切実だぜ! 本音の吐露
「えっと……神様?」
「神様じゃないって言ってるよな」
「あ、ご、ごめんね……」
ハズミラの手配で、無事シャーリー宅でお世話になることになった俺。どうやらシャーリーは兄と二人暮らしなようで、家主であるウェルヌは俺を畏れているようで余所余所しい。ヘイト向けられるより万倍マシだけども、やりにくいものはやりにくい。
「ところでお義兄さん」
「おに……な、なにかな」
「これなんすか」
指さした先には、出された食事。そこにはパンがあった。そう、ファンタジー頻出の堅そうな黒パンではなく、普通にパン屋で売ってそうな出来の良い白パンである。なお、俺の観測した限りこの村で小麦が栽培されている形跡はない。
「なにって……
「あぁ……やっぱこれがそうなのね……」
定期的にパン生やすブタってなんだよ。マジで食材がおいしく食べられたがってんじゃん。……得体が知れなさすぎるが、食べない選択肢はない。ここの主食はこれっぽいし、よく考えたら虫炒めとか出されるより全然良い気がしてきた。あと普通に美味そう。
「あの……神様……じゃなくて、ハナビさん……はいくつなの?」
「知らね……シャーリーよりは下だと思うけど」
正確な年齢が分からない、孤児あるあるである。大方の見当はついているんだけど。
「なんか……見えないね。大人びてるっていうか……」
「ところで、そのシャーリーは? 姿が見えないけど」
「あぁ……シャーリーなら奥で眠ってるよ。かなり疲れていたみたいだ」
「ふーん……ま、無理もないか」
「……ハナビさんも大丈夫かい? シャーリーと一緒にここまで来たんだろう? 聞けば、見張りまでしてもらったって……」
「あー俺? 俺はまぁ、特殊な訓練を受けてるんで」
冗談風に言っているが事実である。しかしそんな俺でも割と限界なので、食べ終わったらさすがに寝たい。と、パンっぽいコブをつまみながら起源書を読んでウェルヌさんの話を聞く。なんか、起源書の話が気になって目が覚めてしまいそうだ。
「それは起源書かい? まさか、冥葬族じゃないのに感じ取れる……?」
「いや……そういうわけじゃないんだが……そうだ、アンタはどこまで感じられる?」
「あ……えっと、恥ずかしながら僕には託士の才能はなかったみたいで……全く……」
託士……?
──男の祝詞使いよ。
なんと、今更判明する名称……っていうか、名前巫女よりかっこいいな。
「でも、個人的にその起源書の内容を研究してるんだ」
「ほう……!」
読めない感じないにも拘わらず、起源書の内容を研究しているというのはなかなか新しいのではないだろうか。焔精族ではそんな……いや、よく考えたら俺は焔精族の巫女周りのことを大して知らないな。もしかしたらキヌが連れて行かれたところにはそういう研究があるのかもしれない。
「でも、感じ取れないのに研究ってのは……どうやって?」
「それは主に取材だね……巫女や託士の見習いに感じ取った話を聞いて、それをまとめているんだ」
「なるほど……」
「元は……シャーリーのためになればと思って始めたんだけど……」
「……」
前に、俺がヒョウヤに『いかずちのさえずり』のネタバレをしたとき、それだけでは意味が無かったが、感じ取るための切っ掛けにはなったらしかった。そういう意味では巫女や託士の役に立つ可能性は大いにある。
「それは……どの章まで……いや違くて……えっと、どの階梯まで纏められてるんだ?」
「最高では第六階梯だね。この部分は多忙なハズミラ様しか感じ取れていないから、あまり詳しく聞けなくてちょっと不明瞭なんだけど……」
『冥閻の利鎌』も例に漏れず、十章で構成されていた。つまり、ハズミラですら六割。焔精族より一つ下だが……まぁ、それでも祝詞がチートだしな。
「……にしても、妹のためか」
「聞いているのかい」
ハズミラに聞いたシャーリーが死ぬ祭りの詳細。あれを思い出して、思わず口をついた言葉だったが、ウェルヌは俺が何を思って出した言葉なのかをすぐに察したようだった。
「アンタが……シャーリーを殺らなきゃならないんだろう?」
「……逆じゃなくて良かったよ。こんな思いを経験するのがシャーリーじゃなくて……」
まぁ、確かに一番辛い役回りだが……意外だな。ウェルヌは全く乗り気に見えない。シャーリーとはえらい違いだ。
「でも、アンタは託士じゃないんだろう? 与死……だっけ。それを経験してもそもそも祝詞が使えないんじゃあんまり意味がないんじゃ……」
「よく裏の意図まで知ってるね……だけど、あくまで儀式の目的は送死だから、与死はあまり重要じゃないんだ……そもそも、与死を経験していない巫女や託士見習いなんていないんじゃないかな」
「……そういや……そうか」
麻痺しそうになるが、こいつらは民族浄化前提の戦争を絶賛継続中で、しかも即死が取り柄の祝詞を使う。与死なんて当たり前のように経験する環境にある。だが、送死は親しい人を直接看取るという、あまりにも限定的な状況。だからこそ祭りで一斉に経験させる……と。ハ、殺しが一番ハードル低いて。
ってか、全然死を恐れなさそうって意味でも強そうだな冥葬族。逆によく他の地底種族は残党が残ってるわ。
「本当は……嫌だ」
「む」
絞り出すように、俯いたウェルヌから苦悩が音になったかのような言葉が漏れる。その表情は窺い知れないが、自らの腕を強く掴んで震えていた。本音なのは、間違いがない。
「……意外だ。冥葬族はみんな死に関することならノリノリなんだと思ってたよ」
「シャーリーやハズミラ様は……巫女だから。巫女や託士の才能があるってことはその分だけ強く起源書に……死神さまに影響される……僕だって、キミに特別な何かを感じるくらいには影響を受けているけど……やっぱり、そこまで死に近づくことはできないよ」
「へぇ……」
影響、か。じゃあ、キヌたち焔精族も火の精の影響を受けてるんだろうか。……火の精は……最初は純朴だったけど闇堕ちして、やっぱり最後に光り堕ちするキャラだったよな……うーん、ピンとこないな。
「……もし。もしも……本当にキミが神様だったら……問いただしたかったな……これが、あなたの望みなのかって」
「……そりゃ、悪かったな。ただの部外者でさ」
ウェルヌが悲痛な独白を終えるのと、俺がコブを食べ終わったのは同時だった。
「ま、でも……短い間かもしれないけど……神様の代わりに愚痴なら聞くぜ」
今日はもう寝るけどな!
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