第8話
「それにしても、魔道具の時に言ってたけど、ジョウって魔力が見えるの?」
アイテムバッグから出した鍋に水を入れ、具材と豚肉をぶっ込む。私は自炊をするけど、友達に言わせれば、やり方が「男料理」だそうだ。
まぁ食べれたら気にしないので、調理にそれが表れているんだろう。
『あぁ、我は獣神だからな。魔力を見るなど、朝飯前だぞ? 』
鍋の中が気になるのか、鍋をチラ見しながら返事をするジョウ。食いしん坊の名前は、君にそのまま定着しそうだね。
「すごぉ。私もなにか出来るかな? スキルでは、魔力視とか希望しなかったし」
『ウルシア様たちから授かった、加護の恩恵は確かめたのか? 貴重な能力を授かっているはずだが……』
「そうだった!? 色々あって、すっかり忘れてた! 後で、確かめてみるよ」
などと話していれば、いい具合に煮えてきたので、菜箸をじゃがいもにブスッと刺して、火が通ったか確認する。
「おっ! 出来てる、出来てる。後は少し冷ましてから、素を入れましょう」
ご飯も炊きあがる頃には、盛付けを済ませ「いただきます」をするのみだ。
「それにしても、ウルシア様が最後に暴露していったアレ。どうしてくれようか?」
『……アレとは、魔従族のことか?』
「それもあるけど、アレといえば、アレよ。瞳の色彩問題! 【神と縁ある者の証】なんて、爆弾発言を去り際でしないでほしい。魔従族に関しては、ジョウに詳細を預けるって言ってたけど、なにか預かったの?」
『うむ、魔従族の記録をな! 彼らが、転移者であることは聞いただろう? 界を渡る転移ということは、少なからず神の干渉もあった。だから彼らの黒い瞳には、金の色彩が混じっていた。これは、この世界の魔従族の伝承にも残っているようだな。ウルシア様は、権力者から逃げるために隠れたと言っていたが、その権力者の中に聖国も含まれていた』
「
うんざりと嫌気が刺してきた私は、もはや聖国に対して嫌悪感しか無かった。教会に行けば、ウルシア様に会えるけど、行く時は十分に注意が必要だね。
『間隔を置いて流行る伝染病の為、薬はいくらあっても足りない。この聖域にある薬草類は、陸上の薬草類よりも、遥かに効能・品質が上回る』
「そりゃ、聖域ですし? 空気や魔素の類の質からして、全然違いますよ? 結果、生態系の品質が違っても不思議はないでしょうよ。考えたら分かるでしょ?」
口悪く話しながらも、私は豚汁の素を入れるために鍋の蓋を取る。私のヤサグレ具合に、ジョウは苦笑いだ。
『そこまでしても、ポーションの先駆け的存在……確固たる地位が欲しいのさ。現在は、薬師ギルドや錬金ギルドの両機関と、水面下で三つ巴になっている』
「三つ巴って、ギルド二つと教会が対立してるの!?」
『水面下でな。表面化はしていないが、なにか有事が起きたり、ギルドの権力が削がれたりすると、わからないな』
「…それって、やばくない? 表面化一歩手前って……かなり余裕の無さが垣間見えるなぁ」
うへぇ…とした顔で、鍋の中身をぐ〜るぐる。いい匂いが漂う。ジョウの鼻はピクピク。尻尾はパタパタ。幸せそうでなによりである。
『どうだろうな? 人間の欲深さは、底が知れん。奴らは、自分の都合の良い解釈しか出来ないからな。そんな話の通じん相手など、疲弊するだけだ』
「あはは…相手にするだけ無駄ってか?……気持ちは分かる」
ジョウの目線は、お玉に集中。酔わないでよね?
自分が世界を中心に回っていると考えるお花畑な人種は、どこにでも存在するからね。手に負えないよ。
だが近い将来、ポーション市場が混乱する騒ぎになるのは間違いないだろう。
私たちが加護持ちなのは、瞳を見て判るのは仕方ない。だってジョウは、金色だからね。「神に関係あります」って、身体に紙を貼り付けて歩いているのと一緒だ。
問題は、その際に降りかかる火の粉を払う手段を持ち得ているか? だ。
魔従族は、いわゆる俗称みたいだ。ウルシア様は、『魔従族を名乗ればいい』と言ったが、後ろ盾がなさそうだ。
浮島を離れ、フリータール王国に入れば、速やかに何処かに所属しなければならない。
この先を考えれば、一先ずは冒険者ギルドか? ……この世界の各ギルドの評判を、地元の人達に聞いてからでも遅くないかなぁ? 急ぐべき決断だが、評判の悪いギルドはお断りだ。急がば回れだね。
転生者人数はどれくらいで、魔従族と名乗ったのはどれくらいかな? 全ての人が、山に隠れ住んだわけではないだろうし。
人々の趣味に文句を言うつもりはない。派手好きな人や、お金や権力大好きな人もいるからね。そんな人たちは、権力者とWinWinな関係を築けたことだろう。両者、利害が一致した関係だ。
どちらか一方が度を越した一線を超えなければ、その縁が破綻することはない。
『米が炊けてるぞ?』
私が考え込んでいたら、横からソワソワとしながら声をかける
私は噴き出すのを堪えて、「はいはい」と軽くあしらう。
「今から装いますよ。ジョウは、枯れ枝に火を着けて下さいな?」
そろそろ夕日が沈みだす。太陽の光は、また明日。
『っ! 分かった!大人しく待っていよう!』
「……」
これは使えるかも?
なにか有利に事を運ぶ歳に、食べ物で釣ればチョロリンコでは? クククッ! 弱みを握れたぜ…と、ほくそ笑む私。
「それにしても、ガイア様が『詳細を書いた紙を送る』って言ってたけど、まだ来にゃいかにゃ〜?」
ウルシア様が去り際に【神と縁ある者の証】と爆弾発言をした。アレの詳細が欲しい。
『ガイア様は創造神様だ。忙しいだろうから、もう少し待ったほうがいい』
「やっぱり神様も忙しいか。気長に待つかな?それにしても、
揃って「いただきます」を済ませた私たちは、早速、同じ釜の仲間に成った。だが、異世界に降りてきたばかりの私は、分からないことだらけで、疑問が尽きない。
ご飯を食べながら、転がり防止の卵置きを見つめる。様々な色のカラフルな卵は、微動だにしない。
『ハグハグッ…寝る時にでも抱いて寝ていれば、…ングッ!…身体から漏れ出る魔力を吸うはずだぞ?』
「そうなんだね。でも、潰してしまわないか心配」
食べるか喋るか、どちらかにしようよ、ジョウ。食べ方も、お行儀悪いよ?
『ははは、ミオも面白いことを言う。その卵の殻は、世界一硬いのだ。岩にぶつけても割れまい』
「え!?そんなんじゃ、中にいる雛は、どうやってでてくるのさ!?」
『中からの衝撃には、柔く出来ている』
「ご都合主義だね、ははっ」
『自然の摂理だ、ははは』
「『あはははっ』」と笑い合う二人の和やかな夕餉は、初日を締めるには十分だった。
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