第5話 テイム以外の方法 

 エイルとルイが冒険者ギルドを出発した頃、ローハンはある問題で頭を悩ませていた。


「どうしました?」

「ん?嬢ちゃんの家族・・についてどうするか、解決策を考えてたんだ……」


 ローハン隊長は、顎髭を指で弄りながら神妙に告げた。


「テイムは出来にゃいですよ?」


 私はテイムスキルないもの。無理なものは無理。これ以上、スキルを増やしてなるものか。


「だろ?テイム以外の特別措置が一つだけあるが…これは、二人次第ということになる」

「なんですか?」


 少しだけ剣が入り始めた空気感に、ローハン隊長は慌てる。

 

「落ち着いてくれ!……だがこれだけで色々と予想するとなると、やはり能力値は高いな。嬢ちゃんは、【リード】というスキルを知ってるか?」


 リード?初めて聞くスキル名だ。私は首を振り、否を示す。


「【リード】は、テイムと似た性質のスキルなんだ。街で商売をしている魔獣屋などは、テイムではなく【リード】を使った商売のやり方を重宝している」

「魔獣屋?」

「テイム目的の魔獣を扱う商会だな」


 ペットショップ的な店かな?

 ローハン隊長は、【リード】のスキルについて説明してくれた。


・魔獣屋は、魔獣を繁殖・飼育を専門に行うテイマーから買い受け、新たなテイマーに販売する繋ぎを商いとした商会。

・【リード】は、その際のテイマーが魔獣と結んでいる制約を読み取り、権利を譲渡するスキル。


 やり方は二通り。

 スキルそのままを発動するか、魔法紙にスキルの陣を焼き付け、リード紙を作成するかの二択。

 リード紙にすれば、条件を記載の上でスキルが無くとも行使が可能。魔法紙にスキルの陣を焼き付けるのは、【リード】のスキル保持者か、テイマーギルドで申請・手数料を払うかのどちらだそう。


「それで、エイルがその【リード】のスキルを持っているだが……頼んでみねぇか?ギルドに頼むのは、情報拡散上、止めておいたほうがいいしな」

「ローハン隊長が仰った、私たち次第というのは……」

「一時的とは言え、エイルがジョウの静止権を持つことにもなる。主従関係がしっかりしているならいいんだが、少しでも不安要素がある奴は渋るのがいるんだよ」


 表情を歪ませて、後ろ首をポリポリ。実に面倒くさそう!でもご安心を。そもそも私とジョウは、主従関係云々の関係ではなく、私の護衛役である。リード紙に、しっかりとした条件を記載すれば、問題はないだろう。


「分かりました。エイルさんにおにぇがいしたいと思います」


 ジョウも異論を唱えないし、私はローハン隊長の案に乗ることにした。



「全く……急に鑑定を頼みに使いを寄越したかと思えば、次は従魔問題ですか?魔従のことなど、一っ言も書かれてませんでしたよね!?」

「ひょえ!?」


 バターン!と開け放たれた扉とともに聞こえてきた声は、初めて聞く声で。私は突然の音に驚き、妙な声が出てしまった。

 

「おい、エイル。なにを怒ってやがる。嬢ちゃんがびっくりしてるじゃないか」

「いいですか!?魔従族に、魔獣はセットという常識なんですよ!しかも本人たちはテイムスキルを持っていないのに、魔獣は大人しく従っている。摩訶不思議な所から来たのが、魔従族の由縁なんですよ!?」


 何故知らないのですか!?と力説する長髪のエルフさんは、ローハン隊長につかつかと歩み寄り、見下ろした。(銀髪から尖った耳が覗いている)

 彼が賢者様エイル様か。ローハン隊長の予想通り、興奮してますな。その原因は、ローハン隊長の手紙にあるようだけど…さすがエルフ。地獄耳ですな。

 ルイさんは、お疲れさまです。エイルさんの後ろにいたルイさんは、ゲンナリした表情をされている。


「あ〜……でだ。そのテイムが入領に際しては大事になってくるだろ?嬢ちゃんには了承を貰ってるからお前が持ってるリードスキルを『お使いください!』……だとよ」

「ありがとうございます」


 すっごい辟易とした表情で繰り出された「だとよ」には、とてつもない疲労感が垣間見えた。ローハン隊長、早くも疲労感満載ですね。

 テンションの高いエイルさんに、早々嫌気をさしているみたいだ。



「エイルがリードを行使してくれるなら、嬢ちゃんの今後も安泰だ。良かったな、嬢ちゃん。野宿しないで済むぞ?」

「鑑定が終了するまでの間ですが、よろしくお願いしますね」

「え?」

 私はローハン隊長とエイルさんの言葉の意味が分からず、首を傾げた。


「ローハン!貴方、彼女にちゃんと説明をしてないんですか!?」

「…そうだったか?だが鑑定する間、メダルはお前の手にあるんだ。離れる訳にはいくまい。身分証明の保証をお前が確約するまでは、嬢ちゃんはエイルの家で世話になるんだ」

「確かに鑑定結果が出るまで、私は宙ぶらりんですもんね」

 言われてみれば、鑑定するから入都OKというわけではないね。私の早とちりもあるが、ローハン隊長もちゃんと説明して欲しい。惚けても無駄だ。職務怠慢である。


「改めまして、お嬢さん。私は、エイル・リュタ・ラ・マグワイアと申します。この国の賢者をさせていただいてます」

「私は、ミオ・テラオといいます。こっちは、私の護衛にょジョウです。よろしくお願いします」

「ウォン!」


 にこやかに自己紹介をするエイルさんに、私も挨拶をした。


「はい、よろしくお願いしますね……しかしジョウの黒い毛並みは、最近どこかで見たような?」


 はて?と首を傾げるエイルさんに、私とジョウも揃って首を傾げる。


「お前ら、さっそく仲良しか?だがお前が外に出たのなんざ、魔導船に乗って会議に行った時くらいじゃないか?」


 ため息を吐きながら、やれやれといいたげなローハン隊長だが、貴方は自業自得である。しっかり反省するように。


「そうですよ!あの時に、羽根を生やした騎獣が航路を塞いでたんですよ!従騎士はまだ幼子だったと魔導船の操縦士が騒いでいたんですよ」


 ハッとしたエイルさんは、またも興奮して騒ぎ出す。騎獣はまだしも、従騎士を確認出来た者がいなかったので、見間違いで終わったんですがね……と、私をじっと見ながら話すのやめてもらえます?美人の真顔は、怖いものがあるんで。



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