第13話


「次の方!」


 しばらく並んでいた私は、日頃の疲れからか、こっくりこっくりと船を漕いでいた。


「…次の方、どうぞ!」

(おぃ、呼ばれているぞ!)

「…はっ!?…はい!はい、わたしです!」


 手を上げて存在を主張しながら、ポテポテと守衛さんのところまで走りよる。ジョウも、その後をトテトテと着いてくる。


「お嬢さん。その魔獣は、君の従魔かな?」


 門兵さんの初めての質問がソレ!?と思ったミオは、ジョウが可愛さ故に目立っている事に気づいていない。


 ジョウの本当の姿は、体躯は尻尾も含めてニメートル以上になる。門兵さんに聞かた時に、ウルフで通すつもりだったけど、縮小化が出来るなら話は別だ!と、子犬に化けた。だが、今度は可愛さで注目される。罪な存在である。


「はい、そうです。私にょ相棒ですよ。家族です」


 愛想よく愛想よく…と、ニパッと笑う計算高い中身32歳エセ幼女


「…テイムしている訳ではないんだね?」


 門兵さんは、何故か困ったような顔で聞いてくる。やっぱりテイムしてないと駄目?


「はい、そうですよ?こにょ子はジョウって言います。物心付いた時から、ずっと一緒です」

「物心…」

「はいです。先祖代々の子です…にゃん代目だっけ?……八代目?」


 二百年前から逆算で、三十〜五十年の寿命計算である。


「がぅ!」


 適当な八代目に、しっかりと返事をするジョウ。


「…です!」  

 凄いでしょ!?と、ムフンッと鼻息荒く胸を張れば、

 「魔獣の言ってることが分かるのかい!?」

 と、目を見張る門兵さん。


「この子は、分かりますよ。にゃんでそんにゃことを聞くの?」

 と、コテンと首を傾げて見上げる。


「おい、後が支えているんだ。なにをモタモタしている?」

「あっ、隊長!それが……」


 奥の詰所から現れた強面は、どうやら隊長さんらしい。

 行列が並んでるから、一人一人の時間が限られているんだろうな。

 言い淀む門兵さん。隊長さんは、私をチラッと見ると、額に手を当てた。


「おいっ!人員を二名増やせ」

「はっ!」

「ルイとちびっ子は別室だ。ルイ、案内を頼む」

「承知しました。お嬢さんとジョウは、こっちだよ」 


 何故か別室行きが決定した私は、門兵さんに案内されるがまま、付いて行く。



「次の方、どうぞ!」


 私の背に、増員された兵士さんの声が響いた。


「お嬢さん、この椅子に座って待っててくれるかい?」

「はい」


 兜を被っていたから分からなかったけど、茶髪の優しそうなお兄さんだった。


 小部屋に案内された私は、言われた通りに、椅子に腰を下ろした。ジョウは、私の膝にピョン!と飛び乗る。


(やっぱりテイムした従魔じゃなきゃ、街に入れないっぽいね)

(みたいだな。どうする?)

(う〜ん、わかんない。魔従族であることは、メダルを見たら分かるだろうし、それで納得してくれないかなぁ?)


 私は、先程の門兵さんと話込む隊長さんたちを眺めた。

 どうやら、事情を聞き出しているみたい。聞き取りが終わったのか、隊長さんはこちらに向き直り、口火を切る。


「あ〜……俺は、ローハン。この門担当で、兵の隊長をやっている。まずはちびっ子の名前と身分証明、この街へ来た目的を聞こうか?」

 

 灰色の髪をポリポリと掻きながら、ドスッと椅子に座る。苦い表情を浮かべている様子からも、私が厄介な案件だと思われているようだ。


 まさに、その厄介な案件だから笑えないけどね。

 隊長さんは、私が褒章メダルを取り出したら、どんな顔をするのかな?


「私にょにゃ前は、ミオ・テラオ。ここに来た理由は、身内から勧められたから。身元証明はこのメダルです」


 私は、鞄からメダルを取り出して机に置いた。


「…っ!このメダルは、褒章メダルじゃないか!?」


 ガタッと椅子から立ち上がるローハン隊長。


「そうです。にゃん代か前の方から伝わる物です」

「拝見しても?」

「どうぞ」


 ローハン隊長の言葉遣いが丁寧になっている。私の返事を聞き、おずおずと伸ばした手はちょっと震えていた。


(六個の角の形に、王家の紋章が掘られたミスリルの光沢があるメダル。裏には、章受年月日とメダル番号、当時の国王の名が彫られている。多分本物だと思うが、俺の知識じゃ確信が持てない。ここは、奴の出番か?)


「ありがとうございました。それで、一つお願いがあるのですが」

「にゃんですか?」


 メダルを机に置き、少しだけ言いづらそうに、だけど眼差しは強く。ローハンさんは口を開いた。


「疑う訳では無いのは、念頭に置いて頂きたい。ただ、我々の素人目では、貴方のメダルの判別が付きにくいのです。メダルの受章年月日が約二百年前ということを踏まえると、身元の証明が曖昧で……」

「確かに」


 申し訳なさそうにしているが、理由は納得出来るし、二百年前の身分証明を「はい、どうぞ!」と出されて、不確かに感じるのは尤もだ。


「身内の方に勧められたと仰いましたが、その方は今どちらに?」


 保護者の所在を聞かれたが、いないんだよね。

 

にゃくにゃりましたよ」

 

 私の親は、すでに鬼籍だ。嘘はついていない。ここで、異世界あるある「犯罪歴や嘘が分かる水晶」が出てきても、私は無実だ。素直に手をかざすぞ?


「…そうでしたか。では他に、身元を保証していただける方は?」


 凄いグイグイと踏み込むなぁ。仕事だから仕方ないけど、不快な思いを感じる人も多そうだ。


「いませんよ?私はお婆様と二人暮らしでしたが、そのお婆様も老衰でにゃくにゃられました。一人でも暮らせたんですが、やはり人恋しいですから」

「そうですか。ではやはり、メダルの真贋判定が確実だと思われます」


 この褒章メダルが、ミスリル製なのは間違いない。それは俺でも分かる。

 だが、その他の要素の判別が難しい。ここは専門家を頼るべきだな。幸い、近くにいるのだ。使わない手はない。

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