第17話 新兵器の開発
ノアとオフィーリアは、ルーク砦の攻略に向けて準備を進めていた。
「あの砦は両側を崖に挟まれ、全面非常に硬い石造りの壁で構成されています。壁面を破壊するのは不可能なため、正面から梯子をかけて攻撃するしかありませんが、それには数千人の犠牲者を出し、数ヶ月の滞陣を要することが予想されます。まさしく難攻不落の砦と言えるでしょう」
「ふむ。数千人の犠牲者と数ヶ月の滞陣か。あまり長引くのは避けたいところだな」
長引けばまたあの旧クルック領の重臣どもが何をしでかすかわかったものじゃない。
「また、砦にはここら一帯では1番の勇者と名高い騎士ヘカトンが守りについています」
「ヘカトン?」
「はい。なんでも身長2.2メートルを超える大男で、【剛腕】のギフトを持ち、鬼を素手で殴り殺したこともあるとか」
「なるほど。それは厄介だな」
ノアは考えた。
「なるべく少ない犠牲で高い戦果を得る。こういう時の考え方は一つだ。自分達の長所を尖らせて、相手の短所をつく」
「は。しかし、我が軍の最大の長所は大人数を動員できる統率力と速攻で進撃する機動力。今回は攻城戦のため、これを活かせません。敵にも目立った弱点などは……」
「長所に関しては目星がついている。敵の弱点にもな」
ノアは弓矢を手に取る。
ここら一帯で使われている何の変哲もない弓矢だった。
翌日、ノアは自軍のあらかじめ目星をつけておいた連中を呼び出して集めた。
彼らは一様にしょんぼりした顔をしていた。
「君達がこれまで手柄を上げることが出来なかった小隊長だね」
そう言うと彼らはますますうなだれる。
彼らは旧クルック領での戦闘でも、悪鬼の里でも手柄を立てられなかった者達だ。
そればかりか戦場に期限通り到着することすらままならなかった連中である。
(だが、それだけに尖った資質を持っている可能性が高い)
ノアは騎士姿の若い娘を鑑定した。
エルザ
統率:D→D
近接:D→D
騎戦:D→D
(統率、近接、騎戦、いずれもDクラス。ふむ。確かにこれではオフィーリアの求める機動戦に応えるのは難しいだろうな)
ノアは鑑定の視点を変えてみる。
エルザ
射撃:D→A
攻城:E→A
開発:E→A
未知:E→A
(射撃、攻城、開発、未知がすべてAクラスのポテンシャル! やはり。こういうのが混じっていたか)
「よし。君達にはこれから新兵器の開発に取り組んでもらう」
しょんぼりしていた兵士達は、キョトンとする。
てっきり怒られると思っていたので。
ノアは彼らを連れて武器製造職人の下へ行く。
「お前が武器職人か」
「へい。あっしがここら一帯で1番の腕と言われている武器職人ですぜ」
「よし。じゃあ、新たに弓矢を開発しろ。これよりずっと強い弓矢だ」
ノアはこの辺り一帯で使われている一般的な弓矢を取り出した。
弓矢
威力:D
射程:D
取り回し:D
耐久:D
「これより強い弓矢を作れ。威力・射程・取り回し・耐久、すべてにおいて上回る弓矢だ」
「領主様、そいつは無理な相談ですぜ。この弓矢は軍事用の量産型として優れた弓矢でしてね。総合的に考えられた優れたデザイン性の弓矢なんですわ。少しでもバランスを崩せば、どこかしらに弊害が出ます。その証拠にここら一帯の国でこの弓矢を使っていない兵はいないくらいで……」
「それは違うな。むしろ、この弓矢はレベルが低すぎる。
「領主様、そうはおっしゃいましても……」
「いーからさっさと作ってみろって。この弓矢はすべてにおいて最低レベル。Dクラスだ」
「しかし、金の無駄……」
「つべこべ言わず作れっつーの。金はこっちで持ってやるから。はい。まずは威力・射程から。弦の張りと弓の長さを2倍にして。はい。レッツチャレンジ」
(ちっ。うつけ領主が……)
「どうなっても知りませんぜ。ほんと」
武器職人はノアの言う通り、長さと弦の張りが2倍の弓矢を作った。
長さ2倍の弓矢
威力:C(↑1)
射程:C(↑1)
取り回し:E(↓1)
耐久:E(↓1)
「よし。君、射ってみたまえ」
「はぁ」
エルザが的に向かって弓矢を引き絞ると、顔つきが変わった。
それまでの気の抜けた表情から、鷹のように鋭い目付きになる。
(おっ、早速、才能の片鱗が見えたな)
(この弓矢、使いにくい。でも……)
矢が放たれる。
(凄いパワー……)
矢は的から大きく外れてしまう。
それも弾道が大きく捻れてしまっていた。
「ほらね。領主様。全然使い物にならないでしょ」
「まだ、そう決めるのは早いって。10本くらい射ってみろ」
「はい」
エルザはわりと乗り気で次々、矢を射っていった。
3本目で的にかする。
「おっ、今のはいいんじゃないか」
「……」
武器職人は唖然とする。
エルザが射つ度に弾道は徐々に修正され、9本目でついに的に命中する。
10本目も無事、的に当たった。
エルザ
射撃:C(↑1)
未知:C(↑2)
(スキルレベルも上がったな。未知の力に触発されたか)
「どう? エルザ。何かこの武器の不満点とか、希望とかない?」
「うーん。そうですね。ここをこうこうして、この辺がこうなればもっと嬉しいです」
「よし。言った通りのものを作れ」
「一辺に全部するのはちょっと……」
「なら、1つ1つ作っていけ。複数モデル作ってそれぞれ試していくんだ」
「はっ、はいい」
武器職人は慌てて製作に取り掛かる。
こうしてノアと新兵器開発チームは、着々と弓矢の改善を進めていき、やがてルーク領の砦を攻略する日となった。
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