第23話 卵の誕生

「ゆっくり休めましたか?」 


 長いテーブルの誕生席に座り、優雅に食す美エルフエイルさん


「はい、お風呂も昼寝もばっちりです!」


 あぁ…企みがある訳では無いのに。なに、この疚しい気持ち。必要のない張り切りがから回る。


「それは良かったです。さっ、食事も楽しんで下さいね。我が家一押しシェフのお手製ですからね」

「ありがとうございます」

「がぅ!」


 私は、エイルさんの斜め左隣に座っている。料理は肉に魚と野菜、全ての種類が一度に出されていた。


「ミオ様。食べたいお皿はどれでしょうか?お取り致します」

「あにょ、お肉をお願いします」


 ララさんが隣に来て、給餌してくれている。なんせ腕が短いから、机の上を汚しかねない。コップに当たっても危険だしね。ここは、甘んじて受ける所存。


「畏まりました。こちらのサラダはどうですか?」

「……おにぇがいします」


 本当に、ただの野菜盛りだね。嫌とは言えない、小心者の私。あぁ、ドレッシングやマヨネーズが欲しい!この場で出しちゃいたい!


(気持ちは分かるが、今日は我慢しろ)


 私の顔に書いてあったんだろうね。私の思いは、ジョウで堰き止められる。


「他には、なにをお召し上がりになりますか?」

「果物をおにぇがいします」


 この世界の味付けは塩以外に、胡椒や砂糖だけらしい。料理法も、生か焼くか煮るかの三刀流。

 我儘を言うわけではないが、あまり食欲がない。果物で終わりにしよう。


「他には、なにかお召し上がりになりますか?」


 オウムのように、繰り返し問われるとちょっと怖いよね。

 

「もうおにゃか一杯です。ご馳走様です」

 

 椅子から降りようと机に手を付くが、ズリッと滑ってしまった。

「あっ『ミオ様!』…すみません」

「いいんですよ……って、お身体が熱いですよ!?」

「…え?」

 あまり頭が働かないなぁ。重いなぁとは思っていたけど……熱?まさか、お布団で寝て安心しちゃったかな。それとも、知恵熱?

「…オ様!…様!?」

がぅミオ!?」

「すぐに部屋へ!」

「はいっ!」

 周りがバタバタと騒がしくなる中、私の意識は再度沈み込んでいった。今日のララさんとの最後、こんなんばっかだな。


「ここに来るまで野営だったそうですから、安心して身体の疲れが出たのでしょう。賢く振る舞っていても、やはり子供ですね。無理は禁物だということを、全快したら教えなければ。ララ、看病を頼みます。なにかあれば知らせて下さい」

「畏まりました」


 一先ずの処置を済ませた私は、食堂へと足を向けた。


「ミオ様は大丈夫でしょうか?」

「分かりませんが、鑑定での異常は発熱のみです。様子を見ながら対応するしかありません」


 賢者であるエイルは、もちろん医療の知識も持ち合わせていた。

 ミオを医療鑑定したところ、状態異常は発熱のみだった。今すぐ出来るのは、目覚めた時の下熱作用のある薬湯を飲ませるのみ。ヒールなどの治癒魔法も出来るが、幼い身体には逆に負担がかかるだけだ。


「畏まりました」


 全ての事情を弁えているゼフは、了承の意を示すのみだった。



 夜も更けた丑三つ時。

 辺りは当然ながら、真っ暗くろすけ。

 そんな闇夜の一室で、動く物体が一つ。ゴソゴソ…ゴゾッ…。

 そしてそんな音に目覚め、動く影が更にもう一つ。 


「なんだ?なんの音だ?」


 キュ?……キュウ?


「鳴き声か?」


 キュ…。


「……まさか今なのか?ミオは……寝ているか」


 ジョウは、雛の鳴き声に一つの心当たりを浮上させた。それは、ガイア様のお詫びの品である迷彩卵ロストカラーエッグ


キュウ!

 『当たり!』とでも言いたげに羽を羽ばたかせているが、悲しいかな。まだまだ飛ぶのは先になりそうだ。


「……にゃぁにぃ?」


 雛の甲高い鳴き声は、発熱でぶっ倒れたミオさえも叩き起こす。


「起きたか、ミオ」

「その声はジョウ?」


 やだ、暗闇で目が光って怖いんですけど。食べられないと分かっているけど、捕食される側はこんな気分なのか。


「なにを考えているか知らんが、早く灯りを唱えろ。どうやら、卵が孵ったようだ」


 私とジョウが言葉を交わす間も、キュウキュウと留まるところを知らない雛。


「え?卵が?……『灯りよ』……マジ?」


 明るくなった室内で、ぴょこぴょこと可愛らしく歩く様は、正に雛!

 だがその風貌は、普通の雛とは一線を画したものだった。


『生まれてくる種類は、主人の魔力で決まると言われているわ』とのウルシア様の説明を思い出すが、この異世界にこんな生物が?


 驚きに固まる私は、閉口したまま固まった。ジョウも、発言どころか念話さえもなく。しばらくの間、ひなの鳴き声が室内を支配するのだった。

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