第32話 閑話 辛くて甘いサツマイモのきんぴら

 ハミルン子爵家の長女であるマリアは学園入学からずっと困っていた。

 マリアの婚約者であるハイライト伯爵家のディオンは伯爵家三男で本来ならあり得ないのだけれど、父のハミルン伯爵が騎士団長であったこと、乳母の子が女子であったことなど偶然が重なり第三王子のフェリクスの遊び相手として幼少期から侍っている。

 そのせいで入学早々問題児認定されている矢鱈と高位貴族の令息に取り入ろうとする男爵令嬢と近付くことになってしまっていた。

 王族ということで男爵令嬢から第三王子がターゲットになったせいなのだが、見る間に高位貴族の子息たちを籠絡していく男爵令嬢から第三王子を守る防波堤役となっていたディオンと男爵令嬢が絡む機会が増えていっていた。

 伯爵家とはいえディオンは騎士団長の息子とあって男爵令嬢もベタベタと引っ付いているのが見られるようになり、何度かマリアも苦言をディオンに伝えたが良い反応はなく二人の距離がどんどん開いていった。

 それが何ヶ月か続きもうダメかもとマリアが両親に相談しているうちに、いつの間にか第三王子が婚約者の公爵令嬢に侍りだし、暫くしてディオンもそこに加わった。

 その後はあからさまに第三王子とディオンが男爵令嬢を避け出したのを確認し、両親には大丈夫だと伝えた。

 

 そんなディオンがどうやら放課後になると第三王子と共に何処かへ行っていると気付いたマリアが思い切ってディオンに問いただせば、何を思ったか「なら一緒に行こうぜ」と第三王子と共に連れて来られたのがアデルハイドが経営する居酒屋「花結び」だった。

 今日は生徒会の業務でディオンと第三王子は学園に拘束されている、マリアはその隙にと居酒屋「花結び」に来ていた。

 「お義父さまと同じ王国騎士団に入るって聞いていたのです、それが急にアデルハイド様の公爵家に殿下と行くとか言い出して」

 「え?何それ?私聞いておりませんよ?」

 「ええ?!そ、そうなのですか?私てっきり決まったものだと」

 「殿下が何か言ったのかしら?それで、マリアさんはどうしたいのかしら?」

 「私、ディオンが王国騎士団に入るなら卒業後は王宮のメイドを目指すつもりだったので、一体どうしたらいいのでしょう」

 困っているというより戸惑っている、のかしらとアデルハイドは泣きそうな顔をしているマリアを見た。

 「ディオンが目を覚ましてくれたのは嬉しいのに、急に勝手に色々なことを決めてしまっていて」

 必要なのは当人同士の話し合いでしょうね、とアデルハイドは調理の用意を始めた。


 サツマイモを皮のまま綺麗に洗い、先日買ったスライサーで細い千切りにしていく。

 同じように人参を千切りに。

 水で晒してザルにあげ、水気を切っておく。

 フライパンにごま油をひき、千切りにしたサツマイモと人参を入れ火が通るまで炒めていく。

 酒、砂糖、醤油を加えしっかり全体に絡めたら汁気が減るまでさらに炒めていく。

 サツマイモが甘いので砂糖は控えめに、仕上げに一味唐辛子を加えてサッと混ぜ合わせればサツマイモのきんぴらの出来上がり。

 器に盛って胡麻をかけてからマリアの前に置いた。


 「甘いのにピリッと辛くて塩っぱさがあとを引きますね」

 きんぴらをぱくりと一口食べたマリアが目を丸くしている。

 「甘くて辛くて、全然違うのに美味しい……なんだか私とディオンみたい」

 そう言いながら何か考え込んでいるマリアにアデルハイドは見守るような目を向けた。

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