第3話 鑑定人、登場
(真贋判定は、およそ一週間。今後の嬢ちゃんの為にも、疑惑は払拭しておくべきだ。王城に問い合わせる手間はあるが、
「ですよにぇ。その鑑定をする方に、心当たりはあるんですか?」
俺の心配など余所に、嬢ちゃんは実に呑気に喋っている。
「えぇ。幸い、魔従族を研究している賢者が近くにいるのですが、奴に依頼するのはどうでしょうか?」
(えぇい、まどろっこしい。鑑定でもなんでもしてもらえ。こちらは、神から下賜された本物だ。なにも躊躇することはない)
(分かった。ただ、私も保険は欲しいから条件を出すよ)
(なんでもいい。やってもらえ)
ジョウは、うだうだするのを好まないか。私は今、ジョウの苛立ちを体感している。ジョウの尻尾が、足にピシピシ当たって痛いんだ。
「賢者さんですか。魔従族の研究で忙しくないですかね?」
そんな簡単に依頼出来るの?隊長とは言え、一介の兵士が、簡単にアポイントが取れるものだろうか?
「偉いのは間違いないですが、本人は全くその気がありません。それに賢者と呼ばれていますが、普段は魔従族の研究で引きこもっている研究者の方がしっくりきます。気安いぐらいが、奴にとっても気楽でしょう」
そう答えるローハンさんの視線は、ジョウのぶんぶん尻尾に釘付け。気になるよね、すみません。
「分かりました。そこまで仰るにゃら、お願いします」
「承知しました。すぐに手紙を認め、賢者に使いを出しますので、半刻ほどお時間を頂けますか?」
「お願いします」
待つのは嫌いではないが、退屈なのは嫌いだ。あぁ、誰かスマホプリーズ。そんな時、誰かの腹の虫が盛大に鳴る。
「グゥギュイ〜!グゥグゥ〜ルゥ〜!」
「「「……」」」
ローハンさんとルイさんの視線は私に……。
「…は?私じゃにゃいですよ!?犯人はコイツです!」
「わふ!?」
私は、ジョウをグイッと持ち上げた。それに驚いたジョウは間抜けな声をあげ、足をバタつかせた。
「ルイ、厨房に案内してやれ。なにか食べれそうな奴を見繕ってやれ」
「はっ!……では、食堂へご案内致します」
「お願いします」
笑いを噛み殺したローハンさんを部屋に残し、私はジョウを床に下ろした。やっぱりジョウの二つ名は、「食いしん坊のジョウ」に決定だよね。
日本でも、軍施設なんか見たことなかったから、キョロキョロと不躾なほど観察をしていた私。
「お待たせしました。こちらが厨房兼食堂になります」
「ありがとうございます」
そんな私に嫌な顔一つせず、食堂まで案内してくれたルイさん。
と一喝された私は、「ひょえっ!?」と情けない声が出た。腹ペコのジョウは、私を焦らせる。
「集中してたにょに、びっくりするでしょ!?ジョウ!」
「あっ!スイングドアだ!?本物初めて見た〜!」
ジョウの苦言そっちのけで、私は扉に突撃する。
呆気に取られるジョウを尻目に、私はがっくりと膝を付くことになる。西部劇で見たスイングドアだ!と感動していたのに。
「………なじぇ」
私の背丈では無用の長物だったらしい。だって木板は、何の反応も示さない。私の突撃は微かな風をもたらし、扉をゆらゆらと揺らすだけ。
「…えっと?」
困った表情+どうしよう?と顔に書いてあるルイさんは、ジョウに救いの視線を向けているが、ジョウは知らん顔。私は気を取り直して、立ち上がった。
「食べ物はありますから、どこか食べる場所を貸して下さい」
「畏まりました、お嬢さん」
ふふっと軽く笑うルイさんの笑みは爽やかだ。だが、なにが可笑しいのか。ミオちゃんには、全っ然分かりません!
「こちらをどうぞ」
「ありがとうございます」
お昼時を過ぎていたとは言え、食事を取る兵士さんたちが疎らに座っていた。ルイさんに案内された席は、扉から一番遠い隅の角席だ。周りともある程度離れているから、詮索もされなければ、気遣う必要もない。
ルイスさんは、爽やかな上に気遣いが出来るとか……モテ要素抜群だ。きっと、外ではモテモテだろうなぁ。
「ジョウ、にゃにが食べたい?」
(我輩は、肉が食いたいぞ!)
「肉ぅ?それじゃ、シチューでいい?」
(うむ!あれは美味かったからな!また食べたいぞ!)
「それにゃら……はい」
ガサゴソと鞄を漁り、シチューの残りが入った鍋から、お皿にお玉で盛り付ける。コトンッと置いたお皿に、秒速でかぶりつくジョウ。
豚汁を作った時のカット野菜の詰め合わせは、シチューやカレーでも大活躍だったことを記しておこうと思う。
(ふぅ!美味かったぞ!)
「そりゃ、良かったにぇ」
満腹に張った腹を揺らしながら、私たちはローハン隊長の部屋へと歩を進める。
「只今戻りました」
「……おかえりなさい。丁度良かった…手紙も出来たから、エイルに届けてきてくれ」
「畏まりました。所用で席を外されている時は、どうなさいますか?」
「なぁに…あいつの所用なんて、飯かトイレくらいだろ?どうせ、冒険者ギルドに引きこもりだ。魔従族の末裔と聞けば、全て放り出して駆けつけるだろぉよ」
んな阿呆な。馬みたいにニンジン吊り下げ作戦なんて、あまりにも明快で分かりやすいなぁ。賢者様って賢いのに、そんな手に乗るのかな?
「そんな状態でエイルさんを駆けつけさせては、お嬢さんとジョウがドン引きしてしますよ?」
しかし私の疑惑を他所に、ルイさんもローハンさんに反対はしなかった。寧ろ、ドン引きを招くシチュエーションが待っているような言い方をした。え?そこまで残念なお方なの?
「それを言い含めて連れてくるのが、お前の仕事だろ?ルイ」
んな無茶な。私たちがドン引くほど我を忘れる人を、どうやって諌めろというの?それか、研究内容よりも別の、上手い餌でもあるのか?
「あるわけないでしょう?お嬢さん。エイル様にとっては、貴方以上の存在以上に、エイル様が我を忘れる材料はありませんよ」
クスクスと笑いながら、恐ろしいことを言わないで、ルイさん……っていうか、なんで分かったの?
(心の声がダダ漏れだったぞ。顔以上に、口もだらし無いとは……)
とジョウには呆れられ、「声と、なにより顔に書いてたぞ。嬢ちゃんは、百面相が得意なのか?」と、ローハン隊長には言われた。
まさに踏んだり蹴ったりである。
「まぁ、なんでもいいが。俺もいつまでも暇じゃない。さっさとケリを着けるぞ。なにかあれば、連絡便を寄越せ。おら、ルイは行った行った!」
「……行ってまいります」
仕方なさそうに眉尻を下げ、ルイさんは一礼をして退室した。
「……」
ローハン隊長は、粗野なところもあるが、面倒見は良く、仕事もしっかり熟すイメージだ。ここは、信じて大人しく待ちましょうか。
食堂でいい匂いを漂わせ、ガツガツと食べる魔獣が話題になっていたことなど、ミオは気づいていなかった。
(我輩は気づいていたがな)
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