第3話 お詫びの品 

 ウルシアは覚悟を決めたような顔をして、口を開いた。


『降りてきたのは、私から渡したいものがあったのと、ガイア様からのお詫びの品を預かってきました』 


「お詫びにゃら、加護をもらったよ?」

 

 最高神の加護という品を貰ったと思ったけど、更に追加でくれるん?


『ガイア様からのお詫びは、幼児化に関してです。、ですが先に、私の謝罪を。この度は、誠に申し訳ございませんでした。心より謝罪致します』

「はい、受け入れます」


 なんの迷いもなく受け入れた私に、ウルシアは一瞬目を見張るが、すぐに控めな微笑みを讃えた。おそらくホッとしたんだろう。


『それともう一人。私の喧嘩相手だった地球の神。名前は言えませんけど、彼からもお詫びを預かっています』

「地球の神様から?」


 ウルシアは、豊満なお胸から、一匹の動物をみょ~んと取り出した。その谷間のどこに、そんな余裕があるのかな? 裏山けしからん。


『ミー』


 少しだけ嫉妬の嵐が生まれ始めた私の耳に届いた、癒しの鳴き声。


「……こ、これはピューマ!?」


 そのモフモフを見た瞬間、私の身体はまた、衝撃の雷が流れた。

 靭やかな身体に、細長い魅惑の尻尾!

太いおみ足なのに、鳴き声は猫とか……反則かっ!?


「くぅ!?」


 ちゃぶ台があれば、机ドンをやったのに!!


『……ピューマという動物に見えるのですか?それならば、彼の実体をそれに固定しましょう』

「ピューマじゃにゃいの?」


 慌てて顔を上げた私に、ウルシア様の説明が始まる。


『この子は、地球の獣神見習いなの。この世界は、日本より物騒だから、護衛役にと選ばれたのよ。神は実体を持たないから、下界で暮らすなら、実体を創る必要があるから』

「ほぇ~。神様の見にゃらい……そんにゃ人が、私と一緒にいていいんですか?」


 護衛をしてくれるなんて、とても心強いけど、かなりのVIP対応にビビっちゃう。


『彼の修行でもあるの。それに彼にしてみれば、人間の寿命は、昼寝をするくらいの体感よ……ね?』

『ワゥ!』

 ウルシア様の声掛けに、獣神見習い様は、片足を上げて元気よくお返事した。


「……グフッ」

『『ビクッ!?』』

 

 私の漏れ声に、二人はビクッと慄いていた。私から距離を取り、なにやらコソコソと話し始める二人。


『女神様。吾輩の主人は、こんな幼子で奇人なのですか?彼女は、不気味です。なんですか?あの「グフッ」という曇り声は……』

『幼子なのは外見だけよ。中身は32歳の成人女性よ。奇人は言い過ぎだけど、動物が大好きみたいだから!よっぽど嬉しいのね?それにしても、彼女のことは、奴から聞いてないの?』

『上層部から突然辞令が来たんです。準備をするので、精一杯でした』

『そうだったの。アイツは、相変わらず大雑把ね。それならば、彼女のことを話しておきましょうか。彼女は、貴方と同じ地球に属する人族として生を受け、暮らしていたの。でも彼女の生は、突然終わりを迎えた。それも、私と貴方を遣わした神との喧嘩に巻き込まれて。彼女は、被害者なの。生を強制終了させられた魂は、地球の輪廻には入れない。お詫びとして、私が管理するこの世界で、生をやり直す提案をしたわ。幸い、彼女はこの手の話が大好物で、難なく受け入れてくれたの。普通は、罵倒されてもおかしくないんだけどね……』


 そうやって、苦笑いの表情の浮かべる女神様を、吾輩は眺める術しかなかった。

 いっそ、罵倒された方が楽なのだ。その身に燻る思いを吐き出して、昇華する役に立てるのだから。幾らか、贖罪した気になれるから。


『そんなことがあったんですね。唐突な辞令に戸惑いましたが、それを聞いて納得しました』

『ふふっ、よかったわ』


「お話は済みましたか?」

 ジッと見つめるミオに、私は焦りながら頷いた。


『え…えぇ。それで実体の形は、ピューマでいいですか?』

「はい、おにぇがいします!」


 これから、ピューマと一緒に旅が出来ると思うと、「えへへ…」と自然と顔がにやけた。

 単身者で仕事が多忙だと、どうしてもペットが飼えなかったら、諦めてたんだよね。

 護衛役の獣神見習い様だけど、見た目はピューマ。それも子供サイズ!浮かれるな、という方が無理である。うん、無理。大事なことなので二度言おう!


 二ヘラと愛好を崩すミオを見て、私も自然と笑顔になる。私の笑みを見たミオが、恥ずかしさを誤魔化すように、視線を泳がせ鼻をポリポリと掻いている。


『それでガイア様のことなんだけど、まずはこれを見て欲しいの』


 そう言って手を翳したウルシア様の横に浮かび上がる半透明ボード。


「私のステータス?」

『えぇ。神界で最終確認したステータスと違う場所があるんだけど分かるかしら?』


【名前 ミオ・テラオ

 魔力量 200000

 属性 火 水 風 土

スキル 行儀作法4 事務処理5 商談4 体術4 剣技3 語学4 MAP1 鑑定1

 ユニークスキル転生のお詫び 言語理解 インベントリ 調薬釜←New! 特別隠蔽

 称号 転生者 創世神ガイアの加護 女神ウルシアの加護】


「New!が付いてるので一目瞭然ですけど、調薬釜ですか?ただの調薬だったと思うんですけど」


『えぇ…因みに、転生前のステータスはこれね』

 ↓

【名前 ミオ・テラオ

 魔力量 200000

 属性 火 水 風 土

 スキル 行儀作法4 事務処理5 商談4 体術4 剣技3 語学4 MAP1 鑑定1

 ユニークスキル転生のお詫び 言語理解 インベントリ 調薬 特別隠蔽

 称号 転生者 創世神ガイアの加護 女神ウルシアの加護】


『現在は事故のようなものですが…始まりは、ミオの世界とガイア様の認識のズレが原因でした』

「認識のズレ?」

 始まりって…ミスに段階があるの?

『はい。転生者の世界では〚薬を作るのは工場(一部除く)で、調剤師は医師の指示に従い(偶に意見を出す)、薬の調合・確認・説明を行う〛という真実を知り、ガイア様は大いに慌てました』   

「それは……私を既に送り出しただったから?」

『はい。唯一の救いは、神界と下界のタイムラグでしたが……ここでも致命的なミスを犯したのです』


 頭が痛いのか、眉間を揉みしだくウルシア様。


「ありゃりゃ…まぁ、重なる時は重なるからね」


 「それで『始まりは…』なんて言ったのか」と他人事のように呟くミオに、ウルシアは頭痛が増す感覚を覚える。だが説明はしなければならない…と重い口を再度開いた。


『ガイア様も挽回するつもりだったのでしょう。ですが、考えなしにスキルを与えたツケがここで回ってきました。これ以上のスキル付与は身体が悲鳴を上げるため、製薬スキルが魂に弾かれてしまったのです』

「おぉう…ウルシア様が調整してくれたんですよね?」

『はい。私の有能さ故に、ガイア様の自重なし・・の神具を付ける事が出来ました』

「え"?神具?」

 ウルシア様の言葉を聞いた私は、変な声が出てしまった。スキル付与は魂に弾かれたのに、ガイア様の自重なしの神具は問題なかったの?


『はい。幸い、調薬をキャンセルしたユニークスキルに余裕があるのを見つけました。ガイア様はタイムラグの時間が迫っていた為に、更に慌てており気づいていませんでした。それどころか、それならば!と弾かれないように、製薬スキルを一纏めにした神具を開発したのです。それがガイア様の神力全開!自重なしの末に出来上がった調薬釜!……私はそれをユニークスキルに設置し、なんとか調整を終えました』

「大変だったんだね。ありがとうございます」


 まさか神界から下界に降りた僅かな間に、そんな騒動が展開していたとは脱帽するばかりである。


『そんなおっちょこちょいなガイア様からのお詫びの品は、これよ』


 そういってピューマ(仮)を地面に下ろし、またもや谷間から取り出したのは、手の平サイズの卵だった。よく潰れなかったね。ウルシアの谷間は、四次元ポケットなのかな?


 でも、お詫びの品を見た私固まった。だって卵なのに、虹色なんだよ?ファンタジーな物が出現したのだ。俄然興味が湧いて、疑問も湧いた。なんの卵だ? と、私は首を傾げた。

 そんな私の疑問に、ウルシア様が説明してくれた。


『これは、鳥の卵なんだけど‥‥まだなんの鳥かは分からないの』

「へ?」

迷彩卵ロストカラーエッグという、とても希少な卵なの。生まれてくる種類は、魔力で決まると言われているわ』

「魔力‥私にょ?」


 思わず、自分を指差してしまう。


『えぇ、そうよ。この卵には意思があって、注がれる魔力によって、生まれる鳥を決まるの』

「にゃるほど……私の魔力ですか」


 私の言葉に、頷いた女神さまはどこか不安そうだ。


「どうしました?」

『ガイア様が厳選した物なんだけど、受け取ってくれる?』


 おぉう。私がいつまでも眺めていただけだったから、誤解している。


「もちろんです!こんにゃワクワクした気持ちは、神界以来です!有り難くいただきましゅ!!」


 私はなるべく不安を取り除くように、笑顔で受けとった。焦って早口になったから、噛んじまったぜ!

 いや、気に入ったのは本当だけどね!?さすが異世界!不思議な卵、ゲットだぜ!?


『よかった!『さぁ……少し長いし過ぎたわね。私はそろそろ帰りますが、ミオの調薬釜はレアどころの話ではないですからね!くれぐれも、あの聖国には気をつけてください。周囲の国情勢などを記した書類をインベントリに入れておきました。旅路の参考にして下さい』

「はい!色々ありがとうございました!」


 私の言葉を最後に、笑顔で手を振りながら消えていったウルシア様。次に会えるのは、教会かな。


『あっ、そうそう。ミオの身元保証だけど、この世界にも過去に転移者たちがいたの。彼らは【魔従族】と呼ばれていたわ。ミオはその末裔という設定よ。獣神に必要類は預けてあるから、詳しくは彼に聞いてちょうだい。じゃぁね』

「……は? え? ちょっ……待って〜!?」

 

 去り際の爆弾発言に、私の口は上手く動かない。所々で漏れる音は、言葉の体を成さず、私の叫びは空へと消えた。

 

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