第3話 卵の誕生 

「ゆっくり休めましたか?」 

 長いテーブルの誕生席に座り、優雅に食す美エルフエイルさん


「はい、お風呂も昼寝もばっちりです!」

 あぁ…企みがある訳では無いのに。この疚しい気持ちは。必要のない張り切りがから回る。


「それは良かったです。さっ、食事も楽しんで下さいね。我が家一押しシェフのお手製ですからね」

「ありがとうございます」

「がぅ!」

 私は、エイルさんの斜め左隣に座っている。料理は肉に魚と野菜、全ての種類が一度に出されていた。


「ミオ様。食べたいお皿はどれでしょうか?お取り致します」

「あにょ、お肉をお願いします」

 ララさんが隣に来て、給餌してくれている。なんせ腕が短いから、机の上を汚しかねない。コップに当たっても危険だしね。ここは、甘んじて受ける所存。


「畏まりました。こちらのサラダはどうですか?」

「……おにぇがいします」


 本当に、ただの野菜盛りだね。嫌とは言えない、小心者の私。あぁ、ドレッシングやマヨネーズが欲しい!この場で出しちゃいたい!

(気持ちは分かるが、今日は我慢しろ)

 私が多少身動ぎすれば、ジョウに念話で止められる。


「他には、なにをお召し上がりになりますか?」

「果物をおにぇがいします」

 この世界の味付けは塩以外に、胡椒や砂糖だけらしい。料理法も、生か焼くか煮るかの三刀流。

 我儘を言うわけではないが、あまり食欲がない。果物で終わりにしよう。


「他には、なにかお召し上がりになりますか?」

 オウムのように、繰り返し問われるとちょっと怖いよね。

「もうおにゃか一杯です。ご馳走様です」

 椅子から降りようと机に手を付くが、やはり少々高い。

「降ろさせていただきますね」

「ありがとうございます」

 私はララさんに抱っこされ、椅子から無事に降り立った!



 夜も更けた丑三つ時。

 辺りは当然ながら、真っ暗くろすけ。

 そんな闇夜の一室で、動く物体が一つ。ゴソゴソ…ゴゾッ…。そしてそんな音に目覚め、動く影が更にもう一つ。 


「なんだ?なんの音だ?」


 キュ?……キュウ?


「鳴き声か?」


 キュ…。


「……まさか、今なのか?ミオは……寝ているか」


 ジョウは、雛の鳴き声に一つの心当たりを浮上させた。それは、ガイア様のお詫びの品である迷彩卵ロストカラーエッグ。明るければ魔力視も役に立つが、今は闇に紛れややこしい。


 キュウ!

 『当たり!』とでも言いたげに羽根を羽ばたかせている音が響くが、悲しいかな。羽根の辿々しさが、飛ぶのは先になることを知らせる。


「……にゃぁにぃ?」

 雛の甲高い鳴き声は、熟睡していたミオも叩き起こした。

「起きたか、ミオ」

「…ジョウ?」

 やだ、暗闇で目が光って怖いんですけど。食べられないと分かっているけど、捕食される側はこんな気分なのか。


「なにを考えているか知らんが、早く灯りを唱えろ。どうやら、卵が孵ったようだ」

 私とジョウが言葉を交わす間も、キュウキュウと留まるところを知らない雛。


「え?卵が?……『灯りよ』……マジ?」

 明るくなった室内で、ぴょこぴょこと可愛らしく歩く様は、正に雛!

 だがその風貌は、普通の雛とは一線を画したものだった。


『生まれてくる種類は、主人の魔力で決まると言われているわ』とのウルシア様の説明を思い出すが、この異世界にこんな生物が?

 驚きに固まる私は、閉口したまま固まった。ジョウも、発言どころか念話さえもなく。しばらくの間、ひなの鳴き声が室内を支配した。


「…は!?ミオ!「迷彩卵ロストカラーエッグの殻を鞄に仕舞っておけ!」

「分かった!」

 殻には栄養があるから、なにかに使えるかもしれないもんね。私は急いで全ての殻を鞄に収納した。

 これが、後にエイルさんを助けることになるとは知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る