ブレないぜ! 首尾一貫

 「ひょっとして、自分の本体と戦うのやっぱりキツい?」


 ──違うわよ! 第一、コイツの話が正しいなんて決まったわけじゃないでしょ!


 言われて、レフトオーバーの方を見る。リュッケの声があっちにも聞こえているのか、どうぞ話を続けてくれとばかりに黙ってこっちを見てくるレフトオーバー。俺にはもうコイツがガワだけのポンコツに見えてしまっているのでついつい信用してしまっていたが、確かに鵜呑みにするのは危険だ。というか、まともな情報源がレフトオーバーしかいない現状自体が危うい。


 ──勘違いしないで。世界を滅ぼして回るなんて奴がアタシだなんて、信じられないけど……でも、もし本当だとしてもそんなのをアタシだとは思わないし、やっつけるのだって賛成する。だけどね、ソイツはアタシやザラを閉じ込めて人間に殺し合いを強要するような奴だって忘れないで! 何を企んでるのか分かったもんじゃないし、話に乗るのは裏を取ってからでも遅くない……!


 「とのことなんですけど、どうなん? あ、聞こえてた?」

 「聞こえていたとも」


 まぁ、リュッケの言うことも正論なんだが……そうは言っても、こっちにはレフトオーバーの言葉の真偽を確かめる手段がないし、そもそもそこまでの時間的猶予があるのかも分からない。レフトオーバーにとって俺とザラさんの重要度がどれほどかも分からない以上、どこまで強きに交渉して譲歩を引き出せるのかも分からない。


 といった諸々の現実よりなにより、俺はリュッケの嫌がる行動はしたくない。うーん、これは一旦保留を提案してみるか? なんて考えていると、先にレフトオーバーが口を開いた。

 「彼女の懸念は尤もだ。しかし、こちらも時間がない。早急に話を進めたいところだが……見たところ、肝心のキミも揺れている」

 「え、あー……まぁ正直ね?」

 「これは現時点で、キミの私と彼女に対する信頼度の差に起因していると思われるが、そういうことかい?」

 「え……そ、そうね」


 細かく俺の心境について聞いてくるレフトオーバーに、思わず困惑する。もう完全に質問が人心を推し量ろうとするロボのそれである。


 「ならば都合が良い。私はキミの信用を得ることができる手段を用意してある」

 「ほう」


 ──……何する気?


 どうやら、レフトオーバーはさらにもう一つ交渉の手札を用意していたらしい。俺の信用を得る……? すぐにリュッケと同等の信用を得られる手段なんか想像もつかないが……なんだ?


 「私にとって、人の心は常にブラックボックスだ。だが、それ自体は問題がない。内側でどのような作用が行われているか理解できなくとも、入力と結果のパターンが分かっていれば扱えるのだから」

 「……中国語の部屋みたいな話してる?」

 「その点、キミは素晴らしい。以前の問答で、非常に分かりやすいパターンを提示してくれた」

 「え……そんな話したっけ……っ!?」


 靄。ザラさんを拘束していたあの不気味な腕を構成していた黒が、どこからともなくレフトオーバーに纏わり付き始める。いきなり開戦かと思い警戒するが、どうも違うらしい。


 「キミは言ったはずだ。冥葬族の少女を身を挺して庇ったのは『可愛いから』だと。ならば」


 レフトオーバーに纏わり付いたまま、こちらに襲いかかってくる気配のない靄。代わりに、語り続けるレフトオーバーの声が高いものへと変じていく。やがて靄が薄れていき、そこに立っていたのは。


 まるで人形のように美しくも不気味な雰囲気を纏う黒髪短髪の美少女だった。整えられた紫髪は不自然なほどに均一で、どの角度から見ても乱れ一つない。光を受けるたびに人工的な艶を放ち、前髪はまるで完璧な計算のもと配置されたかのように顔立ちを縁取っている。肌は血色を一切感じさせないほどに白く、その肌の半分には異形だった半身の面影を感じさせる意匠のタトゥーが這うように彩っている。背は以前より大幅に小さくなり、俺よりも目線が低いながらしかし、相変わらず感情の見えない瞳がよく映える。


 「──さぁ、私と来てくれ、ハナビ」


 そんな美少女がその喉から玲瓏たる声を鳴らし、手を差し出して俺を求めた。


 「え、行く行く」


 ──バカァーーーーーーーーーーッ!


 「うわうるせぇ!」


 無駄だと理解しつつ、脳内に鳴り響く轟音に思わず耳を押さえる。


 ──前に女の子が敵でも動じないよう釘を刺したばっかりでしょうが! その矢先にこれってアンタほんとにバカなんじゃないの!?


 「だってかわいいじゃん!」

 「そうだろう。これのデザインには自信がある」

 「え、てか声もめっちゃ良い」

 「私の声帯は創造主が好きだった声優のものを模倣している」

 「なるほどぉ~」


 だから前の姿のもイケボだったんですねぇ~。


 ──ちょっと! ほんとにこんなのが決め手で共闘するの!? アンタ見てたでしょ!? そいつさっきまで男だったのよ!?


 「私は自由意志を持つ魔法であるから、生物学的な分類は当てはまらないが」

 「そっかぁ-、じゃあ俺が女の子にしてあげよっかなぁ」


 ──バカバカバカバカ!


 そうは言うけども、前述の通りこっちは世界を人質に取られている上に情報面でも圧倒的に不利な立場。ハナから選択肢なんてなかったようなものだし……共闘決定! これからよろしくねレフバーちゃん!

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