第二章 灼熱の国の騎士
2-1
ひどく
(音……いや、これは……声……?)
そう気づくと共に、ニコラの意識は
浮上するなり、反射的に、暑い、と感じた。額から
見知らぬ
(これは……水を
水を司る神が、無数の
(
視線を
ニコラの中で、不意に、不安が
(何、ここ……? こんな
自分は今、見知らぬ部屋の中にいる。
そうはっきり自覚して、汗がさらに
(どういうこと……?)
絶えず聞こえてくる耳障りな声があった。複数人が会話をしているようだった。
声の主たちは同じ室内にはいない。この室内にはニコラだけだ。どうやら扉の向こうから聞こえてきているらしいので、ニコラは扉に近づいて会話の中身を聞き取ろうとしたが、できなかった。身動きがとれなかったのだ。
(えっ、
両手が縄で後ろ手に縛られていた。
鼓動が一層速まってくる。何でもいいから現状についての手がかりが
声はどれも男の声だった。自分の鼓動がうるさいせいで会話の中身がなかなか聞き取れなかったが、しばらく耳をすませ続けたのち、ニコラは息をのむ。
(ガルフォッツォ語だ……!)
ニコラは確信した。
ここは異国の地だ。
不意に隣室で大きな音が
ニコラは青ざめるしかない。何が起こっているのかもわからず、とにかく這いずって扉から
その扉が、音を立てて勢いよく開かれた。ニコラは反射的にふりむいた。
扉を開け放したのは、ひとりの青年だった。
床に転がるニコラを見下ろしてくるその目は、
彼はまっすぐに見下ろしてくる。どこか
ニコラは動けない。この状況に、もはやついていけなくて、頭も体も固まってしまっていた。
両者とも何も発さず、
隣室の床に三人の男が
「えーっと……君は、誰なのかな?」
小首を
あなたこそ誰なんですかっ! これどういう状況なんですかっ! と質問
頭の中でガルフォッツォ語の単語の記憶を引っ張り出していると、
わけもわからず
青年に、いとも軽々と、全身を
「な……っ!?」
ニコラは
人を抱き上げる機会はやたらあったけれども抱き上げられる側になることなどただの一度もなかったこの自分が、今なぜだか、軽々と抱き上げられて宙に
(ち、近い……!)
青年とニコラの間に距離などというものは存在していなかった。
ニコラは大いに
「君、ちょっと動かないでいてね。お願いだから静かにしてて」
耳元で低音の声で
「おい、このザマは何なんだ! 何があった!?」
突然、
「おいおまえら起きやがれ! だらしねえな!」
「あーダメだ、こりゃあ当分目ぇさましそうにねえ。どうしたってんだよ一体よぉ」
連れ立ってやってきたらしい複数の男たちが口々にわめいている。
「ああっ? おいおいおいおい! もぬけの
今度はこちらの部屋へ、どすどすと乗り込んできたらしい。すぐそこに迫る柄の悪い男たちの気配に、ニコラは
「なんでだよ!? 両手両脚きっちり拘束してたってのに!」
「じゃああれか、このザマはぜんぶあのユマルーニュ
ほどいてあっちの三人ぶちのめして
「腕の立つような野郎にゃ思えなかったんだがなぁ。
「せっかく苦労して持ち帰った
どやされる! あの
「おい待て、こいつらはどうする。ここに置いてはおけねえだろ」
「ああもうめんどくせえな、役立たずどもがよぉ……」
重い重いと口々に文句を
辺りはしんと静まり返り、もうここにも
しかしニコラの耳の底では男たちのわめき声がいつまでもこだましていた。彼らが話していたのは、ニコラのことに
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