同好会、廃止を要請す。

 聴くに耐えかねる、残酷な報道内容であった。


 天津に続き、今度は杯斗が、何者かの手によって殺されたのだ。

 台地の視界が、真っ白になった。


 ――だから連絡がつかなかったんだ。いったい誰が、何のために?


 ――まさか、天津を殺した犯人と同一人物か? という事は、俺達も狙われている!?


 ――また… 部員を救えなかった。俺が、早く夢の事を言わなかったせいで、また!


 その時、校内放送のチャイムが鳴った。

 よく聞いていなかったが、ナオははっとなり耳を立てる。この後の放送内容を、察した。


 『生徒の呼び出しを申し上げます。三年、阿仁間ナオさん。大至急、職員室へ来てください。三年、阿仁間ナオさん、大至急――』


 ガラガラガラ!

 「おまたせ! はぁ、はぁ、思ったより時間がかかった… ねぇ何なのあの報道!?」


 ラムの入室だ。消極的なメガネ女子が、珍しく息を切らし、怯えた顔をしている。

 その様子だと、恐らく彼女も先のニュース速報を見て知ったのだろう。ナオは冷静に、だけど悔しそうな表情を浮かべ、静かに立ち上がった。


 「莉々を問い詰めようと思ったけど、今は、それ所じゃないみたいね… いってくる」

 「あの!」


 台地は我に返り、ナオを呼び止めた。ラムも何となくこの後の状況を察したようだ。

 「俺も、一緒にいきます! 部長一人では心配です」

 「わ、私も。ここの先生達の事だし、きっと部活の件で、呼び出しただろうから」


 そういって、後輩が二人も、自分の為に同行すると前を向いている。


 ナオは少しばかり驚いた表情で、台地たちを見つめた。「みんな…」と、囁いた。




 台地たちが向かった職員室は、外から見ると、まるで無人であるかのように薄暗い。

 電気は学校全体で省エネルギーを取り組んでいるのだろう、扇風機が二台と、教員持参のPCが稼働しているのみ。


 そんなジメっとした職員室へ入ると、中には教職員が三人と、生徒会役員が二人。

 会長の誠司と書記の東間だ。彼らも呼び出されたのだろう、物々しい空気が漂っていた。

 ナオを筆頭に、夢占い同好会メンバーは緊張した面持ちで教職員らの前に立った。


 「同好会を廃止…? それ、本気ですか!?」


 ナオが、教員の一人から下された部活動の進退に対し、怪訝な表情を浮かべた。

 休部から一週間が明け、活動を再開したそばからこれだ。教員らの言い分はつまり、


 「天津といい、織田といい、同好会会員が立て続けに亡くなっている。そんな事を全国区で報道されては、この学園に問題があるのではないかと疑われても致し方ないだろう。当園に通う生徒達にもよからぬ疑いがかけられる。そうなっては我々としても困るんだ」


 「えぇ、先生の言う通りよ。大切な部員が二人も亡くなって辛い気持ちなのは分かるけど、もうここまで事が大きくなっている以上、あなたたちの部活動を存続させるわけにはいかない。この事は、学園長からも念を押されているの。だから…」


 「ならもう一度、ここにいる会長を説得し、休部届の延長を申し出るまでです。

 そもそも、なぜ今回の件で態々部活動の『廃止』をしなきゃならないんですか? 確かにニュースでは死んだ二人の身元を『虹渡学園の生徒』と報道していますが、『夢占い同好会のメンバー』とまでは報道していませんよね? そんな事をされたら、流石の私も怒ります」


 ナオの言う通りだ。その辺りはテレビやネットの情報を元に、前もって調べがついている。

 これには会長の誠司も特段、反対はしていないらしい。彼がナオのその意見に小さく頷く瞬間を、台地は見逃さなかった。


 すると最初に廃止を言い渡した教員がドカッと椅子に座り、深いため息をついた。


 「あのなぁ阿仁間。お前は当園が今、どれだけの人から疑いの目を向けられているのか知らないのか? 実は今日、犠牲者が二人とも同好会に所属している事を知る一生徒の保護者から、『そんな他人に殺意を向けられている様な怪しい同好会、早く廃止して下さい』と強いクレームが来ているんだよ! たく、分かんねぇやっちゃ」


 それが、教員側の言い分であった。台地もラムもこれには唖然となった。

 ナオはただ、静かに怒りの視線を向けるのみ。すると女性教員の方がふと、周囲を見渡す様に視線を泳がせてすぐ、ナオにこんな質問をした。


 「そういえば同好会のメンバーをこうして連れてきているけど、鷹野さんは?

 …まさかとは思うけど阿仁間さん。休部中に鷹野さんを放課後すぐに帰宅させず、ほったらかしにしてきたわけじゃないでしょうね?」

 「!?」

 「その様子だと、図星ね。ねぇあなた、自分の立場分かってるの? あんな惨い人身事故があったのに、休部中に部員を自粛させないなんて、流石に非常識にも程があるんだけど?」

 「なっ…!」




 台地の拳が、小さく震えている。

 我慢の限界であった。



 部員の立て続けの死で、本当なら一番悲しんでいるはずのナオに対し、あまりにも心ない教職員による説教の数々。


 台地は震えた声で、静かにこういった。


 「勝手に… 決めつけないで下さい」


 教職員らは台地の声を耳にし、揃って畏怖いふの表情を浮かべた。

 思ったより声が聞こえたらしい。だがそんなこと、台地にとっては最早どうでも良かった。


 「そこまでいうなら先生であるあなた達が、鷹野を気にかければ良かったじゃないですか! あの時の葬式といい、今日といい、なんでこうなった原因をすぐ部長に押し付けてくるんですか!? その言い方だと、まるで部長が全部悪いみたいじゃないですか!!」

 「やめて園田くん!」「台地おちつけ!」

 ナオと誠司がハッとなり、そういって前に進もうとする台地を止めに入った。台地は今や、頭に血が上っている。ここで二人が彼を止めなかったら、確実に教員を殴り倒していた。


 「人が、死んでいるというのに…! さっきからあんたらは、自分さえ良ければ、それで良いみたいに振る舞いやがってよぅ! クソが!! ふざけんじゃねぇよ!!!」


 台地は、自分でもまずい暴言を吐いている自覚があった。

 だけど、どうしても我慢できなかったのだ。目から大粒の波が零れ落ちる。


 この学園に対する悪い噂は部員達から聞いていたけど、まさかここまで事勿ことなかれ主義が根強いとは。

 すると台地の言葉に憤慨した女教師が、

 「あんた…! 教師に向かって、なんて口の利き方をしているんですか! こっちの都合も知らないで! あのぅ、先生。彼はこれからどうしましょう? 明日、反省文ですかね」

 「う~ん、そうだなぁ。こうやって、一方的な怒りを向けられては逆に信用できないしなぁ。そうしたら、明日は生徒指導室ではん――

 「申し訳ありませんでした!! どうか、園田のことは見逃してやって下さい!!」


 と、ここで誠司が教職員らに向かって、瞼を固く閉じて土下座をしたのだ。

 ナオとラムは驚きのあまり、目を大きくして固まった。台地はずっと嗚咽を上げていた。


(つづく)

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