蜜月だぜ! 夢の中の会議
「ん……」
「久方ぶりですね、ハナビ」
目が覚めると、そこにはザラさんの顔があった。いや、目が覚めるという表現はおかしい。現実の俺は即席の秘密基地で就寝中なのだから。要するに、ここは夢の中。いつもリュッケと話しているあの本棚と地球儀? と望遠鏡のある部屋である。
「あれ、ここが天国か……」
「違いますが……そうですね。私もハナビがいる場所をそのように感じます」
ザラさんに膝枕され、甘い言葉を囁かれてもう夢の中だけどこのまま寝ちゃおうかなぁなんて気分になっていた折。
「ちょっとザラ! あんまりそいつ甘やかさないでよ!」
「あぁ……いたのねリュッケ……」
「いたのねって何よ!」
横からのリュッケの大声で起こされてしまった。いや、夢の中だから実際には起きていないが。
「はい起きる起きる! 話すべきことがたくさんあるでしょうが!」
「へい……その通りでごぜーやす……」
「そうですね。情報共有はしておきましょう」
心地よさを振り払って身体を起こし、改めてリュッケやザラさんに向き直る。
「んで……二人とも自己紹介とかは要らない感じ?」
「えぇ。そこは省略して良いですよ」
「アンタがザラの膝で寝ている間に済ませたわよ。お互い、情報は持ってたしね」
「お互い? 起源書読んでたリュッケは分かるけど、ザラさんも?」
初めての『冥閻の利鎌』の祝詞の時しかり、リュッケはザラさんについて知っていてもおかしくないが、ザラさんがリュッケについて知っていたというのはどういうことだろうか。
「肉体の主導権を失った後、ハナビ。貴方の記憶に浸かっていました。そこで、貴方のことや状況については概ね把握できたはずです」
「なるほどぉ」
「それよ、ザラ。アンタがハナビの身体を借りて姿が変わったやつ、あれはなに? アタシは見たことない」
あれか。身体の主導権がザラさんに移って冥葬族を切り捨てまくった時のやつ。あの時俺の意識は寝起きに近い感覚だったんだが……あの状態で戦えるのかとか、いつでもなれるのかどうかとか気になる。
「私も初めての経験であることには留意して欲しいのですが……あの時私はハナビを依り代として、あの世界に存在することができていました。試してはいませんが、戦えば本来の私と同じ力が出せるかと」
「……いつでもなれるの、それ?」
「あの時は事故でしたが……次からは任意のタイミングで発動できると思われます。ただ、解除のタイミングは不意でしたので……時間制限のようなものがあるようですね」
「時間制限……一日何分、みたいな?」
「おそらくは」
なるほど……数分だけとはいえ、冥葬族全ての上位互換の力を使えるとはとんでもない切り札だ。
「ふーん……主導権は? アンタたちどっちにあるの?」
「ザラさんじゃない? 俺にはなんの感覚もなかったし」
「それは……」
言い淀んで眉を寄せるリュッケ。ま、彼女の懸念は大体分かる。
「もしかしてリュッケ、ザラさんが裏切って変なタイミングで身体を奪ってくるとか思ってる? ザラさんがそんなことするわけないじゃんこんなに美人なんだし」
「もっとマシな根拠を言いなさいよバカ!」
「あ、いたい、いたいです」
「大体、アンタかわいい女が敵だったらどうするのよ! 戦えるの? 勧誘されたらどうする気!?」
「え、どないしよ。めちゃくちゃ葛藤する……」
「バカ! バカ! バカ!」
ポコポコと殴られながら、その状況について考える。美少女が敵なら……まず戦わない方向で努力するだろう。それでダメなら甘んじて倒される……が、これは俺一人の場合だ。その時俺の肩や背に他の美少女の想いや命が乗っていたのなら逃げられない。そうなったら俺は……まぁ、より俺を好きな方の味方をするだろうなぁ。
「リュッケの懸念は尤もでしょう。ですが……私はあの世界での目的意識などはありませんので。私があの力を使うときは、ハナビが望んだとき。ハナビの望みを叶えるために力を振るう時だけだと誓いましょう」
「え……好き」
「だーかーらー、ザラはそいつに甘すぎ! 記憶見たんでしょ! そいつ元男よ!」
「私はハナビの性別に惹かれたわけではありませんので」
え……ザラさんイケメンすぎ……好き……TS十字架の一つ、性別詐称を既に乗り越えている……。
「それだけじゃないでしょ! コイツがアンタにどんなこと言ったのか知らないけど、女の顔次第ですぐ発情するクズよクズ! さっきもあの巫女相手にデレデレしまくってたんだから!」
「うーん、正解!」
「ちょっとは弁明しろバカ!」
だって本当のことだから……これでザラさんに嫌われても、俺はそれでも好きだと言い続けるだけだ。まっすぐ自分は曲げねぇ(最悪)。
「嫉妬、というものですか。私はそれを感じませんでしたね」
「ん、そうなの?」
「えぇ……今ハナビが誰と何をしようと、私とハナビの本番は……ハナビの身体が死を迎え、肉が腐り骨が朽ちるか、あるいは焼かれて灰になるか。いずれにせよ、私たちはそこから始まるのですから」
うっとりとした表情で俺の頬に手を触れ、そんな言葉を紡ぐザラさん。綺麗だなぁ(逃避)。
「ハナビあんた……とんでもないの引っかけてきたんじゃないの?」
「今のところ後悔してないからそれでいい!」
「すごく愚か者の言葉……まぁ勝手にすればいいけど」
「あ、そういえばこの手。左腕、ザラさんのだよね?」
これも重要な話しておくことの一つ。亡くした腕の代わりとしてザラさんの腕が生えたことだ。
「えぇ。間違いありません」
「……多分、身体が元に戻るときに元が無かった左腕だけ据え置きになったんだと思うけど……ま、幸運と捉えるべきね」
「それでさ、この腕なんか発情させる能力とかあるの? ハズミラとかシャーリーが凄い顔してたんだけど……」
「そんな力は持っていませんが……おそらく、あれは例外でしょう」
例外? まぁ、起源書のどこにもそんな能力はなかったし、何かの間違いだとは思っていたけど。
「その腕が私のものと同一だというのなら、生者は触れただけで死に誘われるでしょう。おそらく、曲がりなりにも私の影響を受けた冥葬族が相手だったからこそ、悦楽を齎す結果となったのでしょう」
「え、死ぬ? 冥葬族以外だと?」
「はい。お気をつけを」
「まじぃ~?」
やば……怖い。事故が。うっかり人を殺しかねないじゃん。手袋とかで防げるのか……?
「犠牲を出す前に聞いておいて良かったわね……それで、ハナビ。これからどうするの?」
「起きてからの行動目標?」
「そう。ザラも、レフトオーバーは放っておけないでしょ?」
「不快な存在ですが……今はハナビと引き合わせた功績でイーブンでしょうか」
「……そう」
行動指針、か。まぁ大雑把だが、一応決まっている。
「レフトオーバーともう一度話す。そして、その手がかりはない……ので、とりあえず地上に戻る! 日光浴びたいから!」
リュッケからは呆れた目で見られた。ザラさんは全肯定してくれた。
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