第9話 東邦大学総合病院
一三七日目、砂搬出六日目。舞の部屋の砂はほぼ搬出されており、ほうきや雑巾などで清掃するのを残して、大体仕上がって来ていた。昨日からは私も舞も現場に入らせてもらい、細かいところからキッチン、ベッド、ソファ、テーブルなどの清掃をしていた。
今日は昨日の個所から続けて、作業をする私と舞は無心だった。職人の邪魔にならない様に気を遣い、作業をしていた。
「九割がた砂の搬出が達成でき、後一割は砂埃だ。ショベルからほうき、雑巾に持ち替えようぞ」と職人の長風の者が言った。
「おお!」残りの職人達も掛け声を上げた。
外に居た職人達も続々と舞の部屋の中に入って来て、十人近くの職人が一斉にほうき、雑巾に持ち替え掃除を始めた。舞は触られたくない所に赤のテープでばつ印を付けていった。自ずとこの赤テープの個所は、舞が担当する所となる。
職人はそれを察して、他の所から作業に取り掛かった。一番の難所はフローリングの砂埃を綺麗にする事だった。一番広く面積があり、傷を付けない様に作業する事だった。力仕事に慣れている職人達は、繊細な作業を不得手としていた。そこで私達二人は十人余りにコツを伝授した。
昼過ぎに皆で昼食を取った。ちょっと休憩して、午後の作業に取り掛かった。教えた通り職人達は優しくほうきでフローリングの砂埃を玄関の方にまとめて掻き集めた。それから私と舞を先頭に雑巾でフローリングを乾拭きした。どうしても取れない砂があり、舞は悔しそうだった。
夕刻も近付き太陽も陰り、みんな仕事を切上げ、残りは明日やる事に決まった。一人の職人がベニヤ板を持って、砂が漏れていた個所に当てがい釘で頑丈に止め付けて、二重のベニヤ板にした。これに職人達、私と舞は拍手を送った。
一三八日目、作業七日目。朝、塵取りで砂埃を溜めて、傾斜搬送ベルトコンベアーに載せると、上部まで上がって行き、砂防擁壁を越え少し砂漠の上に溢した。
フローリングの上を雑巾で乾拭きすると、目地の隙間から意外に砂埃が思った以上に集められた。玄関まで持って行き塵取りに移すと、ベルトコンベアーに置き、上に送らせて砂漠に処分した。
舞の赤テープはまだ付いており、職人達がいなくなってから、作業をする予定だったのだろう。舞の部屋の作業が終わった頃、私の部屋の清掃もお願いした。一人で埃取りをすると膨大な時間が掛かりそうだったのである。職人達はOKを出して、みんな私の部屋にほうき、雑巾を手に持って入って来た。私も頑張ったが、職人達も一生懸命、砂埃を取るのを頑張った。
結局は舞の部屋の赤テープを残して引き渡され、私の部屋は私なりに綺麗になって引き渡された。お昼をかなり過ぎてからの引き渡しとなった。
傾斜搬送ベルトコンベアーは解体され、共用通路からなくなってしまい、職人達も解散して行った。重機類は東邦病院の方へと帰って行った。凄まじい音を立てながら。
舞は赤テープの個所を整えながら、終わったらテープを剥がしていた。遅くまで続けていた様だ。私はひと段落して気が抜けてしまったのか、ベッドで着替えもせずそのまま寝てしまった。
一三九日目、朝、晴れ。私は身体に付着した砂を洗い落とす為、シャワールームに入り、お湯で全身を洗い流した。部屋に戻ってくると、新しい服に着替えて隣の舞の部屋に向かった。彼女は今起きたばっかりなのか、ノーメイクで、少しあくびをこらえながら、私を部屋に招き入れた。
部屋は更に綺麗になっていた。後、砂さえ降って来なければ完璧だ。二人で缶詰めを中心にしたパックご飯、ミネラルウオーターで朝食を済ました。
「ひと段落したね」と私。
「ほんとそうね、こんなに普通にご飯食べられるのが有難い事なんて、思ってもいなかった。これも信のお陰」
「それはこっちも、お互い様さ」
「今日はどうするの?」と舞。
「自治体が動き出したみたいな話、職人がしていたから、ひょっとするとスーパーで安く物資が手に入るかも知れない、行ってみる?」と私は舞に尋ねた。
「分かったわ、まだ着替えとかお化粧とかしてないから、ちょっと待ってて」そう言われると部屋の隅で彼女の支度が終わるのを待っていた。
「いいよ、出発できる」と言ってこっちにやって来た。下は履きやすいジーンズで、上着はオフショルダーの半そででおへそが見えていた。準備が出来た二人はスーパーマーケットを目指した。
その向かっている途中でサイボーグの足から声が聞こえた。小型トランシーバーだ。
「私らは役に立っているだろ、十分に。今度は高本、坂西が役に立ってくれ、今から病院だ」突然、教授に言いつけられ、テストがあるのだろうと思い、仕方ない、東邦大学総合病院に向かう事にした。
行く途中の街並みは徹底的に砂防擁壁が土工事されており、砂と一階が触れない様に計画されていた。通りに面する一階部分全てに、砂防擁壁工事をしたと言うなら、どれだけの職人が登用されたのだろうと私は想像した。何千、何万人、もっとの者が関わったとしたらぞっとした。
コンビニエンスストアの前を越えて暫く進み、東邦大学総合病院に着いた。ここも一階部分を砂防擁壁で覆っていた。いつものリハビリテーション室の通用口を開けて中に入った。いつもと変わらない室内だった。暫くすると膨大な用紙を積んだロボットと教授陣が入って来た。
「今度は何をさせたいんだ?」私は叫んだ。
「うーむ、君のデータが足りなくてね。運動データ、快楽データ、食欲データは出来てるのだが、戦闘データがほとんどない。気分のデータはほとんど取得した。知識データは君の行動で収得できた。先ず今から戦闘をして欲しい。戦闘データが欲しい。相手は全身サイボーグの君。戦闘データ以外の面で君と同じ。戦闘面は攻撃的な者のデータをサイボーグに仮に入れている」と教授が説明した。
舞は教授の手で外へと押し出され、砂防擁壁に衝突し気を失った。教授陣は戦闘の観察の為、並んで立っていた。奥の扉がゆっくりと開いた。全身が漆黒に染まった筋肉組織の、筋肉のつき方、背丈、顔の表情が私とまるで一緒のサイボーグが現れ、一気に私の所まで詰め寄って来た。
息つく間もなく殴りかかって来た。後ろに下がって一撃を避けた。私はこうした争い事が昔から嫌いだった。どちらかがノックダウンするまで続くのだろうが、それがなんだというのだ。もし観客が居てファイトマネーが積まれても彼らの娯楽に付き合わない。非戦闘主義なんだ。戦いからは何も生まれない。
そう唱えて逃げ回っていると、私同様サイボーグも疲弊して来た。一旦彼は片膝をついた。そこから一呼吸互いにし、戦闘再開した。私はひたすら後ろに逃げ、サイボーグの攻撃を交わし続けた。繰り返し繰り返し。
教授陣は期待した結果が出て来ずため息をした。そして私は戦闘において最大の防御能力がある事が証明され、攻撃能力のデータは一度も出て来なかった。
「もういい、もういい、君が戦闘を徹底的に回避するスタンスは分かったから。諦めた」と教授陣はうなだれ、奥の扉の方へ戻って行った。サイボーグは疲れ果て戦闘後、その場に倒れ込んでしまい、動けなくなってしまった。私は舞を探しに外への扉を開けて、砂防擁壁で囲まれる通路を見回した。
舞はぐったりとし、横になって気を失っていた。彼女を抱えて身体をゆすってみた。その時、鈍器の様なもので殴られて、私も気を失った。
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