即決だぜ!決断の時

 「ま、負けた? 世界を無差別に滅ぼそうとする存在に?」

 「あぁ」

 「ダメじゃん」


 それもう詰んでるじゃん。


 「まぁ一から聞いてくれたまえ。先ほど話したサブプランだがね、やはりあれがマズかったらしい。あの時点で界喰みにこの場所の存在が察知され、狙われてしまっていた。しかし、幸いなことに既に因子が埋め込まれているこの世界の人間は界喰みの乗っ取りに耐性があってね。いつもの手順が通用しないと分かった界喰みは時間をかけてこの世界に襲撃を仕掛けてきた。私は防衛を試みたが、結果は界喰みの汚染を許す結果となってしまった」

 「汚染?」

 「何とか本格的な侵入は阻止したものの、因子や起源書を管理するシステムのプロテクトを一時的に剥がされてしまってね……何の因果か、それがそちらでは思わぬ結果を招いたようだが」

 「え?」


 急に意味深なことを言い出すレフトオーバーの目線を辿ると、そこには俺の、というかザラさんの左腕がある。


 「ま、まさか……あの時ザラさんに纏わり付いてた黒いのが急に消えたのは……」

 「あぁ、それは私が負けたからだね」


 なんだよ! なんとなく俺が特別だったってわけじゃないんだろうなとは思ってたけどアレお前が画面外で負けてたからだったのかよ!


 「……んで、汚染されると何がマズいんです?」

 「汚染され、この世界のパワーバランスに見合わない強さを得た種族が繁栄することで界喰みの力が氾濫し、喰われる」

 「やっぱりダメじゃん」


 俺の知らないうちに、ここ数日でこの世界は滅びかけるまで追い込まれていたらしい。


 「ってか、そんな状況でなんでお前は割と余裕そうなんだよ!」

 「それは私に焦燥感や恥が備わっていないからだね」


 ……こいつ、さてはポンコツだな? 創られたとかなんとか言ってたし、ほぼほぼポンコツAIの系譜にあるんじゃなかろうか。


 「あー、もういいや……で、その話を俺に聞かせてどうしろと?」

 「この事態を受けて、私は二つプランを考えた。一つは、今すぐ汚染されたこの世界を凍結、放棄してやり直すこと」

 「なっ……」


 凍結、放棄って……それは界喰みの氾濫を待たずに今すぐこの世界を滅ぼすと言っているようなものじゃないのか。だとすれば、俺には受け入れがたい話だ。


 「それは……界喰みに滅ぼされるのと何が違うんだ」

 「界喰みに喰われれば、私が呼び込んだ強者の力まで取り込まれて奴の力がさらに増すことを意味している。それに、ここを足がかりに私の本拠地まで割れてしまえば再起もできなくなる。そうなるぐらいならこの世界を放棄してやり直す方がいい、という判断だ」

 「……もう一つは?」

 「幸い、界喰みに汚染された種族は分かっていてね。実力行使でそこを潰せば、この世界を放棄せずとも済むかもしれない」

 「……」

 「キミが選んでくれ」

 「俺が?」


 ……一体こいつは何を企んでいる? なんで俺にそんな重要な判断を任せて……って、聞けばいいか。多分答えてくれるだろ、こいつ。


 「なんで俺にそんな重要なことを決めさせる?」

 「以前まではただの客人だったが……今のキミの意向はクリムサイズ=ザラ=グラエールの意向も同義。私の支配から外れた以上、彼女を無下にするわけにはいかなくてね」


 正直、レフトオーバーが今更ザラさんのご機嫌を取ったとしてもあんな監禁しておいて今更好感度を上げるのは無理筋な気がするが……いや、だからこそ俺を味方にしようとしているのか。


 「安心してくれ。前者を選ぶなら、キミと《誅戮の冥閻》の無事は約束しよう」

 「リュッケはダメか」

 「然りだ。リスクはここに置いていってもらう」

 「……」


 ──……ねぇ、ハナビ……アタシは……。


 「じゃ後者で」


 ──ハナビ……っ!


 ま、当然だ。リュッケだけじゃない。この世界にはキヌもシャーリーもいる。全部見捨てて俺だけ避難、はさすがに無理である。


 「了解した。ではキミには、これから私と共に戦ってもらう」

 「それはいいけどさ……アンタ超強いじゃん。俺なんかに力を借りなきゃならんレベルの相手なのか? さっきアンタが負けたって言ってた界喰みの本体とはまた違うんだろ?」

 「確かにこの世界において私は無敵と言って差し支えないが、それはこの世界が私の手に負えない状況に陥らないようデザインされているからに過ぎない。その秩序は界喰みによって失われてしまった」

 「アンタでも危ないかもしれないのは分かったが……」


 逆に、そんな相手に俺を連れて行って役に立つのだろうか。今はザラさんがいるとはいえ、俺は目の前のコイツに完封されている身だ。


 「確かに、我々がこれから戦おうとしている相手は界喰み本体ではなく、計算上は私だけでも制圧が可能だという予測は出ている……が、界喰みというのはその依代にその世界を滅ぼせるだけの必要量の力を与えるという。土壇場で私を殺しきる力を得る可能性がある……そこで、奴の計算を崩すためにキミという変数が重要なんだ」

 「はぁ」


 猫の手があるのとないのとでは大違い……みたいなことか? 如何せん、リュッケの本体らしい界喰みってのがめちゃくちゃでちょっと話を掴みづらいぜ。


 まぁでも、やることが戦うことなら適切にやるだけだ。傭兵家業は慣れているんで、その辺りの心構えはバッチリだ。クライアントの意図なんて考えすぎてもしょうがない。


 「正直半分くらい分かってないけど、戦えってんならや──」


 ──……待って。


 制止の声が、頭に響く。


 「……リュッケ……もしかして反対?」


 実質、この世界を人質に取られているようなもの。俺は他に選択肢もなさそうなので素直に従おうと考えていたが、リュッケはそうではないらしい。

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