第5話 スーパーマーケット、コンビニエンスストア

 四日目の朝、舞は太めのジーンズに丈の短めのワンピースを着て来た。可愛らしかった。

「可愛いね、決まってる」

「ありがとう、メイクもね。今日も会えた、ふふ」

「当たり前さ、昨日の約束通り」

「そうでもないよ、スマホも一般電話も繋がらない、ネットも通信回線もだめになってるんだから、みんな不安なのよ」

 そして靴はデザートブーツを履いていた。それを見て、砂の上を歩く事を思い出し、自分も用意しに行って戻って来た。

「スーパーから行きましょ、この前行けなかったから」舞は何か張り切っていた。

 建物がある所、ない所は砂漠、そんな光景に変わっていた。自分達が毎日やっている砂の掻き出しの行いが、無力に感じる程、砂漠の広さが広大なのである。

 まるで天気が変わるかのように、晴れ、曇りがあり、雨の代わりに砂が降る。そして今日は運良く砂が降ってない一日になりそうだった。

 スーパーマーケットは、アパートは向かいの砂漠を二ブロック越えた向こう側にあった。近いので良く行くスーパーだった。

 いざ進み出すと砂にブーツが埋もれ、歩きにくく、太陽の砂漠の照り返し、砂の熱気がたまらなかった。途中で水分を補給しながら水筒を持って進んで行った。

 随分と時間がかかり三十分を過ぎてしまっている。雲が出て来た。日差しに陰りが。少し二人はペースを二ブロックまで上げた。そしてスーパーマーケットへとブロックを折れ曲がった。

 舞が嬉しそうに言った。

「もうスーパー見えてるわよ、あと少し」

「ああ、分かってる、頑張ろう」

 雲の陰りが体力の消耗を減らしてくれる。スーパーマーケットまでは後百メートル程、信と舞は俄然、元気が付き歩幅も広がった。

スーパーマーケットの中の照明も見えて来た。二人も明るくなった。人集りも少し見える。

 砂の積りは四十センチメートルだった。

 歩きに歩き、スーパーマーケットの軒下、出入り口まで辿り着いた。

 二人は水筒を開けて、冷たい水をごくごくと飲んだ。そしてスーパーマーケットに入り、買い物かごとカートを準備した。


 四日目の昼。

「ないっ!ほとんどないっ!」

「ないわ、どうしよう」

 天井も高く、売り場面積も広いスーパーマーケットなのに、食材がほとんどないのである。野菜売り場では、とうもろこし一つ、細いさつまいも一つ以外なく、魚、肉売り場には、もう何もなく、惣菜コーナーには、中が崩れた寿司一つとお好み焼き一つ、後はなかった。麺、米関係は少々あった。その分を買い物かごに入れ、とにかく無人レジに向かった。

 レジ袋も有料だが何かに使うかもと多く頂戴し、会計をした。袋に入れている時に、舞が「途中念の為!」とジュース、水を一本ずつ買って来た。

 カートと買い物かごを戻しながら、二人途方に暮れた。ふと思い出し私は、ブルーシート、ビニールの紐、ハサミを買って来た。

「商品が売れても補充が出来ない状態に陥って、それでもう何もかもなくなってしまったんだ。ここのスーパーは少なくとも」出入り口の手前で舞に説明した。

 舞は不安そうだった。これから先の事を考えたんだろう。私は掻き集めた自分達の商品を両手に抱えて砂漠を進むのは困難だと思い、ブルーシートに包んで運ぼうと考えた。また、惣菜は熱波の環境では日持ちしないと考えここで今から食べようと舞に話した。

 寿司とお好み焼きは食べてしまう事にした。残りの品々はブルーシートに包み、ビニールの紐で包んだ。砂漠を引っ張れる様に紐で長めの持ち手を作った。

「コンビニは、どうなってるか分からないから、一旦アパートに持ち帰ろう」

「うん、分かった」と舞は返事をした。

 二人でペットボトル飲料を口にし、スーパーマーケットを出た。外は曇り、砂は降っていなかった。ついていた。外気はかなり下がっていた。

 持ち手は二人分作っていたので、私と舞とで運べる様になっていた。


 四日目の昼から夕刻にかけては、寡黙になって二人砂漠を移動し、重めの荷物はスムーズに動かす事が出来なかった。

 二人はペットボトルをまた口にした。スーパーマーケットから百メートル進んで、一ブロック目の角を曲がった。暫く進んできた時、雲間から太陽が覗き出し、じわじわと気温が上がって行った。

 舞の持ち手を握る力が弱くなって来た事が分かった。

「もう少し、もう少しだけ頑張ってみよう」舞に呼び掛けた。

「うん」力のない返事だった。

街区の一ブロックは進んだ。後、もう一ブロック。ここで持ち手を引っ張る舞の力が感じられなくなった。私は覚悟した。荷物を一人になってもアパートまで運ぼうと。

 その時サイボーグの両足が覚醒した様に、力がみなぎって来た。歩幅は増え、進むスピードも増した。彼女も置いて行かない様に、力を温存しながら進んだ。快適と思えるほどのサイボーグの力だった。

 最後の二ブロックも進み切って、二人のアパートに舞と荷物を運んで到着した。玄関を開けると舞は倒れ込む様に床に横になったので、私のダブルベッドまで運び、寝かしつけ、少し頭を起こしてペットボトルのジュースを飲ませた。

 私もペットボトルを飲みながら、彼女を看病した。時々起こして水分補給しながら。そのまま舞は早朝まで眠った。ベッドは砂まみれになってしまった。


 五日目の朝。坂西看護師は目が覚めた時、混乱していた。部屋の辺りを見て自分のアパートではない事に気付いた時、ベッドから飛び起きた。誰の家なのだろうと不安が襲って来た。ソファに人が寝ている事に気付いた。また恐怖する。

 寝息がする。足から包帯が垂れているのが見え、黒いサイボーグの足が見えた。信だ!内心思った。ここは彼の部屋なんだという事に安心した。

 包帯を巻いてあげて足に固定してあげた。

 信の部屋の間取りを見ると、自分の部屋と変わりはなかった。壁紙が四面明るいグレーだった。彼はそれ程物を持たないミニマリストだった。

 ベッドを見るとどうも自分が砂で汚した様だった。信を軽く揺さ振り起こして、ベッドの砂の事を舞は詫びた。

 私は「まだまだこの部屋は砂だらけだから、気にしなくていいよ」と答え、「簡単にベッドを綺麗にしようか、二人で」と話した。彼女は今まで付き合った彼氏の部屋がごちゃごちゃしていたので、信の様な部屋は初めてと同時に、とても彼に好感をもってしまっていた。

 彼女は一晩で元気に回復していた。後は朝食に蒸したとうもろこしと細いさつまいもを用意して二人で食べた。

 なんだか人生追い詰められている様な二人だったが、この瞬間、嬉しく幸せそうな感じだった。

「現地の様子は分からないが、コンビニに向かおう、行けそう?」と私は舞に尋ねた。

「たっぷり信のベッドでたっぷりと寝させてもらったから、心身大丈夫、健康よ。行きましょう」舞は元気に言った。

「道具類まとめて、コンビニに向かうか?」

「おー!」舞は掛け声を上げ微笑んだ。


 財布、買い物した物を入れるブルーシート、ビニールの紐、ビニール袋、ペットボトルなどを用意した。今回はブルーシートを二つに分けて、二人それぞれで運べる様にした。先ずは背中に背負った。

 二人は今日、下着だけ着替える事にした。デザートブーツを履くと外に出掛けた。

 何か前向きな二人。砂漠の上で飛び跳ねるのは出来ないが、でも信と舞の気持ちは一緒に飛び跳ねていた。砂漠の二ブロック先、三百メートル程先にコンビニエンスストアがあった。今日は砂が降っていたので、二人とも帽子を着用して来た。視界も余り良くなく十メートル先が限界だった。

 それを左側の建物の存在を頼りに二人進んで行った。


 コンビニエンスストアに着く頃には、そこの状況が分かって来た。先ずコンビニエンスストアの食材を積んだトラック一台があり、入口には、中に入るのを待っている人の列がずらりと二十人程、並んでいた。二人はその最後尾に着いて行く事にした。

 少しずつ中に進み、自分達も前へ進んで行った。そこの入口に迫ると中には多くの人達が居るのが外から見えた。

 十分程待つと中に入る順番になった。人混みが酷く買い物かごを取り、離れない様に二人手を繋いだ。

 商品は充分あった。しかし価格がとんでもなかった。通常の二倍から四倍の値段になっていた。

 また至る所に「私語厳禁」張り紙が貼られており、コンビニエンスストア内で会話が出来ず、また「一人十点迄」と書いてあり、点数が限られていた。

 日持ちがするカンパン、牛肉と鶏肉とサンマ、パインの缶詰めと水、飴、レンジでチンのお米パックを買った。そして舞もこれに倣った。

 二人で二十点購入して静かに外へ出た。息が詰まる様な場所から開放された時、二人は砂漠の上で飛び跳ねて、購入した商品をレジ袋毎落としてしまった。

 二人は急いでブルーシートで食材を包んだ。喜びながら一人ブルーシートに包んだ袋を、二人で運んだ。

 帰り道、砂の雨は止んでおり、快適なアパートへの帰宅の途についた。


 五日目の昼過ぎ。二人はアパートの舞の部屋に戻ると、水を飲むとお米パック一つをレンジでチンすると、それぞれ二人で分けて食べた。サンマの缶詰め一つを分けて食べた。

 夕刻、夜に向けて英気を養う為、二人で昼寝をすることにした。私と舞は本当に疲れていて、ベッドで横になると二人で熟睡した。

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砂漠の街を辿り道ゆく者 幾木装関 @decoengine

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