生徒会書記、訪問。

 「そうだったの… 災難だったわね。で、あれからまだ犯人は見つかっていないの?」


 放課後の部活動。

 結局、先のバイト面接で不採用となった台地は、引き続きこの夢占い同好会にて、ほか部員より一足早く、面談室で部長のナオと話をしていた。

 自宅に長居し、母親に暇を持て余していると悟られたくないので、この部室内でまた新たなバイト求人を、スマホの画面に映る検索から探っている。台地は「はい」と答えた。


 「そう簡単に足が付かないという事は、偽札は海外から製造されている可能性があるね。どっちにしても相手は何を考えているか分からないから、たとえ実際は前の住民に向けた嫌がらせで送られてきたものだとしても、念のため園田くん一家は用心すべきだと思う」

 「そんな… そこまで、気を遣わないといけない状況なんですかね?」

 「うん。私はそう思う。あなたのお母さんの気持ちが、すごく分かる気がするもの」


 余談だが、家のポストに偽札が投函された件は、ナオにだけ伝えてある。

 彼女のような部員思いのリーダーなら、信頼できると思ったからだ。

 別に、ほか部員には絶対に内緒にしたいという話ではない。今日までの交流で、自分の話を一番真摯に受け止めてくれる人が、偶々ナオだっただけの話である。


 「やっほー!」「おつー」

 面談室に、天津と鷹野が一緒に入ってきた。さらに、

 「どうも」「うっす」

 絵描きのラムと、希少な男子部員の杯斗まで、ほぼ同時に入室した。これで全員か。


 「おはようみんな。昨日はどんな夢を見たの?」

 と、ナオが機転を利かせ、珍しく部員たちに夢の内容を質問した。それぞれの答えは、

 「うーん。見たは見たけど、いつも通りよく覚えてないんだよねぇ」

 「夢見てない」

 「見た。後で絵にする」

 「俺も曖昧だけど、まぁ見たというか、よく知らない曲が流れただけだったわ」

 という杯斗を最後尾に、各自それぞれの席についた。


 こうして、いつもの部活動が始まった。

 とはいっても、ほとんどの部員は名ばかりで、ただ部室を借りているだけ。

 台地は、最初こそは異様な空気だと思ったものの、今ではそれも慣れてしまった。


 「うふふ。今日は、良いことが起こりそうな予感」

 ここで、ラムが意味深な事を呟いた。天津が「どうしたのー?」ときく。

 「うさぎと猫が、仲良く遊んでいる所を、ヒヨコをたくさん従えている私が見つめる夢を見たの…! うさぎはラッキーバニーで、猫の気を引くほどの対人運上昇を表している! そして、たくさんのヒヨコがいる私はそれだけ多くの部下に頼られる暗示…!! グフフ」


 なんて、相変らずサイコパスな妄想癖全開だ。

 それでも、台地を含む部員一同はいつもの事だと見て流す。慣れって怖い。


 「くっ…! でも、やっぱり何かが足りない!」

 ラムが、次にそんな事を言い出し、途端に怒りの表情を浮かべた。

 さっきは気色悪い笑みを浮かべていたのに、この豹変ぶりだ。多重人格者だろうか?

 「夢は、その人の記憶の情報の整理! という事は、もっともっと強い吉兆を絵に描くには、それだけリアルを経験し、目に焼き付けないといけないの…! なのに!!」

 「ちょっと、ラム?」


 急に、怖い事をいいだした。

 ラムは、何を思い出したのだろう? 正直、聞きたくないが気になって仕方がない。

 これには流石のナオも、嫌な予感を察したのか目を大きく見開き、筆を持った手を震わすラムへと振り向いた。その時。


 トントン。ガラガラガラ~


 この面談室の扉が、突然のノックのあと、静かに開いたのだ。

 台地たちは無言になり、一斉にそちらへと振り向く。

 扉の向こうから顔を出してきたのは… 小柄で、透き通った肌の清楚系女子であった。


 「失礼します。みなさん、活動の様子はいかがですか?」

 その人は、紙を挟んだバインダーとペンを手に持っている。

 腕章からして、明確にこの学園の生徒会員である事が分かった。ということは、

 「いらっしゃい、東間とうまさん。見ての通りよ」

 と、ここは部長のナオが臨機応変に対応する。台地は初対面であった。


 ――なるほど。この人が、前にNINEでいってた東間萌さんか。生徒会書記の。


 「紹介するね。彼は今年度に転校してきたばかりで、新しく入部した園田台地くん」

 ナオが、手を差し伸べた先にいる台地を東間に紹介した。東間が振り向く。

 「「はじめまして」」

 と、お互いに同じタイミングで挨拶を交わした、台地と東間。東間が口を開いた。

 「いつも通り、部活動は継続して行われているようで安心しました。あ! それで、実はそちらの園田さんの件で、お願いしたい事がありまして」

 「ん? お願いしたいこと?」

 と、ナオが疑問符を浮かべる様に反芻はんすうする。


 「園田さんがこの学園に転校してきたことは、実はもう、既に生徒会の方で話が流れていて。それで、ぜひ一度、園田さんには生徒会にお越し頂きたく…」


 台地は内心驚いた。

 ただの見回りで、生徒会書記が来たかと思えば、まさかの自分を生徒会へ呼び出しだ。


 ――俺、もしかして、何か悪目立ちするような事でもしたのかな?

 と、途端に不安になる。先日、柄の悪い先輩達に囲われた件が頭をよぎった。


 「差支えなければ園田さんを、ほんの二、三十分程度お借りしても、いいですか?」

 なんて東間の口から頼まれる位だから、台地としては緊張することこの上ない。

 この展開は、ほか部員からみても、少し予想外だったようだ。


 するとナオは、少し考える様に顎をしゃくりながら、台地へと目を向けてこうきいた。


 「その依頼は、予想してなかったな… 園田くんが、それでいいのなら。どうする?」


 台地は、大きな選択を強いられた。

 ここはナオの言う通り、一応礼儀として生徒会へ足を運ぶべきか。それとも。


(つづく)

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