第4話 いざ、出陣

 きゅう?……きゅ!


「可愛い……」


 衝撃の出会いから明けて翌日。私はすっかり見慣れたきゅうちゃんと、旗揚げゲームをして遊んでいる。ちっこい手足を動かし、私の動きを一生懸命模倣している…もゆる。


(さぁ…エイルに話す事が一つ増えたな)

「うっ!?」

 認めたくない現実を突きつけるジョウと入れ替わりたい。

「きゅう?」

 私がうめき声を上げると、きゅうちゃんは一生懸命に羽を羽ばたかせ、大丈夫?と心配そうに近寄ってきた。


「大丈夫だよぉ、きゅうちゃん!」

 私はそれを見て感極まる。だって、見てよ!この純真無垢な瞳!疑うことを知らない清らかさ!ジョウとは大違いよ。私は込み上げる愛しさを胸に、きゅうちゃんを優しく抱き上げ頰をすりすり。


「きゅきゅう!」

 嬉しそうに左右に揺れるきゅうちゃんがかわゆす!


 水色のふわふわ綿毛を纏った丸っこさ。サッカーボールくらいの大きさで、背中には小さな羽があり、色は綿毛と同じ。現在も、その羽を懸命に羽ばたかせている。微妙に浮くが、それを手足を使って上手く歩行に生かしている。


 短く細い手足もカワヨ。でもあの手って、頭頂部に届くのかな?痒いときとかに掻けないって超地獄だ。

 そして、昨夜の私に一番の衝撃を齎したのが尻尾である。球体のまんまるお尻から細長く伸びている尻尾。見た目は♠のような形だ。日本では、悪魔の尻尾で通るだろう。


 そんな風貌だから、昨夜はビックリした。鳥が生まれるって聞いてたのに、鳥の要素は鳴き声と羽と足?

 ジョウが言うには、カーバンクルの個体種だろうって話。その理由の一つは、額に輝く水色の宝石。しかし、なぜだろう・・・なのか。獣神見習いのジョウでさえ、はっきりとしたことが分からないらしく、言葉を濁された。

 私も鑑定をしてみたんだけど、残念ながら全ての項目がerror表示になるんだよ。ほんとに謎。こればっかりは、教会でウルシア様たちに聞かなきゃ分からない。

 


「ミオ様、起きておられますか?」

 はっ!?もうそんな時間!?なんの準備も出来てない!むしろ、きゅうちゃんどうしよ!?

 返事も出来ず、きゅうちゃんを抱えたまま右往左往。そんな私に、ジョウが一鳴き一声


ウォンウォンきゅう、主の影に入れ!」

「きゅ!」 

 ジョウの一声に、心得た!と言わんばかりに答えると、するんっと腕から抜け落ち、影にしゅぽん!……セルフフリーフォールですか?


(お前はベッドに入れ!)

(らじゃ!)

 私はつまらぬボケを放棄して、即座にベッド・イン!


「ジョウ様?起きてますか?」

 ララさんが、扉を少しだけ開けた。

「ララさん、おはようございます」

 ジョウはベッドに手を掛け、私を起こしていたていの格好をしている。


「まぁ、ジョウ様。ご主人様を起こしてくれたんですか?」

「ガゥ」

「ララさん、おはようございます!」

「おはようございます、ミオ様。まもなく朝食の時間ですが、どう致しましょう?こちらに運ぶことも出来ますが…」

「エイルさんに話もありますし、食堂へ行きます」

「畏まりました。では、準備を整えましょう」


 食堂へ行く為に着替えを手早く済ませ、髪を解いてくれたララさんに誘われ、食堂へ歩を進めた。


(ジョウ!きゅうちゃんを影にやって大丈夫!?テイマーによく聞くスキルだけど、私はテイマーじゃないよ!?)

(はぁ……テイマーの定義から講義が必要か?そもそもテイマーというのはスキルから生まれた職業であって、お前の職業ではないだろう。きゅうも、今は幼く喋れぬが、我輩たちの言っていることは理解している。吾輩は護衛という役目上一緒にいるが、きゅうとてミオの魔力で孵った。いわばミオの子だ。子が親といるのに、理由がいるか?たまたま種族を越えた関係だと言うだけだろう?我輩から言わせれば、契約に縛られた関係など真っ平御免だ)


 まぁ……きゅうが影に入れるかは賭けだった。入れなければ、ベッドの中にでも突っ込んだが。それはミオには内緒だ。こいつは絶対に文句を溢すからな。


(そう言われたら、言えることは少ないけど。とりあえず、エイルさんへのお披露目は必須かな?従魔契約は、人々の暮らしに欠かせない決まりごとだし。仕方ないこととは言え、気が重いな)


 エイルが大興奮するのは間違いないが、我輩は煩いのは好かん。だが、我輩はあることを思い出してミオに告げる。ガイア様が夢で見せてくれた内容に、こんなことあったのだ。


(いっそ、転生者だと白状すれば良いのではないか?ウルシア様も、魔従族は転生者だと言っていただろう?エイルはウルフだ。魔従族の研究が専門だったなら、もしかしたら知っているのではないか?)

(そうだね…取り敢えず、長い日になりそうだ)


 深い溜息を吐くミオを、吾輩は見つめた。

 エイルにすれば、魔従族が異世界人だという情報を得ているかもしれないが、その情報の信憑性が上がる…いや、末裔が証言するのだから確定となる。これで歓喜するなという方が、研究者には無理な相談だ。

 


「失礼します。ミオ様とジョウ様をお連れしました」

「どうぞ」

 エイルの声が聞こえ、ララは扉を開いた。


――決戦の幕が降りようとしていた。

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