急展開だぜ! 設定の乱打

 「おー、太陽だー!」


 地底から地上への復帰は『冥閻の利鎌』の祝詞でまた穴を開け、『鉄と正義と』の祝詞で空を飛んで、という段取りで成功した。ザラさんの腕があるんだから、『冥閻の利鎌』の祝詞はタダで使えるようにならないかなーなんて思っていたが、ダメだった。ザラさんに交代すれば冥王の権能で同じことができるみたいだったが、さすがにもしもの時のために温存だ。

 「って、眩しっ! 何日も薄暗いとこいたから反動が……」


 ──地底の種族はあの環境に適応した身体で生まれてくるわけだし、そりゃアンタにはキツいわよね。


 「あぁ、なるほど……常識で考えたら、生まれてから一度も日光浴びないとか、普通どっか問題が出てきそうだもんなぁ……」


 無菌室時代を思い出してちょっとシンパシー……あ、ちなみに今はレフトオーバーの粋な計らい(推測)によって今はちゃんと声に出さないとリュッケとコミュニケーションが取れないんで、逐一声を出しているぞ! どっかから語りかけてるらしいリュッケと違って正真正銘俺の中にいるザラさんは心の声も聞いているのかもしれないが。


 「……んで、どうしようか」


 ──あの男を捜して話を聞くんでしょ? どうやって捜すのか知らないけど。


 「あーね。そうなんだよなぁ……手がかりとかないし」


 おそらくリュッケの正体を知っているであろうこの世界の黒幕、レフトオーバー。とりあえず奴から情報を引き出さないと、立場の決めようがない。ないのだが、如何せん手がかりが全くない。リュッケが囚われてる? っぽい場所に行けば良いのではとも思ったが、リュッケ曰くそれは無理らしい。だったらもうこのまま目についた美少女を助ける旅をして途中でレフトオーバーに遭遇することに賭けるしかなくなってしまう。それはそれで楽しそうだしまぁ良いか……。


 「真面目に考えるんなら、強い種族のとこで潜伏なんだろうけど……」


 レフトオーバーが冥葬族を狙ったのは、どうも冥葬族が一人勝ちしそうになっていたからっぽいし、地上でも一人勝ちして他を完全に滅ぼしそうな種族にヤマを張ってれば遭遇できそうな気がする。だがしかし、潜伏とは言ってもな……冥葬族が例外中の例外だっただけで、普通は他種族なんてぶっ殺して当然の世界っぽいし、それも簡単じゃない。幸い、俺は他の種族を無条件に憎むこの世界の人間の本能が適用されないらしいが、そんな外付けの憎しみなんかなくても人は人を迫害できるのだ。


 「というわけで、やっぱり気ままに美少女捜しを──」


 ──ハナビ! 後ろです!


 リュッケと違って、起きているときは滅多に話しかけてこないザラさんの切羽詰まった声。同時に俺自身も背後に気配を感じて前方に回避行動を取り、振り返る。そこにいたのは。


 「やぁ」


 半身異形のイケボ男、レフトオーバーが脈絡なくそこに立っていた。


 「なっ──」


 ──嘘っ……! いつの間に……!


 ほんとだよ! コイツはいっつも唐突に現れる。断言するがさっきまでここにはいなかったはずだ。会ってもう一度話したいとは思っていたものの、こうもいきなり現れると、その得体の知れなさや不気味さから思わず警戒して睨みつけてしまう。


 「そう警戒しないでくれ。私はキミと話をしに来たんだ」

 「そりゃ都合の良いことで……」


 どうやら、向こうにも戦闘の意思はないらしい。これ以上ないくらい願ったり叶ったりの状況だが、それが逆に警戒心を引き上げる。


 「こっちも色々と聞きたいことがあってな……!」

 「見当はつく。キミがリュッケと呼ぶ存在についてだろう?」

 「そうだ。話ならそっちを先に……」

 「構わないよ」

 「……え、まじ?」


 もっと一悶着あるかと思って強気の交渉を試みたのだが、レフトオーバーはあくまでフレンドリーにあっさりとこちらの要求を呑んだ。拍子抜け過ぎて思わず毒気を抜かれる。


 「私の伝えたい話を理解するには、どの道その話をしなければならないからね」

 「……んじゃ、頼む」


 そうして、レフトオーバーは前のようにリュッケを閉め出すようなマネもせず、あくまで平坦な口調を崩さずに語り始める。


 「界喰みといってね。まぁ、世界から世界へ伝染して滅亡へと導く病のようなものなのだが。私はその界喰みに対抗するために創られ、その使命の一環としてこの世界を創った」

 「……お、おう」

 「私の創造主は界喰みの存在を予見していたが、自身で対抗するには時間が足りず、代わりに私が全てを賭けて界喰みを駆逐する役目を負った。放っておけば、私の世界も地球もいずれ喰われてしまうからね」


 き、規模がデカい。異世界って、思ってたよりも近しい存在っぽいなこれ……ってか、話の流れでもう薄々察してきちゃっているが、リュッケなのか!? そのやべー存在がリュッケなのか!?


 「この世界は、創造主の遺した観測写本……今で言う起源書を利用して私が数多の世界の強者の力を得る、その為の儀式の場として創造した」

 「え、異世界の他人の力を勝手に奪う為に人間に殺し合いさせてたってこと?」

 「そうだとも」

 「くそ迷惑やん」

 「私は手段を選ばない」


 涼しい顔で語るレフトオーバーに、全く悪びれる様子はない。手段を選ばないって……なんか、もっと上手いことやる他の手段は無かったのだろうか。


 「して、この力を得る為の仕組みだが……起源書という繋がりから少しずつ力を吸い取り、それを扱う種族が繁栄することでやがてこちら側が主となり、その力は私のものに……細かい部分を省けばそのような構造なのだが、ここで私はあるサブプランを思いついた」

 「サブプラン?」

 「これが可能ならば、創造主が界喰みの存在を予見した界喰み本体の起源書を利用して界喰みの力を直接削ぐことも可能なのではないか、とね」


 あー、つまり、なんだ。起源書を使って自分が界喰みとやらよりも強くなろうとしてたけど、そんなことをしないでも同じ理論で界喰みの力を吸い取って自分のものにした方が早いんじゃね? って思いついたと。


 「ところが、これは失敗だった。界喰みは世界を滅ぼす時、自らに同調できる強い怨嗟を抱えた人間に力を与えてやがて乗っ取るという手順を踏むのだが、この力を与える仕組みと私が種族を創る時に用いている因子の仕組みが酷似していてね。界喰みを起源とする喰界族は奴に同調した人間と同じように急速に力を増し、祝詞を介さずに力を振るい、私の存在を察知して反旗を翻した。その時は全力で対処し、処分することで事なきを得たのだが……あの時の僅かな時間でかすめ取った界喰みの力という不穏分子が残ってしまった」

 「力ってのは……起源書の原典に宿ってたザラさんみたいな存在ってことか?」

 「あぁ」

 「……じゃあ、リュッケは……」

 「万が一が無いように、私はその界喰みの一部と言ってもいいその存在の名前と記憶を奪い、封印した。それが彼女だ」


 ──……そんな、ことって……。


 ……リュッケ、まじでパブリックエネミーじゃん……いや、レフトオーバーも結構な所業をしているし、こいつの話が本当ならって言葉は頭につくんだけども、これは……うん、リュッケは記憶のこと忘れて俺の嫁として新しい人生を歩んだ方が良いと思うな!


 「……信用するかは別として、丁寧な説明ありがとう。それで? お前の話はここからなんだろ?」

 「あぁ、その通りだ」


 とにかく、これからの方針を決める前に少しでも情報が欲しい。ショックを受けているリュッケのメンタルケアは終わってからにするとして、レフトオーバーに続きを促す。すると、レフトオーバーは変わらない調子でこう言った。


 「実は、私はその界喰みに負けてしまってね」

 「……うん?」

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