第14話 港湾地帯
二二二日目、朝。昨晩遅くまでサイボーグ二体に偵察をさせるまま、ショベルカーを動かした。その甲斐あってか物流倉庫地帯に辿り着いた。一晩眠り目を覚ました頃だった。身体に砂がまとわりつき、みんな不快な気分になっていた。しかし、物流倉庫を目の前にすると、砂を払ってしまえば食料への期待に満たされるばかりだった。
一つの身近な物流倉庫にみんなで入り込み、隅から隅まで食料と水を当たってみた。だが何時間経っても食料、水らしきものを見つける事が出来なかった。
「ここにはない」私は言った。
この倉庫は諦め、両隣の物流倉庫に二手に分かれて調べる事にした。片方の倉庫は主に椅子、テーブル、棚、寝具などの家具があり、食料、水はなかった。
もう片方は見た事のある光景だった。倉庫の内部はがらんどうの大空間が広がり、食料や水は見当たらなかった。
有名なメーカーの倉庫に入ってみる事にした。数は多い。しかしここも食料、水は誰かに取られてしまっていた。
「あーうー」誰かが唸った。
「次なる手は、次なる手は」私と山下教授は、考え出した。
倉庫の外観の文字で効率的にまだ探せないか?そう考えるに至った。近場で見上げて周りを見渡した。
「福成倉庫、山科倉庫、住山倉庫、日々倉庫、多田倉庫、初口倉庫・・・」
全く中の商品を想像出来ないでいた。結局は身体を使わなければならないのかと私は暫し呆然とした。舞も似た様な反応だった。中には眩暈を起こした者、運転手の山添だった。
一旦、山添を舞が介抱して、残り五人と二体で集合した。これからはどう食料、水を調達すれば良いか、という事を。
そして、ここに来てショベルカーの燃料が枯渇してしまった。人の足だけが頼りになってしまった。
「先ず、みんなばらばらになって、一人ずつ行動して目的の物を見つける。倉庫に入った感じで食料、水があるかどうか確認する。そこは個人に判断を委ねる」山下教授が言った。みんな四方八方に散った。
舞は山添を安静にさせると、みんなを追って倉庫群に突入して行った。
二二二日目、十四時頃。面子各々が物流倉庫に飛び込んで内部を確認するが、食料、水らしき物はどの倉庫にもなかった。これは先に来た者達が、食料、水をごっそりと奪って行ってしまったのだろうと、思うしかないと。
その時、叫び声が聞こえた。
「おーい、おーい」
西の方向に男の声が聞こえた。私はその方向に向かって精一杯、砂漠化した地面を蹴りながら進んだ。
「おーい、助けてくれ、動けない」それは平田課長だった。身体が半分くらい砂に埋もれて、身動きが取れなくなってしまっていたのだ。助け上げる為に私は更に急いだ。
「ここだ」平田の両手を掴むと、足を踏ん張り胸の上に高く引っ張り上げた。私の上半身の上に乗り掛かる形で彼を救出した。
「助かった!ありがとう!」平田は私に感謝した。何があったか尋ねると、急に砂漠化した道路に穴が出来、落ちてしまったと答えた。
私は急に舞の事が心配になった。平田課長の様な事に合ってないか気になったのである。南の方に進む方向を変えた。
暫く進むと高さ十メートル程の巨岩が林立する地帯に、突然迷い込んでしまった。岩は倉庫を垂直に破壊していた。
巨岩の群れの隙間をぬってゆっくりと皮膚に傷が付かない様に進んで行った。なぜこんな巨大な岩が物流倉庫地帯に突然、突き刺さる様に存在するのか理解出来なかったが、不気味さが漂った。
「舞!」私は呼び叫んだ。
「舞!どこにいるんだ!」
「信!ここよ!ここに来て!」間違いない、巨岩の群れの奥から舞の声が確かに聞こえる。急がなければ。
岩に身体を引っ掻きながら血を流して、奥へと私は進んで行った。その距離は時間にして二十分程だった。舞は巨岩がなくなった直ぐのところで、向かい入れる様に立っていた。
私はそれを見るなり彼女が不安定な砂場で転倒しない様に、そっと軽く抱きしめた。彼女は言った。
「海の方を見て」
私は舞と一緒に埠頭の方へと向かった。私は絶句し、息を飲んだ。
「う・・・」
埠頭から遠く沖合、水平線まで、見える範囲全ての海から海水が全てなくなっていた。更に砂が積もり砂漠化してしまっていたのである。
大型旅客船やタンカー、ヨット、クルーザー、漁船などは横転し、炎を上げて数えられない程燃え上がっていた。すでに燃え尽きている船もあり、真っ黒になっていた。
コンテナは海水のない海底に散らばり落ち、海の涼しい風はなく、熱波が向かい風となって押し寄せて来ていた。
埠頭には潮の満ち引きを示す海面の線が、埠頭のコンクリートにただ残されていた。その埠頭に生息していた生き物の影もなくなっていた。
舞が言う。
「もう絶望的な光景でしょ、食料はどこを探してもなく、水に至っては海水まで枯渇してしまっている。お手上げ」
「ああ、これは何もかもなく、海までも砂漠化し、瓦礫で覆われた地上・・・」私は跪き頭を抱えた。
舞の声に反応するかの様に、仲間たちが集まり出した。海の光景を見て気持ちが前向きになれる者はいなかった。呆然と立ち尽くす者、砂の上に膝をつく者、絶望して泣き叫んでいる者、両膝、両手をついてうな垂れる者、様々だった。
我々七人、私と舞、品山リーダー、平田課長、大学教授の山下、運転手の山添と梨名、サイボーグ二体以外、気配はなかった。
西の空には燃え上がる太陽が睨みを利かせていた。その太陽の熱は更にみんなの体力を奪った。我々にはもはや何かをやれる気力も希望もなくしてしまっていた。
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