第7話
『しかし、ウルシア様も存外俗っぽいな』
ふむ…と顎に手を添えながら、なにか考えているジョウ。
「俗っぽいって…書類に八つ当たりしたこと?」
私の言葉に、一瞬目を見張るが、直ぐに細まった。
『八つ当たりとな…愚痴を八つ当たりに変換した辺り、ミオも面白い発想をするな。ウルシア様が、書類の紙に念を込める様が浮かぶぞ?』
笑いを堪えるように、「くくっ」と声を漏らしながらそんなことを宣うジョウ。罰当たり……いや、ジョウも獣
「はは…まぁ、神様も色々大変にゃんだよ。それよりさ、ジョウはもとより、いずれ鳥が増えるじゃにゃい?従魔やもふもふに寛容な国が良いんだけど。クリーク連合共和国は、亜人や獣人などが暮らしてるんだけど、議会制だから、各種族でドンパチやってるような気がしないでもなくて……まぁ、政争は必要だけどさ。こう…もっとゆるっと暮らしたいかな?」
私が濁しながら言えば、ジョウはそれ以上は引きづらず、直ぐに次の話に乗ってくる。
『ならば、多種族国家のフリータール王国一択ではないか?政権が怪しい帝国も聖国も、加護人のミオは望まない国だろう。吾輩もウルシア様の加護を頂いているが、もちろん拒否だ。人間の醜い部分を知る我輩にしてみれば、聖国が聖域を重要視しているのは、火を見るより明らかだからな』
確信を持った言い方をするジョウに、なにがあったかは聞かないが、神族だ。永く生きてきた彼にも、ウルシア様同様に色々あったのだろう。
「なら、フリータール王国にしようかな」
『あぁ、我輩も賛成だ』
深く頷いたジョウに、私たちの行き先は、フリータール王国に決定した。
キキィ〜、キキィ〜!
なんか、デジャブ感のある鳴き方だな。鳴き声は違うんだけど…と、空を飛ぶ鳥を見上げれば、太陽が沈みそうだ。四時の位置に陣取ってる。
「だいぶ時間が経ってたみたいにぇ。ご飯作らにゃきゃ!」
資料を読み込んでいたようだ。ずいぶん時間が経っていた。私は、なにを作ろうか?と思案する。
「なにがいいかなぁ?」
鞄に手を突っ込みながら、メニューを考えていると……、
「…ん?…おぉ!?ガイア様ってば、調味料だけじゃなく、調理器具まで完璧に揃えてくれてる!!……すっごいリストの数だ!」
なんと!様々な料理関連のリストが、目の前に現れたのだ!
調味料は揃えてくれると聞いてたから期待はしてたけど……正直、調理道具については諦めていた。
「おぉ…おおぉ…」
『どうしたのだ?』
興奮や感動で、言葉にならない。口から漏れ出るのは、感嘆の音だけ。
ジョウの疑問に答える余裕も、今はない。もう少しだけ待ってね、ジョウ。
私は震える手で【魔道
『コンロ…いや、魔力の気配があるな。これは、こちらの世界の道具か』
コンロをしげしげと眺め回し、まるで見分しているようだ。
「……なるほど。リストの名前からもしかして…とは思ってたけど、こちら仕様になって帰ってきたか」
調味料やお皿などの用意は、ガイア様に頼んでいた。こんなに手を尽くしてくれるなんて!?素直に嬉しいです!ありがとうございます!ガイア様。
しかし、ジョウは魔力が見えるのか。すげぇな。異世界で暮らすとなると、魔道具を使うのは避けられなかった。だけどまさか、初っ端から使えるとは思わなかった。
だって、魔道具ってお高いんだよ?なにか欲しい魔道具があれば、お金を貯めてから買うつもりだったからね。
ちなみに、これで幾らかな?二口焜炉に焦点を当て、鑑定をする。
【魔道焜炉……着火の魔法陣が仕組まれた魔道具。火の強弱を、運転つまみにより調整可。稼働には、火属性の魔石が必要。販売希望価格:金貨63枚】
うん、素晴らしい!性能は、まんまコンロだな!そして、金貨63枚か。販売希望価格だから、売値は更に高額だ。やはり、魔道具は高かった。
※ちなみに、アーティファクトは魔導具と呼ばれ、現代人が開発した魔法の道具は、魔道具と言われる。不思議。
前話のクリーク連合共和国の学園が所持する魔導船は、古代遺跡から発掘されたアーティファクトである。
ピコン!
「ん?にゃんにょ音だ?」
なにかを知らせる報知音が鳴り、私はインベントリのリストボードに目を向けた。
「……メール?」
手紙に酷似したマーク。便箋に羽根ペンの絵が書かれたマーク?がピカッピカッと、点滅を繰り返していた。
「まさかガイア様かにゃ?」
今の状況だと、思い浮かぶ相手は彼くらいだ。私は、手紙のマークに触れる。そうすれば、リストボードの上に新たに現れたボード。
「半透明なボードがたくさん出てくるにゃんて、近未来みたいに感じるけど、中世〜近代の異世界にゃんだにゃ」
実にアンバランスな世界だ。感覚がバグりそう。しみじみと呟きながら、新たなボードに、目を走らせた。
『地球の神に許可を貰い、ミオの家にあった調理器具、調味料やお皿などなど、使っていたものを
もちろん使いますとも〜! 私は嬉しさのあまり、調理器具を奉りながら、舞を披露した。
『なにをやってるんだ?』
突然踊りだした私に、ジョウからは困惑した目を向けらる。これは、美味しさ……食の楽しみを知る者にしか分からない感動だ。ジョウなら、もしかして……。
「日本の私の家にある台所の調理器具や調味料を、ぜんっぶ用意してくれたみたいなの!インベントリにある食材次第だけど、これで日本食はおろか、中華や洋食も作れるよ!」
私は抱擁の舞を踊りながら、食の可能性を語る。これでよろこ『本当か!?我は、味噌汁が飲みたいぞ!』……なるほど。ジョウはどうやら、食いしん坊に分類される生物だったようだ。
「けっこう自炊歴もにゃがかったから、道具も色々買い込んだにょが吉と出るとは……食料もいっぱいあるし。これだけあれば、色々作れる」
『味噌汁は!?』
「作れるから、大丈夫だよ……いっそのこと、豚汁にする?」
ジョウの突っ込んだ質問に、私が返していた時にふと視線が止まった。りすとにある【豚汁の素】【豚汁用野菜セット カット済】の文字。
「忙殺期の嬉しい味方。簡単調理セット!こんなものまでインベントリに用意してくれたなんて……文字通り、ほんと全てだな」
小さい身体だから、野菜が切りにくいなと思ってたけど、これは助かる!
『豚汁だと!?豚肉があるのか!…よし、それだ!今日の晩飯は、それに決定だ!』
鼻息荒く喋るジョウ。何故だろう?今は人化してるはずなのに、ブンブンと、はち切れんばかりの尻尾が見える……ちょっ!?本気で尻尾揺れてるやん!?
「ジョウ!尻尾!?」
『なにを言っている?我輩は、失敗をする子供の時期は過ぎている。人化に尻尾など、祖国に笑われ……なぬぅ!?…これは違うぞ!?我輩の尻尾ではないぞ!?』
「……」
そう言いながら、手で押さえているのはなんだよ?と突っ込みたくなるが、ジョウの必死さが憐れみを生んでしまう。
「しゃて、ご飯の準備をしましょうかにぇ?」
これ以上、なにを言ってもやぶ蛇だ。敢えて触れないように誤魔化せば、慣れない私は気が散り、舌を噛んでしまう。
「いちゃい……」
痛みに堪えながら、夕飯の準備に精を出す私と、未だ尻尾との格闘に精を出すジョウの、カオスな現場が出来上がったのだった。
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