諸刃だぜ! 力の行使

 「読み取りが必要ない、だと?」

 「そそ、発音が重要なら、わざわざオカルトな方法で起源書の内容を感じ取らなくても祝詞は使えるんじゃ、って話よ。俺が今から完璧な発音で祝詞を使うから、ヒョウヤは発音をマネしてみてくれ」

 「……試してみる価値はある……か」


 そう、確かめたいことの一つ目は、発音が肝要ならば別に巫女の才能とか必要ないんじゃね? という疑問だ。発音を真似たヒョウヤが祝詞を発動できれば、起源書の内容を理解する必要は別にない、ということになる。


 「んじゃ行くぞ、《いかづちのさえずり》、りぴーとあふたみー」

 「り、りぴ……? い、いきゃどぅちの……」

 「はいダメぇー、もっかい。《いかづちのさえずり》」


 俺がこの世界の言語に苦労したのと同じく、この世界の住民もすんなりと日本語を話せるようにはならなそうだ。そう考えると、あの巫女の発音はマジでネイティブだったな……それはそれとして、ヒョウヤはもっと苦戦しろ。俺と同じ苦しみを味わえ。


 そこから四苦八苦して、遂に。


 「《いかづちのさえずり》《晴天の雷鳴》《いかづちの予兆》!」


 日本人として太鼓判を押せるくらいの発音で、ヒョウヤは祝詞を口にすることに成功した……のだが。


 「……何も起きない……」

 「……今の、発音は?」

 「合っている、はずだ」


 ダメ……となると、発音だけで祝詞は成立しないということになる。なら、何が核なんだ……? 俺の転生者という属性が特別なのか、それともヒョウヤが混じり者だから……うーむ、分からない。


 「なぁ」

 「お?」

 「冒頭で良い、この起源書の内容を、祝詞の意味を教えてくれ。頼む」

 「ほう、その心は?」

 「巫女が今みたいな、お前の使う言葉の訓練をしているなんて話は聞いたことがねぇ。そして、巫女の才能が起源書の内容を感じ取ることなら、内容を理解することの方が重要だと……そう考えた」

 「なるほど」


 一理ある……というかなんだ、その話が本当なら、オカルトパワーで本の内容を理解した上にオカルトパワーで発音も習得すんの? どうなってんねん巫女。


 「……じゃ、一章を口頭で訳してく。……それでも結構長いな……」

 「頼む」

 「へいへい」


 普段の塩対応が嘘のように真摯に頭を下げるヒョウヤ。ま、こっちも断る理由がない。プライドより実利優先なのは結構好感持てるし、いっちょ読み聞かせしますか。


 さて、その『いかづちのさえずり』第一章『晴天の雷鳴』だが、内容としては、雲一つない昼間に轟いた雷鳴、それと同時に生まれたという少年が主人公で、幸せに幼少期を過ごしていたものの雷の異能を持っていることが露見したことで悪い奴らに狙われ、家族を失ったことで雷の異能が完全覚醒、仇の下っ端悪党に無双展開! ってところで一章が終わる。なんというか、『火の精の恩寵と試練』より胸熱というか、エンタメ寄りというか……起源書にも色々あるようだ。


 「家族を……」

 「おおう、刺さっちゃった?」


 俺としてはそこそこ面白いやん、という感想だったのだが、ヒョウヤにとっては自分に重なる部分もあってか感動したらしい。ま、子供の頃に触れる創作ってところもあるだろう。俺だって前世で最初にハマったアニメは世間ではクソアニメ扱いだ。


 「言っとくけど、続きは読んでやらんぞ」

 「あぁ……十分だ。今ならいける。《いかづちのさえずり》《晴天の雷鳴》《いかづちの予兆》!」


 祝詞を叫んだヒョウヤの手に、確かに青雷が宿る。心なしか発音もより完璧になり……完全に成功だ。


 「おー」

 「やったぞ、これで……!」


 良かったね。今回の例で考えると、俺が訳して意味を教えれば、内容を感じる力がなくても祝詞を使えるということになってくるが、そうなってくるとまた別の疑問が湧いてくる。


 「なぁ、内容が分かってれば良いんなら、感じ取れる奴一人が他に内容を伝えれば良い話なんじゃないか? それだけで全員祝詞を使えるようになると思うんだが」

 「いや……お前の話を聞いているとき、《いかづちのさえずり》の物語が、イメージがハッキリと見えた……だから、お前の話はあくまで切っ掛け、なんじゃないかと思う」

 「んだよ結局オカルトか……んー、その説はその説でなぁ」


 祝詞を扱うのにオカルト電波受信が必須だとすると、それはそれで矛盾が出てくる。俺だ。俺はそんな電波を受信していないが、祝詞が使える、それがおかしいことになるが……いや、自惚れっぽいけど、自分をイレギュラーとして扱う方が良いのかもしれんな。


 「はぁ、ま、とにかく次の検証に移りたいんだが良いか?」

 「あぁ」

 「と言っても、こっちはヒョウヤにしてもらわなきゃならんこととかないんだが」

 「何をする気だ」

 「俺最強説の検証」

 「は?」


 祝詞が、起源書で描かれた現象を再現するものならば、種火やら火柱やら強めの静電気やらより、もっと大胆なことができるのでは、という話だ。なんせ『火の精の恩寵と試練』はもっと大規模な闘争も描かれている。普通に国とか滅んでるし、それができるなら俺は最強ということになるわけだ。ヒョウヤいなくてもいいだろ? はい、自慢したいだけです。


 「ま、見てろって。《火の精の恩寵と試練》《天照》《淵炎消し去る天精のホムr──ゴフッ!?」

 「っ!? ハナビ!」


 格好良く決めようとしていたはずが、気づけば眼前に地面があった。その上口が鉄の味でいっぱいである。どうやら漫画みたいな吐血をしたらしい。聞いてない……こんな副作用聞いてない。


 「大丈夫か? 一体何をしようとした?」

 「焔精族の起源書の、最終章に出てきた世界を滅ぼす、怨嗟の炎を浄化した最強技、使おうと思って……」

 「んなもんこんな場所で使おうとするんじゃねぇ……!」


 それはそう。逆に発動できてたら大騒ぎか……。


 「それより、なんで俺は倒れてんですかね」

 「……最終章って言ったよな?」

 「はい」

 「噂だが……巫女の力量は起源書の何割を感じ取れるかで評価される、らしい。そして、焔精族歴代最高峰の巫女でも七割が限界だと」

 「まぢ?」


 俺、前人未踏の大技を発動しようとしてたタイプ?


 「んで、巫女の寿命は短い。この前死んだ巫女だって若かった。それがもし、今のお前みたいに祝詞でダメージを受けているとすれば……」

 「えっ」


 え……これ、寿命削る技だったん?


 スーッ、それは早く言って欲しかったンゴねぇ……。


―――――――――――――


 結局、なんとか孤児寺に戻り、俺は風邪を引いたってことにして休養を取るハメになった。女子部屋に一人放置され、まーじで暇すぎて死にそうだったのだが、そんな俺に退屈を飛ばすあるニュースが届いた。


 キヌが、巫女候補隊の一員としてこの村に巡回してくるそうだ。


 ……うん、巫女候補隊ってなんだよ!?


【あとがき】

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