“黒幕”
※軽度の性的描写が含まれています。閲覧の際はご注意下さい。
「ふざけた事を… こんな事をして、許されると思ってるの!?」
旧・面談室に閉じ込められ、同じ室内にいる台地へと憤りを示す、東間萌。
その視線は、普段の清楚な姿からは想像もつかないほど、憎悪に満ちていた。
するとここで、台地が自身のスマートフォンを取り出し、何処かへと通話をかけた。
そしてそれを耳にあてがう事なく、そのまま手にもって待つ。すると三、四秒後。
♪~
「!?」
東間のポケットの奥から、木琴主体の着信音が鳴ったのだ。
東間は恐る恐るそれを取り出し、画面上に映る発信元を確認する… 末登録の携帯番号だ。その様子を見た台地が切電ボタンを押してすぐ、東間への着信も止まったのであった。
「な、なんで…」
「この部屋に来たの、ラムに呼び出されたからだろ? こっちは本人から全部聞いてる」
「くっ」
東間は後ずさり… するにも、黒板に背が当たって動けない。
するととうとう吹っ切れたのか、東間が小さく溜め息をつき、やがて台地を見下すような態度へと変わった。
虫の様な小声で「あの女――」と舌打ちした瞬間も、台地は見逃さなかった。
「えぇ。そうですけど。でも、それが何か!? 同級生と連絡を取り合うくらい、別に普通でしょ。それで、これが園田さんのいう『私が全部やった』という話と何の関係が?」
「夢占いが導いた結果通りに当たる。何度も当たる。怖いくらいによく当たる―― この町へ引っ越して以来、俺はそんな不可解な現象を何度も見てきたけど、あれ全部、お前がそうなるよう仕向けていたんだな。
聞いた夢の内容を、警察の足がつかないよう文章ではなく絵にして描いてもらうため、社会的立場の弱いラムを捕まえ言いなりにした。そしてその絵を見て、あたかも占い通りになったかのように裏で工作を
「はぁ。なに、その大掛かりな工作は… じゃあ実際にそこまでやるとして、私に一体何の得があるとでも?」
「『あの生徒会長に悪い虫がつかないよう、邪魔な女は全員潰す』。それがお前の目的だ。
特に、あの鷹野に対しお前は異常なほどの嫉妬心を向けていた。だけど一向に、鷹野が悪評だらけの部活を離れる様子がないから、しまいには人を雇い鷹野を電車に轢かせ殺す計画を立てた。バイク事故で死ぬ夢と辻妻を合わせる為にな。
でも、実際に轢かれたのは鷹野に似た格好をした天津だった。天津は人違いで殺されたんだ! …それで後に引けなくなって、自分の意図を誤魔化すために、今度は俺達全員道連れにする方法に変えたんだろうよ」
台地の押し殺す様な声が、怒りで震え、嗚咽交じりに視界が霞んでいく。そして、
「あはは…! あははははは!!」
東間が、タガが外れたのか徐々に高笑いをあげたのだ。
転校してまだ半年も経過していない男子から、ここまで推理されてはもう、笑うしかないようだ。東間はこう言い放った。
「ねぇそれ、なんてラノベぇ!? あはは、そんなもの、一人で推理して楽しんでるのぉ? それともあんな部員達と一緒に過ごしたせいで、自分まで感化されてオカルトに目覚めたとか? ねぇ園田さん、あなた頭大丈夫?」
「なぁ… お前、いい加減にしろよ。人が死んでるんだけど。
思えば俺のクラスに鷹野の噂が流れた時点で、どうも違和感があった。あれもお前がそう仕向け、本当なら俺をトー横へ行かせて殺させる魂胆だったんだろう? 違うか?」
台地はそう言い放ち、手に持ったバットの先を東間に向けた。
ここまで来たらもう、東間は隠し通すつもりなどないのだろう。笑いがある程度静まり返り、瞳孔を開かせたその目を向け、楽しそうに話し始めた。
「ねぇ知ってる? 今の日本って、生まれた時点で上流階級だけが同じ上流階級になれるの。貧困は貧困のまま、どんなに頑張っても出世できないし、同じ上流階級の土俵に立つ資格さえない。だから海外へ逃げる日本人が増えてきている。それが賢い生き方であり現実よ」
「…何がいいたい?」
「私、この学園では顔が効くの。父は先生方にとても気に入られているし、私自身、学年トップの成績を維持するために努力している。生徒達からの信頼もあるから、一年で生徒会役員に抜擢された。
そんな実力のある私を、こんな薄汚い場所に閉じ込めて、ただで済むと思わないでね。父と、その友人達の力があれば、あなた達一家に社会的死を与える事なんて簡単ですもの」
「挙句の果てに脅迫か。その前から、既に俺達を殺しにかかってきておいて、何を今更」
「ねぇ園田さん。この虹渡学園が芸能人出身校であること、あなた忘れてるんじゃありません? 父の友人は、正にそのOBである大御所なんですけどもそこ、ご理解頂けて?」
夢に亡霊として現れた、杯斗のいう通りかもしれなかった。
目の前にいる黒幕は、台地一家の力で勝てるような相手ではない。
父親は市議で、しかも芸能界とも
「だからって、人を不幸に陥れていい理由にはならねぇだろ」
「だってここの人達、『バカ』なんだもん。ちょっとお金をちらつかせれば、すぐ媚びを売り、すぐ寄ってくる。でもこちらにだってプライドはあるから、お金が欲しければそれ相応の仕事をして貰うのよ。あの税金泥棒のメガネブスも、
「だからラムがあんなに怯えてたのか… 狂ってるよ。お前」
「なんとでも言えばいい。どちらにしても、あなたがここまで提示してきた推理はどれも『私が主犯』だという証拠にはならない。放火か何か知らないけど、仮に警察のお世話になったとして、父の人脈と財力さえあれば、私は幾らでも社会復帰できますから!」
ばち、ばちばち、ばち…!
そういうと突然、東間はその場で自身のブラウスのボタンが弾け飛ぶほど、荒々しく服を脱ぎ始めた。
「え…!?」
台地はこの突然の展開に、頭の処理が追いつかなくなる。ある程度の抵抗は起こりうると考え、金属バットを持参してきたが、脱衣は想定外だ。東間はヤケクソか、息を切らしながら、スカートのアジャスターが壊れるほどあられもない下着姿を晒け出したのであった。
「な、何してるんだお前…!」
「あぁぁぁぁ!」
「ひっ」
どん。
台地があたふたしている隙に、東間が血眼になって、台地へと覆い被さってきた。
バットを振る間もなく、押し倒される。遂にはハニートラップで台地を冤罪にかけるという悪あがきか。
「や、やめ…!」
台地は抵抗しようとするも、恐怖で動けない。小柄で華奢な娘を相手に手を出せない悔しさが襲い掛かる。
そして…
「そこまでよ!」
部室の窓から、聞きなれた女声が響いてきた。
「!?」
東間はその手を止め、驚いた顔でそちらを見た。
台地は、辛うじて東間からの性的暴行を免れたのだ。今にも泣きそうな顔で、東間とともにそちらへと見やる。
いつの間に入ってきたのだろう、窓際に置かれている木製のロッカーの上に座っているのは、女性二人であった。
一人は手に小さなビデオカメラを持ち、この様子を撮影している生徒会の白石。
そしてもう一人は…
足を組み、こちらを鋭い視線で見つめる、阿仁間ナオの姿であった。
(つづく)
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