第2話 検問所に到着!


「やっと着いた……」


 あれから、飛んで食べてを繰り返して到着した三日目の午前帯。

 降りた場所は、フリータール王国の辺境に接する深層の森の中。

 森伝いに飛んできた私たちは、クリーク連合共和国の国境を超えたのだ。


『安心するのはまだ早い。街までは、森から少し歩くからな』

「はぁ〜い。焼きたてワッフルでも摘みながら、移動しましょ」


 野営ばかりで疲れた。早くふわふわお布団で休みたい。気怠げな身体を引きずって、私は英気を養う為に食べるよ。


『緊張感のないやつめ』


 そう言いながら、しっかり受け取るあたり、食い意地が張ってますな!旦那。


『そうだ。ウルシア様から預かった身分証類のことだがな』

「あぁ…魔従族の?」

『そうだ。魔従族が隠れた理由や、伝承になるほどの時が経っている話はしただろう?』

「確か二百年くらい前だっけ?」

『そうだ。家族も連れての山隠れだったそうだ』

「戦争が激化して、戦力に目を付けられたって言ってたけど、目を付けられる出来事でもあったにょ?」

『当時親しくしていた一人が、王族だったらしい。偶然だが、暗殺から救ったお礼の褒章メダルの授与式で、顔が割れていたからな。その国の貴族が、王族には内緒で依頼を出したらしい』

「うわぁ……縁があるのは王族にゃのに、無関係にゃ貴族が出張るって最悪だ」


 戦力を当てにされたとしか聞いていなかったが、なにやら複雑な理由がありそうだった。


『その褒章メダルが、身元証明に使えるらしい』

「褒章メダルが、身元証明ににゃるにょ!?」

『王族は、国の象徴だ。発行元のみという制限はあるが、フリータール王国なら、魔従族の身元証明に使えるそうだ』


 国の象徴なら、それこそ家宝とかにして飾っておくもんだと思ったけど……転移者なら、有り難みはないかもね。しかもフリータール王国って、それって何代か前の王族が友達ってこと!?


「それって、二百年前の魔従族の友人が、フリータール王国の王族だったってこと?」

 

 偶然もあるもんだなぁと思ったけど、ウルシア様の推し国家だったのを思い出した。彼女の書類で、事あるごとにプッシュプッシュしてたもんなぁ。


『そうだ。二百年前とは言え、同じメダルが城内で厳重に保管されている。ミオに渡す褒章メダルは、ウルシア様から託されたもの。在りし日の魔従族の方の遺品だそうだ』

「え!?そんな大事にゃもの……私が貰っていいの?」

『ウルシア様が、以前の持ち主の了解を取ったと仰っていたから問題はない。魔従族の末裔として、メダルを役立てて欲しいそうだ』

「持ち主の了解を得ているにゃら、ありがたく受け取るけど。一度、墓前に挨拶に行ったほうがいいかにゃ?」

『ガイア様と共に在ると言っていたから、補佐でもしているんじゃないか?』


 天使?神界では見なかったけど、神様の部下と言えば、天使でしょう!

 見てみたいな!ジョウみたいに、夢の中でもいいから、会いに来てくれないかな? 

 私の鼻息が荒くなったのを見たジョウに、胡乱げな目を向けられる私だった。



「ジョウ、街に入るから小さくなってね」 

『かまわんが、これぐらいか?』


 そういって、狼サイズまで小さくなるジョウ。


「あにょね、従魔登録が必要かもしれないでしょ?だから初めは、脅威に感じない姿で入国するにょもありかにゃ...って」

『なるほど…ならば、もう少し小さくするか』

 そう言って子犬サイズまで縮んだ姿は、とってもキュート♪

「うん!とっても可愛い!」

『おっ、おい!?それでこれから、どうするんだ?』

「それでね、魔従族と魔従は共にあったんでしょ?なら、先祖代々仕えてくれている魔獣の子孫っていう設定はどうかな?」

『ふむ...魔獣とともに生きる魔徒族まとぞくらしくて、アリな設定だな』

「でしょ?」

 ふふん♪と悦に入っていた私は、森が開いたのに気づく。


「やっと、森を抜けたみたいだにぇ」

『そうだな。後二時間ほど歩けば、街門に到着するだろう』


 所々に林が疎らにあったりして、門はまだ見えない。結局、ジョウの気配のおかげか、魔物とは全く出会わずじまい。


『どれ、もうひと踏ん張りだな』

「了解!」

 私たちは、意気揚揚と歩き続けるのだった。

 

 ♢


『外壁の門が見えてきたぞ。やっと到着したか』

 小さくなってからは、私の頭や肩を陣取り歩かなかったのに、随分偉そうである。


「アターキルへようこそ?」

 検問所に到着したミオは、門の上部に書かれた文字を読んだ。

『そうだな』

「読めた!」

(言語理解を授かっているのだから、当たり前だろ。『うぉ!?頭に声が!』…静かにしろ。今は念話で話している。これから街の中では念話で話せ。全く…つまらぬことで感動していては、これから身が持たんぞ?まだこれから入国検査…検問もある。さっさと列に並ぶぞ。下手したら、門の外で野宿だ)


 初の異世界語に感動していたのに、雰囲気ぶち壊しのジョウは、超ドライ。だけど正論だから、異論は無意味。しかも念話とか!?


(なぬ!?それは駄目よ!今日は、レッツ宿!早く並ばなくては!)

 ピュンッと素早く走る私に、またもや脳内で声が響く。どうやら成功したようである。


(全く忙しない。もう少し、余裕を持てぬのか?)

 はぁ…とため息を吐くジョウだが、その小さき姿では、私の頬が蕩ける仕事しか発揮出来まい。


【念話を覚えました】


「うえぇ!?」

 なんでぇ!?スキルが生えちゃった!私、これ以上縮むのは勘弁よ。心中で、南無南無と祈ってしまう。

 これ以上は、なにも起こりませんように、と。

 

「次の方!」


 しばらく並んでいた私は、日頃の疲れからか、こっくりこっくりと船を漕いでいた。


「…次の方、どうぞ!」

(おぃ、呼ばれているぞ!)

「…はっ!?…はい!はい、わたしです!」


 手を上げて存在を主張しながら、ポテポテと守衛さんのところまで走りよる。ジョウも、その後をトテトテと着いてくる。


「お嬢さん。その魔獣は、君の従魔かな?」


 門兵さんの初めての質問がソレ!?と思ったミオは、ジョウが可愛さ故に目立っている事に気づいていない。


 ジョウの本当の姿は、体躯は尻尾も含めてニメートル以上になる。門兵さんに聞かた時に、ウルフで通すつもりだったけど、縮小化が出来るなら話は別だ!と、子犬に化けた。だが、今度は可愛さで注目される。罪な存在である。


「はい、そうです。私にょ相棒ですよ。家族です」


 愛想よく愛想よく…と、ニパッと笑う計算高い中身32歳エセ幼女


「…テイムしている訳ではないんだね?」


 門兵さんは、何故か困ったような顔で聞いてくる。やっぱりテイムしてないと駄目?


「はい、そうですよ?こにょ子はジョウって言います。物心付いた時から、ずっと一緒です」

「物心…」

「はいです。先祖代々の子です…にゃん代目だっけ?……八代目?」

 二百年前から逆算で、三十〜五十年の寿命計算である。


「がぅ!」

 適当な八代目に、しっかりと返事をするジョウ。


「…です!」  

 凄いでしょ!?と、ムフンッと鼻息荒く胸を張れば、「魔獣の言ってることが分かるのかい!?」と、目を見張る門兵さん。


「この子は、分かりますよ。にゃんでそんにゃことを聞くの?」

 と、コテンと首を傾げて見上げる。


「おい、後が支えているんだ。なにをモタモタしている?」

「あっ、隊長!それが……」

 奥の詰所から現れた強面は、どうやら隊長さんらしい。

 行列が並んでるから、一人一人の時間が限られているんだろうな。言い淀む門兵さん。隊長さんは、私をチラッと見ると、額に手を当てた。


「おいっ!人員を二名増やせ」

「はっ!」

「ルイとちびっ子は別室だ。ルイ、案内を頼む」

「承知しました。お嬢さんとジョウは、こっちだよ」 

 何故か別室行きが決定した私は、門兵さんに案内されるがまま、付いて行く。


「次の方、どうぞ!」

 私の背に、増員された兵士さんの声が響いた。


「お嬢さん、この椅子に座って待っててくれるかい?」

「はい」

 兜を被っていたから分からなかったけど、茶髪の優しそうなお兄さんだった。

 小部屋に案内された私は、言われた通りに、椅子に腰を下ろした。ジョウは、私の膝にピョン!と飛び乗る。


(やっぱりテイムした従魔じゃなきゃ、街に入れないっぽいね)

(みたいだな。どうする?)

(う〜ん、わかんない。魔従族であることは、メダルを見たら分かるだろうし、それで納得してくれないかなぁ?)


 私は、先程の門兵さんと話込む隊長さんたちを眺めた。どうやら、事情を聞き出しているみたい。聞き取りが終わったのか、隊長さんはこちらに向き直り、口火を切る。


「あ〜……俺は、ローハン。この門担当で、兵の隊長をやっている。まずはちびっ子の名前と身分証明、この街へ来た目的を聞こうか?」

 

 灰色の髪をポリポリと掻きながら、ドスッと椅子に座る。苦い表情を浮かべている様子からも、私が厄介な案件だと思われているようだ。

 まさに、その厄介な案件だから笑えないけどね。

 隊長さんは、私が褒章メダルを取り出したら、どんな顔をするのかな?


「私にょにゃ前は、ミオ・テラオ。ここに来た理由は、身内から勧められたから。身元証明はこのメダルです」


 私は、鞄からメダルを取り出して机に置いた。


「…っ!このメダルは、褒章メダルじゃないか!?」

 ガタッと椅子から立ち上がるローハン隊長。

「そうです。にゃん代か前の方から伝わる物です」

「拝見しても?」

「どうぞ」


 ローハン隊長の言葉遣いが丁寧になっている。私の返事を聞き、おずおずと伸ばした手はちょっと震えていた。


(六個の角の形に、王家の紋章が掘られたミスリルの光沢があるメダル。裏には、章受年月日とメダル番号、当時の国王の名が彫られている。多分本物だと思うが、俺の知識じゃ確信が持てない。ここは、奴の出番か?)


「ありがとうございました。それで、一つお願いがあるのですが」

「にゃんですか?」

 メダルを机に置き、少しだけ言いづらそうに、だけど眼差しは強く。ローハンさんは口を開いた。


「疑う訳では無いのは、念頭に置いて頂きたい。ただ、我々の素人目では、貴方のメダルの判別が付きにくいのです。メダルの受章年月日が約二百年前ということを踏まえると、身元の証明が曖昧なのです」

「確かに」

 申し訳なさそうにしているが、理由は納得出来るし、二百年前の身分証明を「はい、どうぞ!」と出されて、不確かに感じるのは尤もだ。


「身内の方に勧められたと仰いましたが、その方は今どちらに?」

 保護者の所在を聞かれたが、いないんだよね。

にゃくにゃりましたよ」

 私の親は、すでに鬼籍だ。嘘はついていない。ここで、異世界あるある「犯罪歴や嘘が分かる水晶」が出てきても、私は無実だ。素直に手をかざすぞ?


「…そうでしたか。では他に、身元を保証していただける方は?」

 凄いグイグイと踏み込むなぁ。仕事だから仕方ないけど、不快な思いを感じる人も多そうだ。


「いませんよ?私はお婆様と二人暮らしでしたが、そのお婆様も老衰でにゃくにゃられました。一人でも暮らせたんですが、やはり人恋しいですから」

「そうですか。ではやはり、メダルの鑑定が確実だと思われます」

 この褒章メダルが、ミスリル製なのは間違いない。それは俺でも分かる。だが、その他の要素の判別が難しい。ここは専門家を頼るべきだな。幸い、近くにいるのだ。使わない手はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る