芸能人出身校の闇

 「――わかったわ。では、今日から園田台地くんは我が部の正式なメンバーという事で。生徒会には、あなたが書いてくれた入部申請書を出しておくからね」




 こんな未来を、一体誰が予想していたのだろう?

 台地は放課後、再び夢占い同好会の部室へと行き、すぐに入部申請をした。


 けさ、柄の悪い先輩達からあんな事・・・・をされたのだ。

 ナオが助けに来てくれたから、もう今後はあんな脅迫を受ける事はないかもしれないが、念には念を入れ、入部の証拠は必要だと判断した。要は既成事実である。


 「園田くん、きいたよー。あの梶原先輩達に因縁つけられたんだって?」

 入部から数分ほどして、天津が横入りしてきた。

 正直、その質問には答えたくなかった。自分の情けなさが浮き彫りになるからだ。

 だけど、今はもうそんなプライドを振りかざしたって仕方がない。彼は渋々答えた。


 「…まさかもう、暇人の転校生だって、先輩達に目をつけられると思っていなくて」


 すると、

 「あんれま、そりゃそうだよな~、ドンマイ。でも、これで当分は安泰じゃね?」

 と、杯斗が遠い席から相槌を打った。

 その相槌が、台地にとっては更に羞恥心を煽るものであった。




 「え? あの『録画しておいた』というのは、ハッタリだったんですか!?」


 あれから数分後。

 台地はナオと世間話の過程で、彼女の口から聞かされた新事実に驚きを隠せなかった。

 なんでも台地が、あの柄の悪い先輩達に目を付けられていたあの時、ナオはスマートフォンを取り出し「証拠を警察に突きだす」といっていたが、実際あれはナオが咄嗟の判断でついた「嘘」であった。録画データなんて存在しないのだ。

 通りで、あの時のナオのスマホは画面が暗いままだったし、一向に通報をしないわけである。証拠がないから、警察もたいして聞き入れてくれないだろうという結論であった。


 「ごめんね。あなたが脅されている様子をみて、撮影なんてどころじゃなかった。それに、あの場所はわりと緑に覆われて死角になっていて、録画する余裕がなかったの」

 「なるほど、そういう事だったんですね… でも、あの時は本当に助かりました。ありがとうございます」

 「ううん、いいの… まったく。あの人達は隙を見せるとすぐああだから」


 そういうと、ナオが視線を向けた先のタイミングで、今日も面談室でくつろいでいる杯斗が続けて話しかけた。


 「そういえばお前、園田だっけ?」

 「え。はい」

 「どうして、この学校に転校してきたの? 母親の仕事の都合とはいえ、他にもそこら中に高校はあるし、なんならうちと同じレベルで治安がいい所もあるのに?」


 「…」

 まだ、あまり話した事がない部員から、かなりストレートな質問をされる。

 しかもそこから、転校して早々虐められそうになった台地にとって、知りたくなかった情報まで、同時に流れてきたのだ。

 だけど、ここは同じ部員仲間。台地は素直に答えることを決めた。


 「引っ越し先から近いのと、その… 多くの芸能人の出身校だって、きいたから」


 「「あー」」

 その瞬間、台地の回答を耳にした部員のほぼ全員が、納得した表情で肩を落とした。

 その反応には、少なからず憐れみの表情が含まれている。天津が落胆した。


 「底辺校あるあるだねー。とりあえず、OBの芸能人の名前さえ出せば入学希望者がたーくさん寄るから、その入学費用だけガッツリもらって、あとはいじめも不登校もぜーんぶ無視! で、教師は自分達だけ金儲け出来てウハウハ~ってやつ」


 台地は絶句した。この学校に、そんな「深い闇」が潜んでいたなんて、知らなかったのだ。さらに、

 「その芸能人の出身校って話、もう何年前のやつだよ? 直近でも二十年くらい経ってるだろ、あのV系バンドのボーカル高橋一騎な。あとは、ベテラン女優の堀えつ子だったり、落語家の養老亭かん平なんて、もう還暦を過ぎてるんだぞ」

 なんて言い出すものだから、どんどんこの学園のボロが出てくる。

 「まぁ、俺も人の事はいえないけどね!」

 と、続けてそう苦笑いに自虐をする杯斗であったが。


 つまり台地は、この学園のネームバリューと通学の利便性につられ、転校してきた。

 だがその結果、実はここがとてもブラックな学校だと、後から気づいてしまったのだ。


 そんな事、分かっていたなら最初から転校先に選ばなかったのに。

 これは「騙された」 …といった方が正しいか?


 「ねぇ。話かわるけど」

 と、ここでまた新たな声が浮上した。絵描きのラムだ。

 「園田さん。あなた、最近どんな夢を見たの?」

 「え」

 「夢占い同好会のメンバーとして、知りたいんだけど」


 この部活に入って、初めて本題に触れられた。

 台地は、先の虹渡学園の闇に気を取られ、すっかり夢占いの件を忘れていた。

 そうだ。本来はその「夢」の情報共有こそが、ここの活動理念である。台地はある意味、この学校の「闇」から脱出する切欠を与えてくれた、ラムに感謝した。

 「あー。あんまり、いい夢じゃなかったかな」

 と、当たり障りのないように答える。ラムは続けた。

 「それって、どんな?」

 「え!? うーむ」


 ――随分と押してくるなぁ。


 と、台地はラムのその意外な一面に動揺を浮かべた。

 直近のことだから、もちろん「あの夢」の件だ。

 本当は、あまり具体的に言いたくないのだが… ここは表現をマイルドにして答える。


 「…母を、刃物を持った男から守るために、俺がそいつを“倒す”夢だった」




 「「…」」

 その場の空気が、途端に静まり返った。

 ラムだけでなく、杯斗も、天津も、部長のナオまで。全員が台地の顔を見つめる。


 ――え? な、なんだよみんな。そんな目で、俺を見ないで。


 だから言いたくなかったのに。と、台地は思った。

 そうだ。ここは夢占い同好会なんだ。理由はどうあれ、少なからずそういうのに興味があるから、入部してきた人達の集まりである。その辺り留意すべきだと反省した。


 「という事は… 殺したの? 知らない人を、殺す夢を見たの!? あの吉夢を!?」


 と、ラムが途端に目を大きくし、詰め寄る様に台地へと前のめりになった。


(つづく)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る