2-2


*****


(今の人たちが私をここへ連れてきた……なんで……? 手駒って私のこと……?)


 わけがわからない。なぜこんなおそろしい事態の中に放り込まれてしまっているのか。


「おーい、君、だいじょう? 俺の声聞こえてるかな、わかる?」


 気がつけば、漆黒のそうぼうがすぐ目の前にあった。青年がづかわしげな顔をして間近からニコラを見つめていた。

 この人はどういう立ち位置の人なのだろうと、ニコラは不安になる。先ほどの男たちの仲間ではなさそうだが、だからといってニコラに害をす者ではないと言い切れない。

 しかし彼は、ふるえの止まらないニコラの手をなだめるようににぎってくれていた。ニコラよりも大きな手は温かかった。その熱のおかげか、次第にニコラのこわばった心持ちは少しずつやわらぎ、耳の底で響く男たちのわめき声もうすらいでくる。


「あれっ……」


 気がつけば両手の拘束も両脚の拘束もほどけていた。いつのまにか青年が縄をち|切《

き》ってくれていたらしい。


「ど、どうも、ありがとうございます……」

「おや、ガルフォッツォ語。わかるんだ?」

「まあ少々……」

「じゃあさっきの連中がまくしたててた内容は聞き取れたわけだね」


 青年がにこりと笑う。


「君は今かなりの混乱の中にいるだろうけど……うん、とりあえずは場所を移そうか」


 青年はきゅうくつな執務机の下から先に出て、ニコラに対してゆうに手をべてくる。


「お手をどうぞ、おじょうさん」

「あ、ご親切にどうも……って……えっ、おじょ……!?」


 ニコラはおどろきのあまり、頭のてっぺんを頭上の机に思いっきりぶつけてしまった。きょうれつな痛みが脳天に走って、声もなくうずくまる。


「おや大丈夫? 気をつけないと」

「なっ、なんで……! どうして私が女だって、わかったんですか……!」

「どうしてって。あれだけぴったりくっついてたらね、そりゃわかるでしょ。それに」


 青年は、ぱっとニコラの手をにぎった。


「こんなきれいな肌、女の人のに決まってるし?」


 こうに口づけられて、ニコラはいよいよ言葉を失った。

 女あつかいをされている。イケメン扱いされてばかりの人生だったのに、今うまれて初め

て、女性として扱われている。

 信じがたかった。それは異国の地に知らぬ間に連れてこられていると気づいたとき以上の衝撃だった。


「というか君、どうして男装を? 最近のユマルーニュ王国の流行はやりとか?」

「これは……込み入った……事情が……お役目が……」

「なんか白目いてるけど大丈夫? さっきの当たり所が悪かったかな……動ける? あ、また抱き上げてあげよっか?」


 とんでもないことをがおで提案され、ニコラは白目を剝いたまま執務机の下から急いで這いだしてシャキッと立ち上がった。また抱き上げられたりしたら、さらなる衝撃で意識を手放しかねない。


「それじゃいったんあっちでこしをおろそうか、おんな連中の気配もとりあえず絶えたことだし。俺も色々と聞きたいことあるし、君だって知りたいことたくさんあるでしょ」

「それはもう、山のように……」


 青年のあとをニコラはよろよろついていく。しょさいのような部屋を出て、隣室に移動する。

 気絶していた三人の男たちがいっそうされている室内はなかなかの広さだった。談話室らしい。ごうな調度品が備え付けられており、こちらもやはりきらびやかな装飾で、いかにも異国といった感じがして、ニコラの気は一向に休まらなかった。

 よろめくようにソファに座るとほこりが広がって、ニコラはせいだいにむせる。よくよく見てみればたくじょうや床も埃っぽくて、あちこちにまである。はいおくのようなありさまにますま

すニコラの混乱は深まる。


「なんで、こんなとこに……ちょっと前まで王女殿でんのきれいなきゅうにいたのに……」

「王女殿下って、ユマルーニュ王国の末王女アリアンヌのこと?」


 思いがけず反応があってニコラはぎょっとした。心のなげきが声に出てしまっていたらしい。青年はニコラの向かい側のソファに腰をおろすと、興味深そうな顔つきで身を乗り出してくる。


「君はアリアンヌ王女と知り合いなの?」

「えっ、はあ、そう……ですね、はい」

「年のころも近いよね。友人? それともこいびと関係とか?」

「そっそんな恐れ多いっ! おそばにお仕えしてただけです!」

「王女のそばきか……なるほどね」


 何やらふむふむと青年はひとりでうなずいてなっとくしている。ニコラも何らかの納得がしたかった。このわけのわからない状況下における情報が欲しい。すがるように青年を見れば、彼はにこりとちがいな明るい笑顔を向けてくるのでニコラは思わず気が抜ける。


「側付きなら、君も知ってるでしょ? ユマルーニュ王国の王女アリアンヌと、ガルフォッツォ王国の王太子とのこんいんの件」


 突然の思いも寄らぬ話題に面食らいつつ、ニコラは頷いてみせる。


「その婚姻をね、つぶそうとしてる何者かがいるんだよね」

「え!?」


 ニコラは目を剝く。


「婚姻をぶちこわそうとするぼうがい工作がこれまでに色々と起こっててね。あ、ちなみに俺はそれをすべくほんそうしてる身なんだけど。妨害工作のこんせきからそくせきを追ってこの辺りにやって来て、今さっき、拘束されてる君を見つけたってわけ。で、君はおそらくね、その妨害工作のいっかんとして、さらわれてきたんだと思うよ」

「わっ私がっ!? えっ、なんで!?」

「君が王女の恋人だから」

「はっ!? いやいやいや、だからそれは違いますって!」

「うん、そうかんちがいされたって話だよ。おそらく王女のもとにはかんちょうが潜り込んでたんだろうね、それもポンコツな間諜が。けなそいつは君を見て盛大な勘違いをしたんだろう。王女の側付きの女性ではなく、王女の恋人の美青年だって」

「へ……」

「そう誤解されるような心当たり、ない?」

「……」


 あった。大いにあった。アリアンヌ宮ではいついかなるときも男装姿でキメていたし、王女とは毎日欠かさず室内で密会していたし、確かにあれでは恋人っぽさまんさいだ。他の階には行かずにひっそりと暮らしていたが、そのひっそり感がかえって秘密の恋人っぽさをますます増幅させてしまっていたかもしれない。

 きっとあのとき客室内でニコラに何かを嗅がせた不審な侍女たちこそが潜り込んでいた間諜だったのだろう、そしておそらく女装男だった。複数の男手でならニコラひとりなど容易たやすく運び出せたことだろう。


「で、ですけど……こんいんぼうがい工作の一環として、王女の恋人をさらってくるって、なぜにそんなこと……?」

「使い道は色々あるんじゃない? 他国の王太子とのこんを間近にひかえてる王女の秘密の恋人なんて、存在自体がしゅうぶんだし。さらってきて痛めつけるなり買収するなりして取り込んで、王女の弱みを吐かせたりとかね。王女はこの国の王太子にふさわしくない好色女だ、みたいな証言をさせたりとかね」

「こっ……そんな、ひどい!」


 ニコラはふんがいして思わず立ち上がっていた。


「そんな御方じゃないですよ! 殿下はそれはもうれんでおしとやかでがんり屋で、まあ多少は失神したりもしますけど! でも! こくふくしようと頑張ってるんですからね好色だったらあんなに苦労してないんですからね……!」

「うん、ちょっとよくわかんないけどまあ落ち着いて」


 青年も立ち上がって、馬をどうどうと落ち着かせるようにニコラのかたをおさえる。

 ついつい声をあららげてしまったニコラは、息を整えながら目の前の青年をふと見上げる。

彼とかなり近い距離で向かい合う形になり、ハッと初めて気がつく。


(この人……! 背が! 高い!)


 青年はニコラを見下ろせるくらいの高身長だった。これほど自分と身長差のある男性にニコラは初めてお目にかかった。ガルフォッツォ王国では珍しくない体格なのだろうか。

 異国の男に目を向けてみたら、とか言っていたメラニーの顔がふと思い浮かび、ニコラは首をふって追いはらう。今はそんなことを考えている場合ではない。絶対にない。王女の婚姻つぶしの手駒としてさらわれてきてしまったこのやっかいな状況を打破することを考えなくては。


「わっ!?」


 不意に彼が顔を寄せてきて、おまけに彼の指先であごを持ち上げられたせいで、ニコラは

とんきょうな声をあげてしまった。あわてて後退しようにも、ソファにはばまれて動けない。


「ちっ近いのですけどもっ!?」

「近づけてるからね。じっと見つめてくるから、もっと俺をよく見たいのかなと」

「もうじゅうぶんですのでっ! お気遣いなく!」

「そう? えんりょしなくてもいいのに」


 にこっと彼は笑ってみせて、逆にニコラをじっと見つめてきた。


「うん、顔色も良くなってきたかな……初めはずいぶんと真っ青だったけど、もう大丈夫そうだね」


 ニコラの顎から指をはなすと、彼はニコラの肩をはげますように軽くたたいた。


「まあ、そう心配しないで大丈夫だよ、俺がなんとかするから。どこの誰がこんなはためいわくたくらみのしゅぼう者なのかはまだ調査中だけど、一応手がかりもあるんでね」


 彼のみにはゆうがあり、こわも落ち着いていて、たのもしく感じられた。


(この人は、どういう立場なんだろう……やっぱりガルフォッツォの王家に仕える人かな。婚姻潰しを阻止すべく奔走してる身、ってことはそういうことだよね)


 をやや過ぎたくらいのとしごろに見える。腕もたつようだし、容貌もはなやかなので、王族の側近くに仕える護衛といったところだろうかとニコラは見当をつけた。

 服装もまさにそういった感じで、白を基調とした華やかな騎士服が実によく似合っていた。ニコラも似たような型の騎士服をいくとなく着用したことがあるが、やはり本職の人となると着こなしが違うなぁとひそかにかんたんする。暑い気候ゆえかえりもとをゆるめているが、彼はそれでもだらしなく見えず、むしろ様になっていた。


「あのう、あなたは……」

「おっと失礼、名乗ってもいなかったね。俺は……そうだね、ルーナとでも呼んで」

「ルーナさんは、王家に仕える方なのですか?」

「まあ……そんな感じかな。王国の、忠臣だよ。王国のため身を粉にして働いてる立場」


 にこりと笑って、ルーナはニコラの顔をのぞきこんでくる。


「君のことはどう呼べばいいのかな、ユマルーニュ王国のお嬢さん」

「あっすみません申しおくれました、ニコラ・ミグラスと申します!」

「それじゃあニコラ、そろそろ行こうか」

「へ? どこへ……」

「どこって。帰りたくないの? ユマルーニュ王国に」

「え……あ、帰りたいですもちろん! えっもしや私を送って頂けるのですか……!」


 ルーナはあきれたようにしょうする。


「放り出すわけないでしょ、女の子ひとりで。といってもね、申し訳ないけど、すぐにというわけにはいかない。ユマルーニュ行きの交易船に乗ってってもらおうと思うんだけど、次の出港が明朝だからそれまではどこかにたいざいしてもらうことになる。それでもいい?」

「はいっ勿論! ありがとうございます、助かります……!」


 妙な企みに巻き込まれてしまったのはひどい不運だったが、この親切な騎士に出会えたのはかなりの幸運だったといえる。先の見通しがたって、ニコラは胸をなでおろした。


「港の近くの宿屋にでも滞在してもらうとして、ここからだとちょっと距離があるんだよね。ニコラ、馬は乗れる? 北門から出るとしても小一時間は馬を走らせないといけないからさ。というかここから北門まで行くのだけでも時間くうし、まったく、王宮ってのはに広くていやになるね」

「え」


 ニコラは息をのみ、ルーナをぎょうする。


「今……王宮って言いました……? えっ、ここ……ここって王宮なんですか!?」

「言ってなかったっけ? うん、王宮だよここは。ガルフォッツォ王国の中心地」

「ほ、ほんとに……?」


 ニコラは周囲をきょろきょろと見回す。確かにこの部屋の調度品は豪華で、きらびやかな装飾もそこらじゅうにほどこされているが、どこもかしこも埃っぽいし蜘蛛の巣まみれだ。どう見ても廃屋にしか思えない。


「まあ正確に言うならここは、王宮しき内のうちの、はしの端、という位置だけどね。王族が住まう王宮や庭園をぐるっと取り囲んでる広大な森があって、その中にぽつんと建ってる小さな館がここ」

「森の中の、館……?」

「大昔、何代も前のガルフォッツォ国王があいしょうのために造らせた館らしいよ。日々の政務とか諸々から離れて、静かな森の中で心置きなくお気に入りと楽しむためのかく、ってとこかな」

「な、なるほど……」


 急にこの場が何やらあやしい感じに思えてきてニコラはどぎまぎした。


「今やすっかり忘れ去られた廃屋ってわけだけど、婚姻潰しを目論もくろんでる連中が勝手に拝

借してるようだね。おそらく首謀者が、さっきの柄の悪い連中を……おそらく街でやとった安いチンピラ連中を手下にして、引き入れてここにせんぷくさせてるんだろう。何か首謀者の正体につながるような痕跡があるといいんだけどね、まあとにかく今は港の宿屋まで君を送り届けるのが先決だ」


 行こう、とうながされてニコラはルーナの後をおとなしくついていく。

 だいぶ平静はもどせていた。あやうく不穏な企みの手駒などにさせられるところだったが、とりあえずこの異様な状況からのがれられそうだ。早く無事にアリアンヌ宮に帰って、しっかりお役目を果たさないといけない。ちゃんともっと本物の男性のように接して王女に今度こそしっかり男慣れしてもらわねばならない。


(ああ、でもお手本がいないんだったなアリアンヌ宮には……私の身近にもお手本になるような男の人はいないしなぁ……もっと王女殿下に強い刺激をあたえられるような……本物の男性のお手本……)


 うんうんうなりつつ思いなやんでいると、前を歩くルーナが不思議そうな顔でふりかえってくる。


「どうかした? うんうん唸って」

「いえ別になんでも……お気になさらず……」

「あ、ちょっと動かないでニコラ」


 ルーナがまたもや顔を寄せてきて、しかも大きな手をのばしてきて頭にれてくるので、ニコラはぎょっとした。


「なっなんですか今度はっ!? 」

「うん、埃やら蜘蛛の巣やらがあちこちにくっついちゃってるからさ」

「えっ、あ、ありがとうございます……」


 ニコラの髪や肩の辺りに付着したそれらを器用に取り除いてくれるルーナをニコラは至近距離からどぎまぎしつつ見上げていたが、不意に、ハッ! と思い至った。


(これだ……! この人だ……っ!)


 ニコラはカッと目を見開いて、目の前の騎士を食い入るように見つめた。


(本物の男性のお手本っ! この人こそぴったりだよ、そうだよ、ルーナさんをお手本にすればいいんだ……!)


 申し分ない人材だ。やたらとえのいこの人は、らしいお手本になる。仕草も身なりも、いきなり手に口づけてきたり顎を持ち上げてきたり顔を近づけてきたりするようなふるまいも。

 やけに距離が近くてちゃらちゃらとした接し方は、まさしくこれぞガルフォッツォ男という感じだ。ただの男らしさのみならず、ガルフォッツォ男らしさを習得できたならなおいいのだ。王女がとつぐ相手はガルフォッツォ男なのだから、ニコラがそこに寄せておくと、さらに王女のためになるはずなのだ。

 彼から学んだものを持ち帰って、ガルフォッツォ男らしさを身につけたニコラが特訓を行えば、今度こそきっとうまくいくだろう。王女は克服できるし、自分はほう婿むこを得られるだろう。よしっ、とニコラは鼻息荒く頷いた。


「ルーナさん! ちょっと相談させて頂きたいことが!」


 ニコラはルーナに向かってずいっと身を乗り出した。


「あのっ、私! 明日の出港時刻までの間、ルーナさんといっしょにいたいんです!」

「え?」


 ルーナは蜘蛛の巣をまみ上げていた手を止めて、きょとんとした顔で小首を傾げる。


「えっと、俺は今……口説かれてるのかな?」


 ニコラはぶんぶんと首を横にふりつつ、ルーナのむなぐらをがっしりつかむ。


「私を、男にしてくださいっ!」

「……は?」

「私、男らしさにみがきをかけたいんです! 男らしくならなきゃいけない事情がありまして、それをルーナさんの側で学ばせて頂きたく! だから一緒にいさせてくださいっ! ただ横に置いといてもらえればいいんです、はたから勝手に観察してますので!」

「ちょっと何をたのまれてるのかよくわからないんだけど……」


 ルーナは明らかにドン引き顔をしていたが、しかしニコラはひるまない。


「込み入った事情があるんですっ! 私の男性らしさが増すことで、我が国の王女殿下のこのたびの婚姻がうまくいくんです!」

「え、今回の婚姻がらみなの? ますますなぞが深まったんだけど……」

なにとぞお願いしますルーナさん……!」


 なんなんだこの子は……というような困り顔を浮かべてルーナがおのれの頭をく。


「一緒にいてほしいって女の子にせがまれたらそうしてあげたいとこだけどね。でも今の俺は例の件の首謀者をめるために王宮内をあちこち動き回らないといけないからさ、君と一緒にいてあげるわけには……」

めいわくかけないようにしますので同行させてください! その代わり、私に手伝えることがあればなんでもやりますのでっ!」


 とっに協力を申し出たあとで、ニコラは内心で、そうだ、そうすべきだよと深く頷く。


(そうだよ、殿下が無事に男慣れを習得できても、こっちの悪党の企みのせいで婚姻自体が潰されちゃったら何にもならないんだから。だから私も積極的に手伝うべきだよ、あんなに頑張ってた殿下のためにも……それからそれから褒美の婿を得るためにも……!)


 ニコラはギラギラとやる気をみなぎらせてルーナをまっすぐに見上げる。

 見つめ返しながらしばし考え込んでいたルーナは、やがて根負けしたように小さく笑いをもらした。


「まあ正直言うと、単独で動いてる俺としては人手が増えるのは助かるとこだね」

「え……大変そうなお役目なのに、おひとりで?」

「まあ、こっちにも込み入った事情ってやつがあってね。それに今回の婚姻を無事に成功させたいっていう思いは俺も君も同じようだし……うん、それじゃあたがいに協力し合おうか」

「ありがとうございます……! 勉強させてもらいます! よろしくお願いしますっ!」

「ではさっそく行こう。この辺りからだと王宮まで行くのにもまあまあ時間くっちゃうからね」


 足をみ出すルーナにニコラも続き、ろうを急ぐ。

 そのちゅうくつ裏に何かかたいものを踏んだようなかんしょくがあった。足をあげてみれば、赤く光る丸いものが、床にぽつりと落ちている。


「宝石……?」


 ふりむいたルーナがニコラの視線を追い、かたひざをついて赤いそれを摘まみ上げる。


「紅玉か。これはまた随分と値の張りそうな……装飾品からがれちたもののようだね。指輪かみみかざりかカフスか……」

「かつてのここの主のものですかね? 大昔の王様の愛妾だったっていう人の」

「いや、それにしては全然埃をかぶってない。おそらく最近の落とし物だろうね……ここを根城にしてる例の連中の」


 あ、とニコラが目を見開き、ルーナは笑みを浮かべて頷いてみせる。


「こんなのしたのチンピラぜいが持てるしろものじゃない。落とし主は首謀者の誰かさんである可能性は高い……いい手がかりになるな」


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