第三章 生活拠点

第1話 エイルさんのお屋敷 

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本文。


「ここが、私の家になります」


 そう言って立ち止まった場所は、ドデカイ屋敷が建っていた。

 屋敷だと聞いていたが、ここまでとは。賢者って儲かるの?この規模は、貴族と言っても不思議ではない。

 堅牢な煉瓦造りの二階建て。

 お庭も広く、中庭を囲む様に、コの字に建てられている。


「旦那様!おかえりですか?」


 私たちがいる門から遠く離れた玄関で、誰かの声が聞こえた。旦那様って、エイルさんかな?


「なにを騒いでいるのですか?ゼフ」 


 おぉ!この人がゼフさんか。ローハン隊長が言っていた、エイルさんの執事さんか。

 シルバーグレイの髪を後ろに撫でつけ、オールバックだ。出来る執事みたいでかっこいい。日本で見たことがある執事服を着ているが、私は不思議な点に気づく。前から見ただけであるが、服にシワが一つもない。


(すげぇ!髪型もそうだけで、服からもやり手の匂いがする!)

(ふむ、隙がないからな。戦闘も得意だろう。しかし、良い家だな。結界も張ってあるし、セキュリティはバッチリだ。庭も広そうだし、ストレスなく過ごせるな) 


 前脚で顔を拭いながら、満足そうに念話で話すジョウ。チャリチャリと、首元に掛けられた従魔の印が鳴る。東門の詰所を出る際に渡された従魔の印は、水色のガラスで出来ていた。長方形の形をして、真ん中には✡の金色のマークが彫られている。 


「お日様にょ光に輝いて、キラキラしてるよ。きれぇにぇ綺麗ね

(ふんっ!邪魔くさくて敵わん!)


 そっぽ向いてるけど、尻尾は嘘つけないからね?無駄な抵抗は止めて、素直に認めたまえ。


「ルイ様から連絡を受けまして、準備は整えてございます」

「ありがとうございます。詳しいことは中で話しますか。ミオさんたちもどうぞ」

「お邪魔します!」

「ガゥ!」

「ようこそ、マグワイア邸へ」


 アプローチの部分を歩きながら、庭に咲くたくさんの花を見る。

 きっと腕の良い庭師さんが手入れしているんだろう。花と花が喧嘩すること無く、程よい位置に植えられている。


「花が気になりますか?」

「はい。とてもいい香りで癒されます」

「ふふふ。まだ四歳なのに、既に疲れているんですか?」

「ここ三日程は野営だったので、フカフカお布団が恋しいです。お庭の芝生に転がりたいです。お日様ポカポカ」


 お布団のフカフカ手触りを想像して、手がワキワキと動いちゃう。


「ふふっ。では今日は、ぐっすり寝る前にお風呂に浸かって、疲れを取って下さいね」

「はい!ありがとうございます!」

「さぁ、こちらからお入り下さい」

 

 開け放たれた玄関を潜ると、そこは別世界。メイドさんが両脇に並び「おかえりなさいませ」と一糸乱れぬ洗練された動きに、私は見惚れてしまう。


「うわぁ~」


 玄関ホールから二階へ続くのは、優雅な曲線を描いたサーキュラー階段。この階段は、広い敷地があるからこそできる設備。

 玄関も広く、ヒールでコツンっと鳴るだろう床は、大理石が一面に敷かれている。中二階から降り注ぐ日光を浴びて、燦然と輝きを放っている。


「うひょ〜」


 中二階にある踊り場は、多角形の形をして両側の建物と繋がります。

 天井までを吹き抜けにしており、とても開放感がある造り。

 

「綺麗な所ですにぇ」

「ふふっ、ありがとうございます。元々は、誰も住まなくなって放置されていた邸宅なんですよ?頑張って、リフォームしたかいがありました」

「ほぉ〜!ではこのお屋敷のセンスは、エイルさん好みにゃんですね!私は好きです」

「ふふっ。庭の花同様、屋敷も気に入っていただけてなによりです。後ほど、皆を紹介しますね」

「ありがとうございます!」

 

 庭にある東屋とか、正に貴族って感じ。お茶会とか楽しそうだ。


「ミオ様の専属メイドを任されましたララと申します。お部屋の前に浴実へご案内致します」


 玄関で出迎えてくれたメイドさんが一人前に出てきた。どうやら彼女が私のお世話役さんらしい。


「お願いします、ララさん」

「ララとお呼び下さい」

「歳上の方ですし、私はさん付けが安心です」

「畏まりました」


 私は小心者の庶民ですからね。初対面の人を呼び捨ては無理。出来るだけ、ララさんの仕事を奪うことはしないように心掛けよう。




「ふぅ、さっぱりした」


 お風呂を終えた私は、ララさんに髪を乾かしてもらっている最中だ。


 ララさんは、朱色の髪に茶色の瞳の女性だ。髪は腰まであると思う。

 今は、ポニーテールにしているから、束の先は肩甲骨辺りだ。


 それにしても、魔道具のドライヤーって素敵!電気代の変わりの魔石だけど、一度購入すれば、後は自分の魔力を補充自家発電すれば良いんだもんね。魔道具代はお高めだけど、維持費がかからないのは魅力的。初期投資だけでいい。


(我輩も洗われてしまった)


 暗いオーラを漂わせて、力なく項垂れるジョウに、私はにしし…と手を口に翳す。


(ララさんが、ジョウの人化を見れば赤面ものだね)

(なにを言う。使用人というのは、それが仕事だ。裏で恥ずかることはあっても、仕事中にそれはない)


 先ほどのオーラを一転し、真面目くさった顔で話すジョウ。まぁ確かに、人の仕事に茶々を入れては失礼か。


(あまり憶測で物を言うものではないぞ、ミオ。自身の評価が下がるだけでなく、場合によっては、信頼関係がこじれるぞ)

(分かったよ)


 世界は広いようで狭い。縁とは不思議なもので、どう繋がっているか、予測がつかないんだ。口は災いの元。どこでどう転がり巡ってくるか、本当に分からない。


(全く……ふぅ)


 私の返事を聞いたジョウは、呆れながら息を吐いた。


(ねぇ。そのクッションは、どうしたの?)


 ジョウの腹の下にある大きなクッション。それに気付い私は、ジョウに尋ねた。


(これか?これは、エイルが用意してれた吾輩専用・・の寝床だ)


 誇らしげに尻尾を揺らし、満更でもない様子で語るジョウ。


(ふぅん、良かったね。まぁ、私にはふかふかベッドが待ってるし!)


 こんな豪邸なのだ。ベッドへの期待値も上がるというもの!ジョウに張り合うのもどうかと思うが、悲しいかな。張り合う相手がいないざんす。









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