は鳴き声と羽と足?

 ジョウが言うには、カーバンクルの個体種だろうって話。その理由の一つは、額に輝く水色の宝石。しかし、なぜだろう・・・なのか。獣神見習いのジョウでさえ、はっきりとしたことが分からないらしく、言葉を濁された。

 私も鑑定をしてみたんだけど、残念ながら全ての項目がerror表示になるんだよ。ほんとに謎。こればっかりは、教会でウルシア様たちに聞かなきゃ分からない。

 


「ミオ様、起きておられますか?」


 はっ!?もうそんな時間!?なんの準備も出来てない!むしろ、きゅうちゃんどうしよ!?

 返事も出来ず、きゅうちゃんを抱えたまま右往左往。そんな私に、ジョウが一鳴き一声


ウォンウォンきゅう、主の影に入れ!」

「きゅ!」 


 ジョウの一声に、心得た!と言わんばかりに答えると、するんっと腕から抜け落ち、影にしゅぽん!……セルフフリーフォールですか?


(お前はベッドに入れ!)

(らじゃ!)

 私はつまらぬボケを放棄して、即座にベッド・イン!


「ジョウ?起きてるの?」


 ララさんが、扉を少しだけ開けた。


「ララさん、おはようございます」


 ジョウはベッドに手を掛け、私を起こしていたていの格好をしている。


「まぁ、ジョウ。ご主人様を起こしていたの?偉いけど、ミオ様のご様子はどうかしら?」

「ララさん、昨夜はありがとうございました。おかげさまで、すっかり良くにゃりました」

 頭を下げて、感謝を伝えた。


「それはようございました!朝食は、軽めのスープをご用意していますが、食べれますか?」


 華が咲くような笑顔で喜んでくれたララさんは、私の食欲を尋ねた。


「はい、お願いします」

「ではお持ちしますね。少々お待ち下さい」


 そう言って、部屋を退室したララさんを見送り、私はジョウに向き直った。


(ジョウ!きゅうちゃんを影にやって大丈夫!?テイマーによく聞くスキルだけど、私はテイマーじゃないよ!?)

(はぁ……テイマーの定義から講義が必要か?そもそもテイマーというのはスキルから生まれた職業であって、お前の職業ではないだろう。きゅうも、今は幼く喋れぬが、我輩たちの言っていることは理解している。私は護衛という役目上一緒にいるが、きゅうとて、ミオの魔力で孵った。いわばミオの子だ。子が親といるのに、理由がいるか?たまたま種族を越えた関係だと言うだけだろう?我輩から言わせれば、契約に縛られた関係など真っ平御免だ)


 まぁ……きゅうが影に入れるかは賭けだった。入れなければ、ベッドの中にでも突っ込んだが。それはミオには内緒だ。こいつは絶対に文句を溢すからな。


(そう言われたら、言えることは少ないけど。とりあえず、エイルさんへのお披露目は必須かな?従魔契約は、人々の暮らしに欠かせない決まりごとだし)

(はぁ……仕方ないこととは言え、気が重いな)


 エイルが大興奮するのは間違いない。我輩は煩いのは好かん。だが、我輩はあることを思い出してミオに告げる。ガイア様が夢で見せてくれたある本に、こんな記述があったのだ。


(いっそ、転生者だと白状すれば良いのではないか?いつか見た魔従族に関する夢の中で、文献に、魔従族が異世界人じゃないかという推測の記述があったぞ?)

(なんでそんな後出しみたいに言うのかな?)


 訝しげに我輩を見るミオに、忘れていたなどとバカ正直には言わない。


(聞かれなかったし、必要ないと思ったからな。本人の希望は、あくまで平凡に暮らしたいとのことだったからな。今のところ、真逆に進んでるがな)


 おにょれ……と悔しがるミオに笑いが出たが、それもすぐに萎えた。

 エイルにすれば、魔従族が異世界人だったかもしれないという新情報がもたらされることになる。これで歓喜するなという方が無理だ。

 

「失礼します。朝食をお持ちしました」

「はい、どうぞ」


 とほほ……としょぼくれた我輩の気持ちが分からないミオは、不思議そうな表情をしながらも、ララを迎えいれるのだった。

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