ないのもアリだぜ! ハイライト

 「……素晴らしい」


 食べ物を無駄にして落ち込んでいる俺だったが、レフバーちゃんに褒められることで気分を持ち直す。そうなのだ、親父と比べられさえしなければ俺の射撃精度はかなりのものだと自信がある。


 「せやろせやろ」


 ……けども、その程度の技がレフバーちゃん基準でどれだけ役に立つのか疑問だが。異世界では身体強化! とか意識加速! とかで簡単に再現できてもおかしくないわけで。つまりレフバーちゃんの賞賛も建前で俺の機嫌を取っているに過ぎないのかもしれない。うーん、そう考えてもめっちゃ気持ちいいな。


 「でもさ、これ通用すんの? 当てるのには自信あるけど、全部弾かれたら流石に打つ手ないけど」

 「打つ手ならあるさ。それはあくまで祝詞の発音の隙をカバーするためのものとして考えてくれ」

 「そういや祝詞があったんだった」


 確かに、祝詞はキッチリ詠唱をしなきゃならない都合上隙が多いし、咄嗟の状況変化に対応して発動するものを変えるなんてこともできないため、それをカバーする手段は必須だ。今まで必要性を痛感したことがなかったのは、相手も同じリスクを背負った祝詞使いだったからで、界喰みもそうだとは思えない。


 「って、祝詞って言えばそれ! そのチートコマンドみたいな発動法! あれができたら大分話が変わるんですが!」


 かなり今更だが、レフバーちゃんは祝詞を使うときに俺や普通の巫女たちのように起源書から文言を引用するのではなく、数字の羅列だけで同じ祝詞を発動していた。ずるい。あれができるなら祝詞の回転率が圧倒的に変わってくる。生存率に直結するのでできるなら伝授して欲しい。


 「あぁ……済まない。元々祝詞は私の為のものでね。セキュリティによってあの手順は私にしかできないようになっている。代わりに敵も祝詞を使う際は口頭引用を必要とするだろうから、そこはそういうものだと思ってくれ」

 「ぬぅ……」


 く……ダメなのか。そう言われては引き下がるしかない……まぁ祝詞って基本格好いいし、詠唱ありでもまぁ良しとしよう。


 「ってか、話を聞けば聞くほど下位互換なんだが、俺……」


 猫の手が決め手になる……らしいってことは聞いたが、現状俺はレフバーちゃんより少ない祝詞を低い回転率で放つおまけにしか思えない。短時間だけならザラさんに交代して暴れられるだろうが、それは俺の力じゃないしなぁ。


 「……そうとは限らない。祝詞においてキミは私を超える可能性がある」

 「ほう」

 「もちろん計算にいれてはいないが……実のところ、私でも起源書第十章の引用、第十段階の祝詞を使うことはできない」

 「え?」


 俺も高位の祝詞を使おうとして、存在力欠乏で危うく死にかけた経験がある。しかし、レフバーちゃんが祝詞という武器を手に入れるために創った世界と概念なのに、自分で使えない領域があるというのは変な話のように思える。


 「それは……存在力不足で?」

 「いや。私にその制限はない。私が……いや、私を含めたこの世界の誰もがあの領域に至れない理由は未だに判明していない」


 確かに、リュッケに存在力を肩代わりして貰えるようになってからも、第十階梯の祝詞は試したことがなかった。が、レフバーちゃんがなぜ俺には可能性があると考えたのかが分からない。


 「え……じゃあなにを根拠に俺がそこに至れるかもって思ってるんです?」

 「それさ」


 一言だけ返すレフバーちゃんの視線の先は、俺の左腕。それだけで、まぁ何を指しているかは分かる。


 「呼び込んだ強者との半融合など想定されていない。第十段階の鍵はそこにあるかもしれない」

 「はぁ……あ、でもさ。その第十階梯の祝詞よりザラさんに直接交代して貰った方が強かったりしない? 借り物より本人の方が強そうじゃん」

 「そう単純ではないよ。祝詞の中には主役の能力に当てはまらない現象を引用するものがあるだろう?」

 「あ、確かに」


 思えば、ザラさんの世界で現世と冥界が逆転した現象を引用して地底への穴を開けたりしていたが、あれはザラさんの能力ではなかった。いや、冥王になった今の……エンディング後のザラさんなら同じことができるかもしれないけれど、祝詞の引用は起源書の主人公の能力でないものも引用できる。


 「場合によって祝詞はオリジナルを超えうる。特に第十段階は素晴らしい力になるだろう」

 「ふーん……」


 なんか凄いのは分かったが、今のところ使える兆しもないような技だ。心のどこかに留めておくくらいにしておくべきだろう。


 「というわけで、他に必要なものはあるだろうか。可能な範囲でなんでもするが……」

 「えっ今なんでもするって」


 はっ……! 反射で定型文を口走ってしまった。これから世界を守るための命懸けの戦いがあるというのに、やはりミームは罪深い。なんて自省していると、レフバーちゃんは少し考える素振りをしてから何かに思い当たったかのように俺を見た。かと思えば、おもむろに俺の右手を掴んで自分の胸に当ててきた。


 えっ?


 「……エッ!」

 「そういえば、まだはっきりと感想を聞いていなかったね。どうかな? この身体は。ハナビのために用意したんだが、なにか要望があれば聞こう」

 「エッ!」


 ──落ち着きなさいよハナビ! そいつアンタのことなんとも思ってないわよ! 騙されないで!


 分かっている。レフトオーバーは俺に対してリュッケのような親愛もキヌのような愛情も微塵も抱いていないというのは。でも……でもそこがいい! この観察対象を見る目で擦り寄ってくるところも、レフバーちゃんの風貌と非常に良くマッチしていて蠱惑的だ。これを狙ってやっているならポンコツ認定は撤回しなければならない。


 そしてなにより……多分頼めば本当に何でもやってくれそうなところが悩ましすぎる……! コイツは今の美少女体を俺のために即席で作ってきた道具くらいにしか思っていない。俺に使のは織り込み済みでもおかしくない。もみもみ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る