介護だぜ! 失ったもの
いてぇ。幻肢痛がやべぇ。世の隻腕キャラはみんなこれに耐えていたというのか……。ま、痛みには強いんで顔とかには出さないし、多分戦闘にも支障はない。痛いもんは痛いけど。
あの後。俺が気絶してからのことだが、レフトオーバーに攻撃された人達は負傷で済んだらしい。レフトオーバーが消えたことを確認してから部隊は拠点に突入し、非戦闘員と捕虜の処理を完遂したそうだ。なので、骸供族聖地殲滅作戦は無事成功したとのことだ。無事とは……?
そして俺の腕だが、本当なら存在力の欠乏で全身崩壊していたところを何らかの手段で左腕だけで済ませているというのがリュッケの見立てらしい。リュッケじゃないのならレフトオーバーの仕業以外考えられないんだが、アイツは俺をどうしたいんだ。
そもそも犠牲を腕だけにとどめるなんてことができるのかって話だが、存在力というのは五体満足の身体の存在を保てる量だけ自然に回復しているので、腕一本を犠牲にすればそれだけで存在力の収支はプラスになるという理屈らしい。せこい理屈だなと思わないでもないが、普通なら存在力は全身で均等に使ってしまうらしいので結構すごいことっぽい。
というわけで、今の俺は常に腕一本分の存在力が余剰分として溜まっていく状態にあるというわけだ。それでも調子に乗って祝詞を使いまくればすぐまたアウトらしいが、自動回復っていうのはたとえ1ずつでもあるのとないのとでは大きく違う。降って湧いた自動回復にヤッター……とはならん! さすがに片腕とは釣り合っていない副産物である。ってか、その理屈なら足の小指だけ犠牲にするでも成立しただろ。腕一本持ってく必要があったんですかね……? 次レフトオーバーに会ったらクレーム入れなきゃ。
……まぁ、それはいい。結局の所生き残ってラッキーという結論に落ち着き、不満は全部高望みになるからだ。
問題はこっちである。
「はい……どうぞ、ハナビさん」
「うーん、おいちい!」
やっぱ美味いなこのパン……みたいな豚のコブ。いないのかな、メロンパンコブタ……と、コブをシャーリーに食べさせてもらいながら逃避気味に考える。渾身のシャンクスが滑ってからというものの、俺はシャーリーに徹底的にお世話をされていた。それはちょっと過剰にも思えるもので。
「ハナビちゃん身体動かせないしぃ、口移しでたべさせてほしいにゃぁ」
「はい! わかりました!」
「ちょちょちょい待って待て」
ならない……! セクハラでも流れがギャグにならない……!
「なぁシャーリーさんや……さすがにちょっと俺に構い過ぎじゃない?」
「いえ、これは償いなんです! なんでも命令してください!」
「ふーん……」
目がイっちゃてるな。ま、本当なら俺も病んじゃった美少女に四六時中お世話されるのは悪い気はしないんだが、今の俺はこのシャーリーにほんのちょっとだけ不満なことがあって、素直に喜べなかった。
「……ならさ、捧魂祭で死ぬのやめてこれから俺のために生きてくれるの? なくした腕の代わりにさ」
「……それは」
俺の問いに、シャーリーは俯いて黙ってしまう。やがて、絞り出したかのように口から出した答えは拒絶だった。
「……ダメなんです。自分が生きてたらハナビさんに迷惑が掛かるんです……今度は、腕じゃ済まないかもしれないし、他のみんなだってもっと傷ついて……」
これなのだ。シャーリーは俺への償いと言って献身的になってはくれるものの、捧魂祭で死んで全てから逃げるという身勝手な救いだけは手放そうとしない。別に見返りを期待してやったことじゃないから良いんだが、モヤモヤしないこともない。
「だから……ごめんなさい」
そうして、シャーリーは逃げていってしまった。なんというか若いなぁなんて思っていると、入れ違いでウェルヌさんが入ってきた。
「ハナビさん……たしかに君の言い分は分かるけど……シャーリーを許してやってほしい。その……君の身体のこともあって、今のシャーリーは普通じゃないんだ」
「いやいや。許すも何も怒ってないっすよ」
だって美少女のすることだしな!
「え……じゃ、じゃあ今のは?」
「かわいいから意地悪したくなっちゃいました」
「そ、そうなんだ……」
俺の言葉に困惑気味のウェルヌさん。さては俺が本気でシャーリーの半端さに苛立っていると思っていたんだろうが、つい指摘して反応を見たくなったのが主な動機である。
「それとウェルヌさん……実は考えがあるんです。捧魂祭について」
「っ! それは……」
捧魂祭。妹を手にかける日。刻々と近づくその日の話題を出され、ウェルヌさんは目に見えて狼狽する。
「明日。もしウェルヌさんが本気であの祭りを止めてシャーリーを生かしたいと思っているなら、また話しましょう」
「明日、までに……」
では、おやすみ。ウェルヌさんの協力があろうがなかろうが、俺はこれから精神世界でリュッケと作戦会議をしなければならないのだ。以前は起きていてもできたのだが、レフトオーバーが俺に内心のプライバシーを守る術をかけてからというもの、俺が起きている間は声に出したことしかリュッケに伝わらないようになってしまったのである。
「でも……ハナビさん、まだ寝るのには早いんじゃ……」
「……」
ずっと食っちゃ寝だからすぐに寝れねぇ! 割と時間ないのに! だって……
捧魂祭はもう明後日に迫っているのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます