第33話 春菊のサラダ

 秋も深まり冬の気配を色濃く感じ出す季節になった。

 これから旬を迎える食材が多くあり、楽しみでもある。

 「風が冷たくなってきましたね」

 プルプルと体を震わせながら暖簾を出して戻ってきたアリッサにハノイが温かいお茶を出した。

 緑茶はハノイの故郷でもある東方の島国から輸入しているもの。

 まあ紅茶があるからこの国でもノウハウがあれば緑茶は飲めるのだろうけれど、やっぱり長く作っているだけあって緑茶は東の島国のお茶がアデルハイドも好みだったりする。

 「ああ、市場に出たら春菊がもう出ていたので仕入れて来ましたよ」

 「あら、じゃあそろそろお鍋も考えなきゃね」

 「たくさんあるんで、お浸しやかき揚げなんかも良さそうですね」

 「そうねえ、ならそっちはハノイに任せるわ、私はサラダを作りましょうか」


 先ずは春菊の下茹でから、水で洗った春菊はたっぷりのお湯に塩を入れた鍋で茎からゆっくり入れてサッと茹でる。

 冷水に取って水気を軽く握って絞り、一口大に切ってボウルに入れておく。

 刻んだベーコンに同じく今が旬のマッシュルームを茹でてスライスしたものを春菊の入ったボウルに入れてざっくり混ぜ合わせる。

 次はドレッシングに取り掛かる。

 ボウルにマヨネーズと牛乳を入れ塩胡椒にすりおろした山葵を加えてしっかり混ぜ合わせる、マヨネーズがダマにならないようしっかり混ぜたらドレッシングはひとまず完成。

 皿に春菊のサラダを盛りドレッシングをかけてから上に粉チーズを振る。

 「さ、春菊のサラダが出来たわよ」


 丁度良いタイミングでフェリクスが珍しく兄である王太子と一緒に店に入ってきた。

 「あら、お久しぶりです」

 「やあ、アデルハイド嬢も元気そうで何より」

 「アディ、それは?」

 目敏くカウンターに乗っていた春菊のサラダを見つけたフェリクスに苦笑いを浮かべながらアデルハイドが答えるとソレを含む何品かを注文した。

 酒は淡白ですっきりした味わいのある冷酒をフェリクスが、飲み慣れた白ワインを王太子が選んだ。

 「んっ?んんっ」

 一口食べたフェリクスが目を見開いて鼻を抑えた。

 「ツンって……こ、れは?」

 「山葵ね、控えめにしてあるけどドレッシングを一度に食べ過ぎたんじゃない?」

 苦笑いのままアデルハイドがグラスに水を入れて渡す。

 その横で王太子がパクリとサラダを口に運んだ。

 「ツンっとした刺激も癖になりそうだが、この香りにチーズの絡んだマイルドだがコクのあるドレッシングに苦味のある春菊と噛むほどに味わいがあるマッシュルームの複雑なハーモニーが口に広がって、ワインに良く合う」

 グイッとグラスを傾けた王太子が機嫌良くワインを飲み干した。

 珍しい組み合わせの二人を入って来た客が、ビクッと肩を跳ね上げてそそくさとテーブル席に向かうのを可笑しそうに見ながらアデルハイドは次の調理に取り掛かった。

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