ドン引きだぜ! やば文化

 「それは……死にかけたや死ぬ思いで、といった比喩ではなく?」

 「文字通り。俺は別人として死んでこの世界のハナビとして生まれた」

 「なんと……」

 「どうやってとか聞くなよ? 俺もわかんねーから」


 転生について俺は全く理解していないので、やってみたいと言われたとしても何も答えられない。ちなみに神様とかにも会っていないし、転生の間とかもなかったし、チートは貰えなかった。まるでチートのように祝詞を使っていて錯覚しそうになるが、多分あれは俺じゃなくても日本語分かれば誰でもできるやつだ。


 「そう、ですか……では……いえ、まだハナビ様の問いに答えていないのに質問を重ねるのは御法度ですね。ハナビ様が聞きたいこと、というのは?」

 「律儀……じゃ、聞きたいのはお前らの祭り。捧魂祭についてだ」


 俺が気になっていたこと。捧魂祭について聞くと、ハズミラの表情に動揺が走ったように見えた。


 「シャーリー、ですか」

 「ま、切っ掛けはそうなる」


 お察しの通り、俺が例の祭りを知っているのも、わざわざこうして聞いているのもシャーリーが理由である。


 「ハナビ様は……彼女を助けたい、とお考えですか? ですがシャーリー自身が」

 「分かってる分かってる。気になってるだけだ」


 シャーリーが心の底から祭りで殺されることを是としていることくらい分かっている。だから、止めてやろうってわけじゃなく単純に気になっているが故の問いだ。本当に、美少女一人が失われるに足る理由があるのかどうか。


 「んで、俺は捧魂祭の目的を、巫女候補に与死と送死を経験させて戦力強化を図ることだと思ってるんだけど。五死だっけ? あれを経験するほど強くなるんだろ?」

 「……そこまで分かってるなら」

 「知りたいのはそういう意図じゃなくて名目、建前の方だ」


 一見馬鹿げた祭りでも、その奥には合理性が──とか、それはあってもなくてもどっちでも良い。シャーリーもそういう種族にとっての利益とか、そういうことのために身を捧げようとしているようには見えなかった。


 「シャーリーは名誉って言ってけど。捧魂祭は表向きどういう意味の祭りなんだ? そこで殉死するのは嬉々として受け入れるようなことなのか? 戦場で敵に敗れて死ぬより意味のあることなのか?」

 「……捧魂祭は、死に触れることが目的です。我らのルーツとなった死神さまは、人間の様々な死に触れて成長していきました。だから、それになぞらえて若い者の成長を促すための祭りが捧魂祭です」

 「……何でそこで貴重な巫女見習いを殺す? んでなんで死ぬ役が名誉なんだ」

 「そうですね……まず前者の理由ですが……五死の中には自死が含まれているでしょう?」

 「あぁ」


 自死。与死。殉死。送死。往生。合わせて五死。この内三回は自分が死ぬ必要があるので普通極めることができない無理ゲーだ。なんだこれ。


 「一時期……伝え聞く捧魂祭以前の冥葬族では、逸った者たちの自死が横行したと聞きます。それも、五死に序列がなかったが故。少しでも早く死神さまに近づこうと多くの巫女見習いが自殺を選んだと聞きます」

 「えぇ……」

 「個人の求道としてはそれもまた正解なのかもしれません。ですが、この世界は闘争の世。祝詞を扱う力ある者が死んでいけば、他の種族から身を守る戦力が減り、尊ぶべき死すら汚される」


 まぁ、俺が殺した地底の他種族もなんかタダでは死なせてくれなさそうな口ぶりだったし、シャーリーも彼らの行いには相当な嫌悪感を抱いていたっぽかった。死に方にも拘りがありそうだから、敵に散々利用されて死ぬのは屈辱なんだろう。


 「そういった経緯があり、先達は五死に序列を設けました。下から自死、与死、殉死、送死、往生。自死を下に、往生を上に置くことで、より長く生きて死した方がより尊いと、そういうことにすることで自殺者を減らそうとしたのです」

 「後付けで、か?」

 「はい……恥ずかしながら、これは起源書の死神さまの物語に根拠があるものではありません」


 ま、聖典の不都合な部分を政治的な理由で書き換えるなんてよくあることだ。物語そのものと直接繋がっているこの世界の人間にそれが通じるのかは謎だが、おそらくあなたが感じている部分よりももっと先に根拠がありますとでも言ったんだろうか。焔精族の最高記録も七割だったし。


 「で、それが捧魂祭となんの関係が?」

 「序列を決めても、逸る者は出てきます。その対策が捧魂祭なのです……この場での殉死は、例外的に五死の上を行く祝福がある、と。そういうことになっているのです」


 だから、選ばれることが名誉だと。政治的にも、一番役に立った者がこの役目を賜る、とか言っておけばモチベも上がりそうだ。


 「捧魂祭にはそういう背景があるのです。この儀式は処刑ではありません。嫌われ者を犠牲にしては何の意味もない……だから、選ばれるのはいつも尊い命」

 「ま、じゃなきゃ送死にならないもんな」


 送死、親しい人の死をその場で見送ること。多くにそれを経験させるには、死ぬのはみんなに愛されている人間でなければならない。なるほど、確かに名誉だ。シャーリーは人懐っこいし人気そうだもんな。


 「そして、選ばれた者に死を与えるのは決まってその者と最も近い者……今回は、彼女の兄、ウェルヌになるでしょう」

 「えっ…………ぐぅ……」


 ……聞けば聞くほど激やば文化だが、ハズミラから聞きたいことは聞くことができただろう。後はまぁ……この情報を踏まえて、ちゃんとシャーリーと話してみることぐらいしかできない。


 「……にしても、祝詞使える人材がどんどん自殺してく癖によく覇権とれたな。地底はもう冥葬族一強なんだろう?」

 「まぁ、それを補えるほどには我々の祝詞は強力なので」

 「そうなのか?」

 「はい。第一階梯からのほとんどの祝詞で敵を死に誘えますから」

 「……は? …………は?」


 えっ……いや、たしかに死神とやらが元ならおかしくはないかもしれんけど……それ許されるのか……?


 「じゃ、じゃあ……シャーリーが使ってた鎌出すやつとかって……」

 「《リーパーサイズ》、第一階梯の基本中の基本とも呼べる祝詞ですね。掠りさえすれば相手の命を奪えますよ」

 「……コワー」


 あの時戦った敵たちはシャーリーを異様に警戒して有利になっても近づこうとしなかったが、そりゃビビるわ。ガイコツという命がないものをけしかけてきたのは、生身でやったら即死を食らうから精一杯のメタだったってことか。……結果的に対策にはなってたけど、あれもシャーリーが遠距離の即死効果がある祝詞使えば終わってたよな……? やばぁ。


 「でも、それもハナビ様には効かないと思われます。あくまで魂に作用するものなので、ハナビ様ほど死に近い方には……」

 「……その理屈はよく分からんけど、まぁとりあえず安心しておくよ」 

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