第12話
「あっ!魔導船が去っていくよ」
『そうだな』
私たちを追い抜き、クリーク連合共和国方面へ爆進中。ジョウは興味がないらしく、食事に集中。
しかし、解せぬ。あんなフォンフォン五月蝿い音が鳴ってたら、近づく前に分かるはず。
「にぇ、にゃんであの煩い音が聞こえにゃかったんだろうにぇ?」
『あれは、我輩たちの注意を引かせる警報だろう。実際に今は、我輩たちと出会った時よりも静かなものだ。鑑定でもしてみたらどうだ?ひょっとしたら、魔力に敏いやつが、気づくかもしれんがな』
喋り終わると、すぐさまお食事再開!ブレないわね、貴方。
「ジョウは、耳も鼻もいいから聞こえるだろうけど、私には聞こえにゃいし!…っていうか、鑑定に気づく危険があるならやらにゃいよ!?」
飛んで火に入る夏の虫に、私はなりたくない。
『…むぐ、そうか。まぁ、別によいではないか。…もぐ。いずれ知る機会もあろう。もぐもぐ』
「……食べるか喋るか、どちらかにしにゃよ。お行儀悪いにゃ」
『美味しいのがいけない』
「さいですか」
呆れて物が言えないよね、うん。
魔導船には、いくつか種類がある。
・王族など、特別階級の者が保有する魔導船
・法人(学園やギルドなど)が保有する魔導船
・商売を目的とした旅客魔導船
もちろん最大保有量を誇るのは、クリーク連合共和国である。
エルフの魔法学園。竜族騎士学園。ドワーフの職業専門学園。獣人の冒険・傭兵鍛錬所。これだけで、四艘は確実だ。
大小の違いはあるが、魔導船を保有する法人に間違いはない。
国家として一艘保有していても、クリーク連合共和国には、数で敵わない。
ミオが出会った魔導船は、果たしてどの種類であろうか。
♢ ♢
「やっと着いた……」
あれから、飛んで食べてを繰り返して到着した三日目の午前帯。
降りた場所は、フリータール王国の辺境に接する深層の森の中。
森伝いに飛んできた私たちは、クリーク連合共和国の国境を超えたのだ。
『安心するのはまだ早い。街までは、森から少し歩くからな』
「はぁ〜い。焼きたてワッフルでも摘みながら、移動しましょ」
野営ばかりで疲れた。早くふわふわお布団で休みたい。気怠げな身体を引きずって、私は英気を養う為に食べるよ。
『緊張感のないやつめ』
そう言いながら、しっかり受け取るあたり、食い意地が張ってますな!旦那。
『そうだ。昨夜、ガイア様が夢に出てきた』
「ガイア様が?ジョウの夢に出るなんて、なんの用だろう?」
『地味に失礼だぞ?ガイア様の要件は、魔従族の身元証明のメダルだった』
「魔従族の身元証明?」
『あぁ。魔従族が隠れた理由や、伝承になるほどの時が経っている話はしただろう?』
「確か、二百年くらい前だっけ?」
『あぁ、そうだ。家族も連れての山隠れだったそうだ』
「戦争が激化して、戦力に目を付けられたって言ってたけど、目を付けられる出来事でもあったにょ?」
『当時親しくしていた一人が、王族だったらしい。偶然だが、暗殺から救ったお礼の褒章メダルの授与式で、顔が割れていたからな。その国の貴族が、王族には内緒で依頼を出したらしい』
「うわぁ……縁があるのは王族にゃのに、無関係にゃ貴族が出張るって最悪だ」
戦力を当てにされたとしか聞いていなかったが、なにやら複雑な理由がありそうだった。
『その褒章メダルが、身元証明に使えるらしい』
「褒章メダルが、身元証明ににゃるにょ!?」
『王族は、国の象徴だ。発行元のみという制限はあるが、フリータール王国なら、魔従族の身元証明に使えるそうだ』
国の象徴なら、それこそ家宝とかにして飾っておくもんだと思ったけど……転移者なら、有り難みはないかもね。しかもフリータール王国って、それって何代か前の王族が友達ってこと!?
「それって、二百年前の魔従族の友人が、フリータール王国の王族だったってこと?」
偶然もあるもんだなぁと思ったけど、ウルシア様の推し国家だったのを思い出した。彼女の書類で、事あるごとにプッシュプッシュしてたもんなぁ。
『そうだ。二百年前とは言え、同じメダルが城内で厳重に保管されている。ミオに渡す褒章メダルは、ガイア様から託されたもの。在りし日の魔従族の方の遺品だそうだ』
「え!?そんな大事にゃもの……私が貰っていいの?」
『ガイア様が、以前の持ち主の了解を得ていると仰っていたから、問題はない。魔従族の末裔として、メダルを役立てて欲しいそうだ』
「持ち主の了解を得ているにゃら、ありがたく受け取るけど。一度、墓前に挨拶に行ったほうがいいかにゃ?」
『ガイア様と共に在ると言っていたから、補佐でもしているんじゃないか?』
天使?神界では見なかったけど、神様の部下と言えば、天使でしょう!
見てみたいな!ジョウみたいに、夢の中でもいいから、会いに来てくれないかな?
私の鼻息が荒くなったのを見たジョウに、胡乱げな目を向けられる私だった。
♢
「ジョウ……縮小化って出来る?」
人化が出来るなら、縮小化もお手の物でしょ!と思うが、一応聞いてみる。
『出来るが……?』
そういって、猫サイズまで小さくなるジョウ。小首を傾げて、『これがどうした?』とでも言いたげだ。とってもきゃわゆい。
「あにょね、従魔登録が必要かもしれないでしょ?だから初めは、脅威に感じない姿で入国するにょもありかにゃ...って」
『なるほど。その手もアリだな』
「うん。それで、魔従族の先祖代々仕えてくれている魔獣の一族っていう設定はどうかな?」
『ふむ...魔獣とともに生きる
「でしょ?」
ふふん♪と悦に入っていた私は、森が開いたのに気づく。
「やっと、森を抜けたみたいだにぇ」
『そうだな。後二時間ほど歩けば、街門に到着するだろう』
所々に林が疎らにあったりして、門はまだ見えない。
『どれ、もうひと踏ん張りだな』
「了解!」
♢
検問所の門が見えてきた。やっとこさ、到着した模様。
「アターキルへようこそ?」
検問所に到着したミオは、門の上部に書かれた文字を読んだ。
「読めた!」
『言語理解を授かっているのだから、当たり前だろう?つまらぬことで感動していては、これから身が持たんぞ?まだこれから入国検査…検問もある。さっさと列に並ぶぞ。下手したら、門の外で野宿だ』
初の異世界語に感動していたのに、雰囲気ぶち壊しのジョウは、超ドライ。だけど正論だから、異論は無意味。
「にゃにゅ!?それは駄目よ!今日は、レッツ宿!はやく
ピュンッと素早く走る私に、脳内で声が響いた。
(全く忙しない。もう少し、余裕を持てぬのか?)
「うおっ!?頭に声が!」
(静かにしろ。これは念話だ。人目がある場所では、念話で話す)
はぁ…とため息を吐くジョウだが、その小さき姿では、私の頬が蕩ける仕事しか発揮出来まい。
「了解!」
(言っている側から……)
私の失敗に、ジョウからは呆れのオーラが流れてくる。
(あっ……つい。慣れないことはするもんじゃないね)
(慣れろとしか言えん)
(はい……)
先ほどのスピードは失速し、トボトボと歩く私に、無慈悲な通達がなされる。
【念話を覚えました】
「うえぇ!?」
なんでぇ!?スキルが生えちゃった!私、これ以上縮むのは勘弁よ。心中で、南無南無と祈ってしまう。
これ以上は、なにも起こりませんように、と。
☆お待たせしました!次回、いよいよ街へ入ります!
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