冴えてるぜ! 熟練の技

 「んで、具体的にどうすんの?」

 「界喰みに乗っ取られたのは創獣族といってね。すぐにでもそこを制圧しに行くつもりだ」

 「創獣族ってどっかで……あぁ!」


 確かアレだ。デカい魔物使って焔精族を襲ってきた種族だ。ヒョウヤがそんなこと言ってたはず。


 「知っているのかい?」

 「前に焔精族メタってきた魔獣を倒したぞ」

 「あぁ……ハナビは焔精族の生まれだったね」

 「……なんで知ってんの?」

 「ログを確認した」

 「こわい」


 プライバシーもなにもあったもんじゃないな。まぁレフバーちゃんはかわいいから許すが……。


 「あれ、俺って焔精族生まれなの? どっかから拾われたと思ってたんだけど」

 「キミのようなニュートラルは外部の魂の混入によって種族因子が不具合を起こすことで誕生する。これは土地や親の種族に拘わらず発生する場合がある」

 「はぁ……」


 他所の世界の英雄の特徴を反映させたり、排他本能を植え付けたり、起源書を感じれるようにする因子が、転生者の場合は不具合を起こして普通の人間として生まれてしまう、と。だからまぁ、俺が親も生まれも焔精族であっても何も不思議じゃないわけか。


 「どうやら、キミの両親は産まれた子が焔精族でなかったことで捨てようとするも、情を殺しきれずに孤児として預けることを選んだようだ」

 「はぇ~そうなんだぁ」


 すげぇどうでもよかった。生みの親に縁がないのは慣れてるし……ってかそれは愛情じゃなくて子殺しの罪悪感に負けて逃げの道を選んだだけじゃないのか。ハナビは訝しんだ。結局、俺の親は親父一人か。嫌だなぁ親があのエロ親父だけなの。


 「それはともかく、これから創獣族へ強襲を仕掛けるわけだが、なにか必要なものはあるかい?」

 「必要なもの……」


 急にそう言われてもな……あぁいや、絶対欲しいものが一つあった。


 「お腹がすきました」

 「なるほど」


 俺の要望を聞いたレフバーちゃんは、何やら種のようなものとアンプルのような液体を無から生み出した。……祝詞じゃないっぽいし、管理者権限ってやつか?


 何をするのかとそのまま見ていると、レフバーちゃんはその種を地面に植え、アンプルをぶっかけた。すると、みるみるうちに植物が成長し、ココナッツっぽい実を生やした。


 「なんすかこれ」


 レフバーちゃんはその問いには答えず、実を割ってこちらに差し出してくる。綺麗に割れた実の中には、立派なハンバーグ丼が収まっていた。


 「これでどうだろう」

 「もうドラえもんやん……」


 なんかこういう道具みたことあるもん……もしかして、やっぱりこの世界の食糧ってみんなこんなんなのだろうか。レフバーちゃんは人間に戦争以外の悩み事を与えないために食糧確保の難易度をダダ甘にしているとかなんとか言ってたが、これはやりすぎではないだろうか。美味そうだから貰うんですけど……。


 「っていうか、こんなことできるんならもっとやりようがあるんじゃ? 創獣族の土地だけ不作にするとか」

 「残念ながら、あの一帯だけ私の権限がロックされていてね。正面突破しか選択肢がないんだ」


 じゃあしょうがないかぁ。


 「では、他に要望は? 大抵のものは用意できるが」

 「うーん……戦闘の準備で言うと……銃……いや、身体スペックがなぁ」


 ザラさんの腕につられたのか多少身体が成長したものの、祝詞なしの俺は未だに普通の少女並の身体能力しかない。使い慣れた銃器を手にしても、身体調整済みの前世の感覚で扱えばかえって危険だ。


 「ふむ……銃器は反動が懸念、ということでいいのかな?」

 「まぁ主にそうね」

 「であれば、これはどうだろうか。《23》《2》《11》」


 レフバーちゃんが口にしたのは、簡潔でズルい方の祝詞。どうやら武器生成系の祝詞だったようで、その手には見慣れない拳銃が握られていた。それを渡された俺は、その仕様を理解しようと観察してみるが。


 「……なんじゃこれ」


 さっぱり分からなかった。そもそも弾倉が見当たらないし、銃っぽい何かにしか見えない。

 「それはOGMといってね。とある文明の玩具だ」

 「玩具!?」

 「科学と魔法の両輪で発達してきた世界において、古き良き銃の感覚を楽しみたいというニーズに合わせて製造された、極めて精巧に銃のような振る舞いをする玩具だ」

 「ほぇ~?」


 つまり……異世界のガンマニア向け大人用玩具ってことか。


 「弾も発射機構も魔法によるものだが、極めて火薬に近い感覚で撃つことができる」

 「でもおもちゃなんだろ? 使い物になるのか?」

 「それは違法改造されたものでね。セーフティは取り除かれている。そして、弾丸の装填が不要で反動も調整できるのが利点だ」

 「物凄い技術が無駄使いされているように感じる……」


 それならもうその世界の最新兵器を寄越してくれた方が絶対良さそうなんだが……いや、ぶっつけ本番で慣れないもの頼りにするのはな……。なんにせよ、一回これを試してみるべきか。


 「……ちょっと試す。いいか?」

 「もちろん」


 教科書通りの姿勢で、構えて一発。狙った木に命中し……貫通。そしてその先にあった大木をぶち抜いた。


 「……ピストルの貫通力じゃないな……」

 「仮想敵は魔獣だからね」


 ……だが、そんなことよりも、俺はこの玩具がもたらすまるで銃を撃っているかのような感覚に感動していた。あの頃とは身体が全く異なるはずなのに、昔の感覚のまま撃つことができた。これならば。


 不安定な体勢を想定した片手持ちで、玩具銃を握った手を勢いよく左から右へ振りながら二発。撃ち終わったら翻って逆に振りながら二発。前半に放った弾丸は狙った通りにデカい木の実を支えていた枝を撃ち抜き、二つの木の実を自由落下させることに成功する。そして、後半に放った弾丸は狙い通りに落下する木の実を撃ち抜いた。


 破裂した木の実からは、麺とスープがあたりに飛び散った。


 「……」


 なんか……すげぇ悪いことした気分になった。


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