第21話 ガイアの失態


「ふぅ、さっぱりした」


 お風呂を終えた私は、ララさんに髪を乾かしてもらっている最中だ。


 ララさんは、朱色の髪に茶色の瞳の女性だ。髪は腰まであると思う。

 今は、ポニーテールにしているから、束の先は肩甲骨辺りだ。


 それにしても、魔道具のドライヤーって素敵!電気代の変わりの魔石だけど、一度購入すれば、後は自分の魔力を補充自家発電すれば良いんだもんね。魔道具代はお高めだけど、維持費がかからないのは魅力的。初期投資だけでいい。


 お風呂?お風呂は広くて、とても気持ちよかったです、ハイ。


(我輩も洗われてしまった)


 暗いオーラを漂わせて、力なく横たわるジョウに、にしし…と手を口に翳す私。


(ララさんが、ジョウの人化を見れば赤面ものかもね)

(なにを言う。使用人というのは、それが仕事だ。裏では恥ずかることはあっても、仕事中にそれはない)


 真面目くさった顔で話すジョウ。まぁ確かに、人の死ごてに茶々を入れては失礼か。


(あまり憶測で物を言うものではないぞ、ミオ。自身の評価が下がるだけでなく、場合によっては、信頼関係がこじれるぞ)

(分かったよ)


 世界は広いようで狭い。縁とは不思議なもので、どう繋がっているか、予測がつかないんだ。口は災いの元。どこでどう転がり巡ってくるか、本当に分からない。


(全く……)


 私の返事を聞いたジョウは、呆れながら息を吐いた。


(ねぇ。そのクッションは、どうしたの?)


 ジョウの腹の下にある大きなクッション。それに気付い私は、ジョウに尋ねた。


(これか?これは、この屋敷の方の好意で用意してくださった吾輩専用のベッドだ)


 誇らしげに尻尾を揺らし、満更でもない様子で語るジョウ。


(ふぅん、良かったね。まぁ、私にはふかふかベッドが待ってるし!)


 こんな豪邸なのだ。ベッドへの期待値も上がるというもの!

 ジョウに張り合うのもどうかと思うが、悲しいかな。張り合う相手がいないざんす。




 そんな下らない話で盛り上がって?いた頃。

 エイルさんの執務室では、ゼフに対するミオたちの事情説明をなされていた。もちろん、魔従族のことは伏せられて。


「では、その真贋判定終了と認定証発行までは、屋敷に滞在されるのですね?」

「えぇ。メダルが本物なのは間違いありませんが、もう少し詳細な鑑定が必要です。ジョウはミオの護衛です。私のリードスキルを使って従魔契約をしていますが、命令権はありません。2人とも私の客人として、失礼のないようにお願いします」

「畏まりました」


 セブのミオに対する評価は、大人しめの女の子という認識だが……これから巻き起こる騒動など、全く予想していなかった。



「ミオ様、ジュースが届きましたよ」

「ありがとうございます」


 扉がノックされたと思ったけど、ジュースの配達だったのね。ララさんに手渡され飲むジュースは、一級品だった。フワフワと夢心地なのは、美味しさのせい?


(少し寝ろ)

(…え?) 


 ジョウの言葉と同時に浮き上がる身体。あぁ…まだジュースが残ってる。お残しは勿体無い。


「ミオ様。夕食の時間に呼びに参りますので、少々お休み下さいませ」


 どうやら、私の意図せぬところで電池切れを起こしたらしい。あぁ、ララさんって以外と力持ち。


(うん、おやすみ)


 声にならない呟きを漏らし、私の意識は沈んでいった。



「復活!」


 ジャンッとベッドに立ち上がり、ピースをする。


(起きたか。ぐっすり寝ていたな)


「うん。大人の感覚でいたけど、やっぱり子供の身体は燃費悪いにぇ。ダルかったけど、疲れが溜まってたみたい。今はスッキリしてるよ」


 両腕を動かし、元気なアピールをかかさない。


(元気になったのなら重畳。夕方まではもう少しあるが、どうする?)


「う〜ん。中途半端にゃ時間だけどやることもにゃいし、ガイア様から言われてた調薬スキルを鑑定してみようかにゃ?」

(鑑定なら、すぐ終わるだろう。いいんじゃないか?)

「だよにぇ!ステータスオープン!……鑑定!」 


【名前 ミオ・テラオ

 魔力量 200000

 属性 火 水 風 土

スキル 行儀作法4 事務処理5 商談4 体術4 剣技3 語学4 MAP1 鑑定1

 ユニークスキル転生のお詫び 言語理解 インベントリ 調薬 特別隠蔽

 称号 転生者 創世神ガイアの加護 女神ウルシアの加護】


 久々に見た気がするなぁ、このステータス。それにしても、調薬はどんなスキルになってるのかな?


鑑定〚調薬〛

 転生者ミオ・テラオのために創り出された新スキル。

 

「ん?」


 この調薬スキルは、転生者の前世の職業〚調剤師〛を模倣して創られたもの。


「ん?」


 本来の日本での製薬過程は、工場・・で、原料の保管・品質検査・秤量・乾燥・造粒・混合・検査のように、様々なプロセスがあり、検査も数回厳しく行われています。

 そもそも調剤師とは、医師が発行した処方箋に沿って、薬品会社から仕入れた・・・・・・・・・・薬を調剤し、患者さんに渡す仕事です。

 だが調子に乗ったガイア様は、己の想像で職種内容を判断し、転生に調剤スキルを授けた。転生者へのスキルの創造を、〚調剤師と同じように薬を扱うこと〛としました。


(『調合レシピから薬効、更に材料の詳細情報までを網羅したスキルじゃ』ガイア様のスキル説明が蘇る。確かに調剤師と似たスキルのようだけど、聞き方によっては、知識・扱いに特化したスキルのようにも思える)

 

 ここでのガイア様の誤算は、転生者の世界と認識のズレがあったことです。

 転生者の世界では〚薬を作るのは工場(一部除く)で、調剤師は医師の指示に従い(偶に意見を出す)、薬の調合・確認・説明を行う〛という真実を知り、大いに慌てました。

 そりゃそうでしょう。転生者ミオは、既に神界から送り出した後ですから。


 唯一の救いは神界と下界のタイムラグだが、ここでも致命的ミスを犯すガイア様。挽回するつもりで、製薬スキルを授けるつもりが、これ以上のスキル付与は身体が悲鳴を上げるため、弾かれます。時間が迫っていた為に、更に慌てるガイア様。それならばと、製薬魔道具と調薬を一纏めにしたスキルを開発。神力全開で、自重なしの調薬釜を作ってしまいます〛


「ガイア様も、以外におちょこちょいにゃところがあるんだね」


 鑑定結果を読み終えた私は、呆然としながらそんな感想を呟いた。


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