第13話 住人の居る場所
二二〇日目、朝。三台のショベルカーのキャタピラがギシギシと砂漠化した砂を掴んで前進していく。みんな腹も満たされて爽快な気分の中、南部港湾を目指す。
しかし、どこもかしこも二階軒先位まで砂に埋もれてしまっており、高層建築群は外壁が切り落とされた様に剥がれ落ち、建物の中が露わになっていた。庁舎前の広場前に人が集まっているからなのか、キャタピラを走らせど、人の気配はなかった。
警戒用のサイボーグ二体を動かす必要なく、順調に一行は進んだ。軽く食事を取り、休憩後再び動き出した。
しかし、暫く進むと正面に立ち尽くしたまま崩壊した高層ビル地帯に直面した。問題は砂漠化面の上に剥がれ落ちた外壁の瓦礫が、進行を遮る様に積み上がっている事だった。
「前方、瓦礫の山で進めない、どうするか」と品山リーダーが窓を開けて言い放った。
暫く沈黙が流れた。山下教授が口を開いた。
「サイボーグ二体を偵察させよう。どのコースが瓦礫の最も少ないか確認させる」
「そこから瓦礫撤去をショベルカーですればいいか」と品山リーダーが言った。彼からメンバーに段取りの説明がされ、最後尾のショベルカーに座っていたサイボーグ二体が最前線に移動して、瓦礫を二方向に分かれ越えて行った。
一時間過ぎてもサイボーグはまだ戻って来ない。私も偵察に行こうとしたが、教授に止められた。この間、瓦礫のデータは送られて来ない。二時間経過した頃、サイボーグ〇一、〇二はマイペースに戻ってきた。データを収集して。
山下教授はデータを解析して先ずは右方面の瓦礫の撤去を指示した。運転手を残して三台のショベルカーは砂漠化面の上にある瓦礫を撤去し出した。
データに沿って撤去して行き、四時間程で道は開けた。みんな一斉にショベルカーを追いながら道を進んで行った。山下教授とサイボーグ二体、運転手三人の手柄が大きかった。私と舞はせめて前方を進もうと、次なる障害に備えた。
夕刻も近付き、みんなで食事を取った。暫く瓦礫地帯の整地した場所だったので、みんな歩いて行ける所まで進んだ。日も沈んで来たので、野営する事になった。サイボーグ二体が交代で見張りにつき、みんな眠りに就いた。
二二一日目、朝。目を覚ましたメンバーは、順次出発準備をした。みんなショベルカーの運転席、特設座席に座り出発した。
三台のショベルカーは列をなして警戒しながら進んで行った。砂漠化面の上を順調に走らせ、太陽が最も高くなる正午になった。暑さが身体に刺してくる。
「パシッ!パシッ!」と何かが身体に当たる感覚を私や舞などが覚えた。何かが当たっている。それはもの陰から投げられる石や瓦礫の破片だった。その数は益々増えて行き、対応が出来ず、ショベルカーの下に潜り込んだ。ショベルカーの運転席のガラス面四方は投石で割れてしまった。
その時、声が響いた。
「我々は高層集合住宅地帯を占拠している者だ。ここでの勝手は許さぬ。必ずこの山城の許可を得てもらおうか」
彼は五十代前半の小太りの男だった。
「我々は港湾地帯の物流倉庫に食料調達に向かっている。何も危害を加えないから通してくれ」と品山リーダーが言った。
「そう簡単には通さない。こっちも食料が要る面々がわんさといるからな」と山城。見ると石やコンクリートの瓦礫の隙間に人影がたくさん確認出来た。三千人程であろうか。
そして、彼は続けて言う。
「サンドファイトだ!」
「おっと怖がるな、グローブを手に付けたボクシングの試合だ。ルールは変則的だがな。互いの腕っぷしのいい者を一人代表に出して、一ラウンド十分間戦ってもらう。勝った方の言うことを聞く。俺はそのショベルカー三台貰う」と山城はにやりとした。
「我々が勝てばここを通してもらう。戦うのはサイボーグ、膝下サイボーグでもいいのか?」品山リーダーは確認した。
「そんなの駄目に決まっているだろう!それ以外で候補者を立てろ」女二人、リーダーを除いて判断すると、防災担当の平田課長に絞られた。彼はがたいが良く、学生時代十二年間空手をやっていた。そこで彼を候補者に立てた。本人もやる気十分だった。
相手もがっしりした体型で、砂のリングに先に降り立った。平田課長も続いて降り立ち、投げられたグローブをお互いに固定しあった。ゴングが鳴った。その時、砂のリングにレフリーが居ない事に私は気付いた。時間だけが流れ始めた。
平田課長は積極的に間合いを詰めて行った。最初の攻撃は平田だった。積極的にジャブを繰り出し、ストレート、フックを繰り返した。次は相手の攻撃となった。異常にリーチがあり、間合いをそれ程詰めなくとも、ジャブが繰り出された。そして見えない位置からカウンターパンチをもろにくらってしまった。砂のリングに伏してしまった。大衆がカウントを取り出した。
「一、二、三、四、五、六、うおわー!ファイティングポーズ。やるじゃないか、楽しみ甲斐があるってことよ、うわー!残り八分」
試合は再開された。今度は相手が詰め寄って来た。刺す様なジャブを繰り出しストレートが来た所を下に避けて、アッパーを繰り出したが、これも避けられた。
平田は奮起してジャブ、ストレート、ジャブ、ボディを攻撃として繰り返した。五回目のボディを決めた時、相手は膝間付いた。砂の地面なので、体勢を崩しやすい。いや、ボディが効いているのだ。相手は歪んだ顔を見せた。
少ない人数がカウントする。
「一、二、三、四、五、立った!ファイティングポーズ、残り五分」そこで一方的に相手は休憩を取り、水を飲んだ。こちらの平田も休憩しようとすると、「駄目だ」と言われた。
「平等ではない、おかしい」私は言った。
「ここは我々の領地だ、我々が法だ、ルールだ」長の山城が言った。
「ファイト!」相手サイドの誰かが言った。
相手有利の砂のリングと悟ると、平田は思いっきり右足で砂を蹴り上げ、相手にかけた。そこに身体ごと持っていき、ジャブとボディの連打を視界の奪われた相手にかまし続けた。相手は右膝を付いた。
「ストップ、ストップ!面白いがそれはルールにない。休憩を取らせる、お前はだめだ」
山城がまた口を挟んだ。相手の砂を払ってあげて、こちらを睨み付けた。
「ファイト!後、三分」みんなが叫んだ。
相手が詰め寄って急に飛び蹴りをして来た。続けても蹴り、蹴り、蹴り、蹴りを繰り出し、ジャブ、ストレート、ジャブ、ストレートと打って来た。平田は三発くらい何とか踏ん張った。
「後、二分」
「ここのルールに従え、平田」梨名が叫んだ。
空手の構えに変化させた平田は、相手に見たことのない突きを何発もかました。そして蹴り、回し蹴り、蹴り、回し蹴りと繰り出し、最後に大きく踵を振り上げ、相手の頭に突き落とした。
相手はそり返る様に砂のリングに倒れた。動かなくなった。敵対する相手から数千もの溜め息をする声が漏れて来た。
「分かった、負けだ。どこにでも行くがいいさ。集合住宅地帯でも港湾地帯でも行くがいい、そこはもう」山城が咳込みながら呟いた。我々はサイボーグを使用して、瓦礫の少ないコースを進んだ。キャタピラが砂を掴んで進む音や、仲間達の明るい声が響いた。
高層集合住宅地帯は砂嵐などで、もれる事なく外壁が剥がれ落ち、その外壁は地上に落ち瓦礫と化していた。内部空間は軽い椅子、テーブル、テレビ、本棚、衣類、扉、ソファなどは、綺麗になくなってしまっていた。冷蔵庫、電子レンジ、システムキッチンなどは、倒壊していた。もはや人が住める居住空間には程遠かった。
どこの居住空間も遠からず似た様な状態だった。一行が進んでいると重機のキャタピラの振動からなのか、集合住宅から瓦礫が落ちて来る。完全に廃墟と化した街並みであった。品山リーダーは運転手の山添、梨名、平田課長、山下教授、そして私と舞を集め、港湾地帯をどう攻めて行くか話し合った。
ここからはまだ港湾地帯はまだ見えない。平田課長のもつ湾岸地図を元に、サイボーグ二体の偵察に頼った行動計画が立てられた。暫しこれは安全優位の行き当たりばったりの行動目標になるのであった。安全が第一だ。しかしどういうコースを通って、どこの物流倉庫に辿り着くか計画が立てられないのが難点であった。
一行はショベルカーに乗り込み、サイボーグ二体を偵察させながら、キャタピラを動かし進んで行った。
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