第16話 剛腕の巨人
ノアがオフィーリアと2人きりになると、オフィーリアはすぐに甘えてきた。
幼い頃からの習性で、座るノアの膝に頬擦りする。
「悪鬼退治ご苦労だったな」
「ご主人様……」
ノアが頭を撫でると、オフィーリアは目をつぶって気持ちよさそうにする。
「しかし、あの兵士達の褒賞要求には焦ったぞ」
「まったくあいつら。あとでシメておかないと」
「君が増長していないようでよかった」
「あっ、私のこと疑ってましたね。ご主人様」
オフィーリアは頬を膨らませる。
「そう
「私がご主人様を裏切るはずないじゃないですか。だって、私はご主人様の……、ご主人様だけの騎士なのですから」
「ああ。わかっている。今後も頼むぞ」
「はい」
オフィーリアはノアの指先にその艶やかな髪を委ねた。
そうしてたっぷりノアからの労いを受けて充電すると、オフィーリアはまた司令官の顔に戻って、悪鬼の占拠していた街ドレッセンについて報告する。
「そうか。そこまで酷い状況だったとは」
「はい。この子をご覧ください」
オフィーリアが召使いの1人に何事か命じると、召使いは1人の女の子を伴ってきた。
額から角が生えている。
「その子供は?」
「ドレッセンから連れてきた鬼人の娘です。名をファウナと申します」
「ふむ。鬼人……」
ファウナは人差し指を咥えながらじーっとノアのことを見つめている。
「普通の子供と変わらないように見えるな」
「はい。このような子供がかなり多くいます」
「ただ、ドレッセンの鬼人ということは……」
「はい。彼女の父親は悪鬼です」
「……そうか」
「悪鬼から産まれた子供は基本的に母親に懐き、父親には懐きません」
「ほう。そうなのか?」
「父親はどうも人間との間に生まれた子供を放棄するようです。どうも悪鬼の間では、人間や鬼人との間に生まれた子供を半人前扱いして、自分の子供と認めないようです」
「そうか……」
ノアはファウナに哀れみの目を向ける。
ファウナは、テーブルの上にある果物に目を向けた。
ノアは果物を手に取って、彼女に与えた。
「ほら、食べるか?」
ファウナはパッと顔を明るくして果物にかぶりつく。
「また、彼ら鬼人も父親のことは恐れ、母親にのみ懐くようで、すでに成人した鬼人何名かと話したところ、悪鬼のいる方には帰りたくないと申しており、元いた村に住み着くことを希望しております。ご主人様」
オフィーリアは居住まいを正して向き直る。
「彼らは父親が悪鬼といえど、どちらかというと人間に近い存在です。また、普通の人間よりもやや体つきが頑強にできており、優れた騎兵となる可能性を秘めております」
「ふむ。確かに普通の人間や鬼人よりも騎兵適性が高そうだな」
ノアはファウナを鑑定した。
ファウナ
騎戦:E→A
概して鬼人には騎兵適性の高い者が多いが、悪鬼に親等が近ければ近いほど騎兵適性は高くなるようだ。
彼女は相当人懐っこい娘のようで、ノアの膝に乗って、キャッキャッと愛想を振り撒いていた。
ノアが頭を撫でても気持ちよさそうにする。
ただ、角に触れた時だけ顔を硬直させる。
何か嫌な思い出があるのだと悟ったので、ノアは彼女の角には触れないように頭を撫で続けた。
ファウナは再び愛想良く笑顔を振り撒く。
「ご主人様、彼らのことを受け入れれば、アークロイ軍は将来潤沢な騎兵戦力を有することになるかと」
「なるほど。わかった。彼らのことを領民として認めよう。それで、彼らの心を掴むためにはどうすればいい?」
「さしずめは荒廃したドレッセンの復興及び食糧支援をすればそれで充分でしょう」
「わかった。復興に手を尽くそう。いずれはドレッセンまで行って視察も行うこととしよう」
「は。ありがとうございます」
翌日、ノアはドレッセンをオフィーリアに与えることを宣言した。
悪鬼の討伐を成したオフィーリアには、特別に称号を送るよう神聖教会に申請する。
やがて、彼女はドレッセン卿の名を神聖教会より送られ、オフィーリア・フォン・ドレッセンと名乗ることとなる。
以降、ドレッセンからは毎年のように優秀な騎兵が調達された。
翌日、クルック領の旧重臣達を呼び出したノアは、悪鬼退治が完遂したことを告げ、ルーク公との戦争を始めることを宣言する。
(バカな。悪鬼をたった1週間で駆逐するなんて)
「さて、君達は鬼を倒すのに何十年経っても解決できなかったと言ったが、こうしてオフィーリアは1週間で解決してみせた。このことに関してどう思うのかね?」
「いっ、いやぁ、そのぅ」
「さ、流石はオフィーリア様」
「領主様にあってもこのような将を持てて幸せですなぁ」
「長年の懸案が解決できて本当にめでたい」
旧クルック領重臣達は揉み手でノア達のご機嫌を取ろうとする。
「確か1週間前までは私の資質を疑うような発言が
「ま、まさか滅相もない」
「領主様の正当性を疑う者など」
「そんな者いようはずがないではありませんか」
「うむ。いいだろう。それじゃあ、以前、私に対して舐め腐った態度を取ってくれたルーク公のことだが、彼を討つのに協力してくれるね?」
「は、はいぃ」
「もちろんでございます」
「仰せのままに」
「じゃあ君達1人1000グラずつ資金を供出するように」
「安心しろ。戦争自体は私と領主様の方でやってやる。お前達は金だけ出して、家で寝てればいい。余計なことはするなよ」
「はっ、はいい。全額、出させていただきますぅ」
(くっ。小僧が。オフィーリアとかいう当たり将軍引いただけで調子に乗りまくりやがってぇ)
(これでルーク領の攻略失敗してみろ。世紀の暴君としてディスりまくってやるからな)
旧クルック領の重臣達はそんなことを心の中で思いながら、態度には
ノアとオフィーリアはルーク公との戦争準備に取り掛かる。
その頃、ルーク領の砦では、動揺が走っていた。
オフィーリアが悪鬼を討伐して帰還。
このルーク領への侵攻を準備しているとのこと。
「やっ、やべえぞ。アークロイが攻めてくる」
「しかも今度はオフィーリアを伴って」
「ゴドルフィンを瞬殺し、悪鬼達を駆逐したあのオフィーリアが」
「おいぃ。どうすんだよ。あのオフィーリアが来たらこの砦といえどひとたまりも……」
「ふん。何を
「あっ、あなたは……」
「【剛腕】のヘカトン様!」
その身長2.2メートルはあろうかと思われるスキンヘッドの男は、狼狽える兵士達の前に躍り出たかと思うと傲然と言い放つ。
「オフィーリアなんぞがどれほどのもんじゃい。この砦に来ようものなら、この剛腕のヘカトンが奴の首をこの腕でへし折ってやるわい」
「うおおお! ヘカトン様」
「悪鬼を素手で殺したこともあるヘカトン様ならっ」
「確かに【剛腕】のギフト持ちのヘカトン様なら、あの大女でも仕留められるかも」
「いや、いける!」
「「「ヘカトン! ヘカトン!」」」
砦の兵士達はヘカトンのオフィーリア討伐宣言に湧き上がるのであった。
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