第15話
日本でも、軍施設なんか見たことなかったから、キョロキョロと不躾なほど観察をしていた私。
「お待たせしました。こちらが厨房兼食堂になります」
「ありがとうございます」
そんな私に嫌な顔一つせず、食堂まで案内してくれたルイさん。
と一喝された私は、「ひょえっ!?」と情けない声が出た。
「集中してたにょに、びっくりするでしょ!?ジョウ!」
「あっ!スイングドアだ!?本物初めて見た〜!」
ジョウの苦言そっちのけで、私は扉に突撃する。
呆気に取られるジョウを尻目に、私はがっくりと膝を付くことになる。西部劇で見たスイングドアだ!と感動していたのに。
「………なじぇ」
私の背丈では無用の長物だったらしい。だって木板は、何の反応も示さない。私の突撃は微かな風をもたらし、扉をゆらゆらと揺らすだけ。
「えっと?」
困った表情+どうしよう?と顔に書いてあるルイさんは、ジョウに救いの視線を向けているが、ジョウは知らん顔。
私は気を取り直して、立ち上がる。
「食べ物はありますから、どこか食べる場所を貸して下さい」
「畏まりました、お嬢さん」
ふふっと軽く笑うルイさんの笑みは爽やかだ。だが、なにが可笑しいのか。ミオちゃんには、全っ然分かりません!
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
お昼時を過ぎていたとは言え、食事を取る兵士さんたちが疎らに座っていた。ルイさんに案内された席は、扉から一番遠い隅の角席だ。周りともある程度離れているから、詮索もされなければ、気遣う必要もない。
ルイスさんは、爽やかな上に気遣いが出来るとか……モテ要素抜群だ。きっと、外ではモテモテだろうなぁ。
「ジョウ、にゃにが食べたい?」
(我輩は、肉が食いたいぞ!)
「肉ぅ?それじゃ、シチューでいい?」
(うむ!あれは美味かったからな!また食べたいぞ!)
「それにゃら……はい」
ガサゴソと鞄を漁り、シチューの残りが入った鍋から、お皿にお玉で盛り付ける。コトンッと置いたお皿に、秒速でかぶりつくジョウ。よほどお腹が空いていたと見える。
「イライラしていた原因は、これか」
まどろっこしさに苛立っていたというより、空腹で苛立っていただけのようだ。豚汁を作った時のカット野菜の詰め合わせは、シチューやカレーでも大活躍だったことを記しておこうと思う。
(ふぅ!美味かったぞ!)
「そりゃ、良かったにぇ」
満腹に張った腹を揺らしながら、私たちはローハン隊長の部屋へと歩を進める。
「只今戻りました」
「……おかえり。丁度良かった。手紙も出来たから、エイルに届けてきてくれ」
「簡単に言いますが、所用で席を外されているときもありますよ?」
「なぁに…あいつの所用なんて、飯かトイレくらいだろ?どうせ、冒険者ギルドに引きこもりだ。魔従族の末裔と聞けば、全て放り出して駆けつけるだろぉよ」
んな阿呆な。馬みたいにニンジン吊り下げ作戦なんて、あまりにも明快で分かりやすいなぁ。賢者様って賢いのに、そんな手に乗るのかな?
「そんな状態でエイルさんを駆けつけさせては、お嬢さんとジョウがドン引きしてしますよ?」
しかし私の疑惑を他所に、ルイさんもローハンさんに反対はしなかった。寧ろ、ドン引きを招くシチュエーションが待っているような言い方をした。え?そこまで残念なお方なの?
「それを言い含めて連れてくるのが、お前の仕事だろ?ルイ」
んな無茶な。私たちがドン引くほど我を忘れる人を、どうやって諌めろというの?それか、研究内容よりも別の、上手い餌でもあるのか?
「あるわけないでしょう?お嬢さん。エイル様にとっては、貴方以上の存在以上に、エイル様が我を忘れる材料はありませんよ」
クスクスと笑いながら、恐ろしいことを言わないで、ルイさん……っていうか、なんで分かったの?
(心の声がダダ漏れだったぞ。顔以上に、口もだらし無いとは……)
と、ジョウには呆れられ。
「声と、なにより顔に書いてたぞ。嬢ちゃんは、百面相が得意なのか?」
と、ローハン隊長には言われた。
まさに踏んだり蹴ったりである。
「まぁ、なんでもいいが。俺もいつまでも暇じゃない。さっさとケリを着けるぞ。なにかあれば、連絡便を寄越せ。おら、ルイは行った行った!」
「……行ってまいります」
仕方なさそうに眉尻を下げ、ルイさんは一礼をして退室した。
「……」
ローハン隊長は、粗野なところもあるが、面倒見は良く、仕事もしっかり熟すイメージだ。ここは、信じて大人しく待ちましょうか。
食堂でいい匂いを漂わせ、ガツガツと食べる魔獣が話題になっていたことなど、ミオは気づいていなかった。
(我輩は気づいていたがな)
☆次回、賢者編入ります!
お待たせ致しました!
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