第18話
しかし、あの魔導船にエイルさんが乗船していたとはな。どう口を開くべきか、私が考え倦ねていると『ガイア様からお手紙です。ガイア様からお手紙です』と、脳内に流れるアナウンス。
あゝ無情。なんて場の空気を読まないアナウンス!
私は駆け引きなんて得意じゃない。頭を回転させるのも疲れてきていた。なのに!そんな時に限って、さらに疲れる事態を招きやがって〜!?
(どうした?)
私の様子に気付いたジョウが、念話で様子を伺う。
(手紙来た。ガイア様から。今)
念話をするのも面倒くさい。思わずカタコトになるのも仕方ない。
(今来たのは、なにか意味があるのではないか?読んでみたらどうだ?)
(うん……)
あまり気乗りはしないが、鞄に手を突っ込み、目当ての物を思い浮かべる。そして、目の前のエルフをどうにかせねばなるまい。
「……少しタイムでいいですか?」
「タイム?」
首を傾げて、疑問を疑問で返される。
「休憩です」
「「……」いいでしょう」
しばし見合った結果、エルフの許可が降りたので、私はソファへと座る。手には、ガイア様からの手紙を握ったまま。
「……」
(早く読め)
(…ちっ)
他人事のジョウは、優雅に膝の上でマッタリと休息を取っている。ちくしょう。私は舌打ちを溢す。
私の様子を興味津々で眺める外野の目が六つ。内心でデカいため息を付き、覚悟を決め、手紙を開封した。
『遅くなってすまんのぉ。
なんぞ面倒くさいことになっとるようじゃが、賢者エイルは善人じゃ。とんと世話になるがよい。
褒美といってはなんじゃが、ミオの世話を引き受けてくれた暁には、儂の加護を授けんこともない……と、賢者に伝言よろしゅうに。
それと、ミオは調薬スキルを鑑定しておらんじゃろ?生命維持に関するスキルじゃ。色々と便宜を図ったスキルじゃからな。早めの確認ヨロ。
きっとエイルの知識・経験が、きっとミオの糧になるじゃろうて。 ガイア』
(なんっじゃこりゃ〜〜!?)
(どうした!?…グォ!)
私の絶叫の念話に、ジョウが驚きの念話を返す。
それまでは、涼しい顔をしながら優雅に休息を楽しんでいたのに、ザマァ見晒せ。私の絶叫にビックリして、膝から転がり落ちてやんの。
「また、ミオの百面相が始まったぞ」
外野が野次を飛ばすが、無視だ無視。
あぁ、ガイア様。
私の日常に、賢者様を参加させよと申されるのですか?私はなにか悪行を犯しましたか?
こんな精神のバロメーターが壊れたエルフと一緒だなんて、私の身が持ちません。
胸の前で手を組み懺悔をする私に、外野は目をパチクリ。ジョウは、なにやってんだ、こいつ……と蔑みの視線を寄越すから、私は無言で手紙を突きつけた。
(……これは、なんの冗談だ?)
(ね?そう思うでしょ?)
手紙を読み終えたジョウの口端が、引きつっているように見える。
ガイア様は、私の調薬スキル向上の為に、エイルさんに教えを請いなさいって言ってるんだろうから、そんなに長い期間を見ていないけど。でも突然そんな事を言われたら、困惑ぐらいはしちゃうよね?
私たちの異世界ライフに、新たな住人が加わろうとしていた。
♢
「どうしました?なにかありましたか?」
「すみません。魔導船の件は後にして、まずは順番に事を運びましょう。メダルの確認と、ジョウの【リード】契約の擦り合わせでしたよね?」
ガイア様の手紙の内容は、クールダウンが必要だ。その間に、やらなければいけない用事を片付けてしまおう。
私の発言に、外野三人組は揃って顔を見合わせていたが、すぐに頷いて動き出す。
「エイル、魔法紙にリードスキルの陣を焼き付けろ。契約内容を書いてもらっている間に、メダルの初期確認を終えろ。その後に、リード紙を行使する。それとルイ、使いばかりで申し訳ないが、エイルの屋敷に仕える執事のセブさんに、この手紙を渡してくれ。ミオたちの逗留の件について書いてある」
「はっ!では、行ってまいります」
え!?…私たち?
まさか、街での安泰発言や衣食住の心配いらずって、そういうこと!?私はてっきり、エイルさんが保証人になってくれただけかと!?
アワアワと慌てる私を、ローハン隊長が目敏く見つけ、瞳に誂いの色が宿った。
「おい、嬢ちゃん。まさか、街で自由に宿に泊まれるとか思ってないよな?真贋判定の認定証が出来るまでは、エイルの屋敷で缶詰めだぞ?」
「うぐぅ……認識が甘かった」
私の反応を見て、ニシシ…と憎たらしい笑みを浮かべるローハン隊長。
くそぅ、殴りてぇ。そうならそうと、初めから言ってよね!私とジョウの自由な異世界ライフは、もう少し先になりそうだな。やれやれ。
「それでは、メダルを拝見させて頂けますか?」
「え?魔法紙は?」
「もう終わらせましたよ?」
あっけらかんと言い放つあたり、賢者を名乗る資格はありそうだ。
「ですので、メダルを拝見出来ますか?」
「…っ!はい、どうぞ」
私は鞄から取り出すと、エイルさんが差し出した手に高速で乗せた。
圧が強い!
そこまで、お楽しみなのかよ!?
研究者、怖い!
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