不思議な部員たち

 「そうそう! せっかく来てもらったんだし、ここにいる部員たちも紹介するね」

 ナオはそういって、次にこの部室でたむろしている生徒達へと手を伸ばした。


 そういえば、台地がずっと気になっていたことだ。

 この部活動は、部長を除き、夢占いに勤しんでいる人が見当たらない。と。


 「もう本人から自己紹介は受けていると思うけど、けさ、あなたをここに誘ったあの子は天津杏子。歳は私と一コ違いなんだけど、昔からのご近所付き合いで、ずっと一緒に遊んできた仲なのよね」

 「やっほー」

 と、天津が室内の一角に置かれている「人をダメにするソファ」の上から、だらけた仕草で手を挙げた。隣には、ノートに何かを綴っているメガネの女子生徒がいる。


 「その隣にいるのが、杏子と同じクラスの丹疋にひつらむ。『にひつ』って苗字は少し呼びづらいから、私達は『ラム』って呼ばせて頂いているの」

 「…よろしく」


 そう、ラムと名乗るメガネ女子が低いトーンで挨拶をする。

 前髪が長く垂れかかっていて、顔が半分ほど陰で隠れているその女性は、ある意味この部活動内で最もそれらしい・・・・・雰囲気を放っていた。


 おまけに、ノートに綴っているのは「絵」。

 それも描かれていたのは―― 人間が、猫を刃物でメッタ刺しにしている絵であった。


 「あぁ。女で、虎猫を殺す夢を見ると吉夢なんだって。私、文章かけないから」


 と、薄ら笑いで絵について説明するラム。

 誰も聞いていないのに、これは予防線を張っているのか…? と、台地は内心思った。


 「で、更に奥にいるのが、杏子と一緒にあなたを誘った鷹野莉々。彼女はまぁ、私たちの中で一番『夢』に縁がないというか?」


 そういってナオが手を差しのべた先、鷹野は机に肘をつきながら、あの時のようにスマートフォンを弄っていた。

 両手持ちだからか、やけにフリック入力が早い。


 「夢に縁がないというのは?」

 「あー私? 私、ぜんぜん夢みないんだよね。たぶん、そういう体質なんだと思う」

 と答える鷹野。だけど、なんだか眠たそう。

 「へぇ」と、自分とは正反対の人がいるんだなぁと思う台地であった。


 そして最後。

 鷹野のすぐ近く、最後尾の椅子と机がまとめて片付けられている窓際で、スポーツ刈りの男子生徒がだらけた姿勢で座り、目をつむっていた。

 しっかり目を通さないと見えない位置に、その生徒が座っているからか、女子ばかりだと思っていた部活に男子がいる事を知り、台地は僅かに驚いたのであった。


 「彼は織田杯斗はいとくん。彼はあなたの様に、二年前に祖父と共に引っ越してきたそうよ」

 「へぇ。あ、どうも」

 と、ここは杯斗と名乗る男子に挨拶をする台地。

 女子に対してはともかく、同じ男子にはしっかり挨拶をする。それが台地のやり方。


 「くぁー… ういっす」

 すると、杯斗は先程まで眠たかったのか、椅子に座ったまま伸びをして挨拶を返した。


 「まぁ、うちのメンバーはそんなところね」

 と、ナオが部員紹介を終え、肩をなで下ろした。

 「それで、どう? もちろん今すぐでなくていいし、辞退や再入部も受け入れるけど」

 「えっ」

 「うちの部活、入ってみる? 杏子からきいたけど、なんでもバイト先が見つかるまでの“逃げ道”として、どこかしら入部の検討を視野に入れているそうね?」


 ――あれ? 俺、そんなこと一言もいっていないような。


 台地は戸惑いを隠しきれなかった。

 ふと、天津の方へと目を向けると、天津がその視線に気づき静かにウィンクをする。


 ――そう言う事か。あいつ、なに勝手にそんな嘘を部長に吹き込んでんだよ。


 と、すぐに察しがついたものだ。

 だけど、それは間違っても表に出さないでおいた。

 お互い心証が悪くなり、後々面倒な事になる前に、早めに白黒をつけたいからである。


 「また、近いうちに考えます」

 台地が言える返事は、精々それくらいであった。


 とりあえず、すぐに入部したからといって即、活動や研究に勤しむよう指示されるサークルではないことは分かった。

 また、実際に占いを行っているのはナオと、次点に夢の内容を絵に描いているラムくらいで、あとのメンバーは「暇つぶし」や「逃げ道」が目的であることも分かった。それでも、部長のナオは入部を受け入れてくれているのだ。


 ナオは占い師というより、心理学者タイプの思考の持ち主である。

 きっと、台地が思っているほど彼女は狂信的な性格ではないのだろう。なら、ここは入部してもいいのかもしれない――。そう思った。


 だけど、問題は他のメンバーだ。

 部長含め、まだ部全体の考えている事や、人間性までは分からない。もしかしたら、中には入部した途端に、態度が豹変するやつがいるかもしれない。


 ――もう少し、相手を見極めた方がいいよな。


 台地はそう結論づけた。

 そもそも転校初日。行動に移すには、まだ何もかも早い段階である。

 

 「そう。わかった。今日は来てくれてありがとう。また、いつでも立ち寄ってね」


 ナオは、台地の返事を快く受け入れた。台地は安堵した。

 これで、やっと今度こそ家に帰れる。


 台地は小さく一礼し、席を立ちあがり、面談室を後にしていった。




 「なぁ。あいつなんか、目の下のくますごくなかった?」


 台地が部室を出た後――。

 夢占い同好会のメンバーで、そんな噂話がされるようになった。

 「あれ、ちゃんと寝れてねぇんじゃね?」

 と、先程まで眠たそうにしていた杯斗が、そういって台地の事を気にかける。

 「うん。たぶんね」

 ナオは答えた。台地の目は、確かに少し隈が目立つのだ。


 「ねぇねぇー。それって、眠りが浅いって事だよね? 園田くん夢を見るのかなー?」

 「さぁ」と、天津の質問に対しナオが肩をすくめ、パソコンのキーボードを打つ。


 だが、ナオはなんとなく気づいていた。

 台地が、実は夢を見やすい体質であり、かつ部としては放っておけない存在だと。


(つづく)

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