TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ！ 勝ったな（勝っていない）

考察だぜ！ 奴の目的

　「って、どさくさに紛れて抱きついてんじゃないわよ！」

　「ひどい」

　間を置いてようやく自分が俺と抱き合ったという事実に気づいたらしいリュッケは、汚れを振り払うような動作をしやがる。安心させようとしてやったのに。下心は半分くらいしかないのに！

　「あー、それでだけど、レフトオーバーとリュッケの記憶に関してはもう一度レフトオーバーに話を聞きたい。でもどうすれば会えるのか分からないから後回し。それでいいか？」

　「……癪だけど、納得したわ。その……話してくれてありがとう。で、アンタの試したいことって？」

　「レフトオーバーはこの世界で人々を争わせる理由を力ある者を集めるためだと言っていた。ちょっと支離滅裂に聞こえるが、この力ある者ってなんだと思う？」

　俺の問いに、やはり首をかしげるリュッケ。そりゃそうだ。人間を争わせるのがどう力ある者と繋がるのか分からない。それでも、俺はある仮説に辿り着いている。この会話はそれを彼女に検証してもらうためのものだ。

　「……より上の階梯の祝詞を扱える人間……ではないわよね」

　「あぁ。強力な巫女や託士が回収されているなんて話は聞いたこと……ないよな？　もしかしてあったりする？」

　「いえ、アタシの知る限りではない……はず」

　良かった……実は巫女がよく行方不明になるのよねーとか言われたら仮説が破綻するところだったぜ。

　「俺はその力ある者っての……リュッケの同類じゃないかと思ってる」

　「アタシの……？　それって……」

　「いや、リュッケはその中でも特別っぽいから語弊があるか……正確には、起源書の主人公であり、各種族のルーツになってる異世界の大物。レフトオーバーが集めてるのは彼らなんじゃないかと思ってる」

　「……！」

　リュッケは目を見開くと、その可能性を検証するように思案を始めた。やがて一旦飲み込めたのか、俺に向かって口を開く。

　「どうしてそう思ったのか、教えてくれる？」

　「……まず、リュッケの存在。俺は事故だとしても、レフトオーバーは何らかの手段で起源書に描かれた存在を異世界から呼び出すことができている」

　「アタシがこうしてここにいることが証拠……」

　「そして、レフトオーバーが種族の一人勝ちや平和を阻止しようとしていた理由。奴の目的が異世界の英雄集めってことが前提になっちまうけど、俺は二つ考えられると思ってる」

　頑なに戦いを終わらせることを許さないレフトオーバー。それは何故なのかを考え、憶測に憶測を重ねて導き出したのは二つ。一つは、この世界で行われる殺し合いが何らかの儀式の一環である可能性。もう一つは全ての種族に隆盛期を与えようとしているから。それら推察をリュッケに提示するが、彼女はまだ釈然としていないようだった。

　「全ての種族に隆盛期……？　どういうこと？」

　「種族が繁栄するってことは、それだけ土地の力が強まるってことだ。もしそれが異世界から起源書のご本人を連れてくる条件だとすれば、より多くの英雄を集めるために劣勢側の味方をする説明がつく。逆に、冥葬族の『冥閻の利鎌』は既に条件を満たしているから用済み……ヒョウヤの青雷族なんかの族滅がスルーされていたのは、過去既に繁栄して条件を満たしていたから……どうだ？」

　「……筋は……通っているように聞こえる。でも、証拠が弱すぎるわ。憶測だらけじゃない」

　リュッケの言うとおりだが、もう一つだけ大きな証拠がある。いや、証拠になっているかは怪しいものだが、信じるに値する感覚が。

　「もう一つ。ハズミラに言われて『冥閻の利鎌』の原典に触れたあの時。悲鳴が聞こえたって言っただろ？」

　「あ……」

　「今なら分かる。あそこにいるんだ。死神さま……クリムサイズ＝ザラ＝グラエールが」

　呻きか、嘆きか、怨嗟か、あるいは全てが混ざったようなノイズ。可能性に思い当たってからというもの、どんどんとアレが彼女の声なんじゃないかという思いが強くなっている。そして……『冥閻の利鎌』を最後まで読んだ者として、助けたいと、その嘆きに寄り添いたいと思っているのだ。

　「……アタシは……アンタが聞いたっていう声を聞いていないから、なんとも言えないけど……もしかして、試したいことって……」

　「あぁ。起源書の原典にもう一度触れて、その人を助けたい」

　「……けど、どうやって？　前は数秒も触れていられなかったんでしょ？」

　「気合い」

　「急に脳筋……」

　だって他に手段が思いつかないから……覚悟を持って原典に長く触れていれば精神世界にいける……その可能性に賭けている。

　「分かったわ。合図してくれたら、アンタがその死神に繋がるようサポートしてあげる」

　「え、そんなことができるんですか！？」

　「アタシがアンタに繋いでいるのと同じ感覚でやれば、補助にはなると思う。本当にその原典に宿っているなら難易度は下がるだろうし……けど、アタシができるのはそこまで。前にノイズがアタシには聞こえなかったことからして、アタシとそいつは直接繋がれないんだと思う」

　「いやー十分十分。これは勝ったわ」

　やっぱリュッケさん最高や！　

　「それで……そいつと話すことがどうシャーリーを助けることに繋がるのよ」

　「いや、直接は繋がってないんだけどさ」

　ただ。

　『冥閻の利鎌』を読んで分かったのだ。死神さまは、捧魂祭なんて催しを良く思うはずがないと。