第31話 かぼちゃチップス
「軽く食べれる物も欲しい」
そんなリクエストがチラホラ入っていた。
言われてアデルハイドが振り返りながらメニューを眺めていたが、確かに比較的しっかり食べれるものが多く、手軽なものがないことに気付いた。
「そうねえ」
「ナッツやクラッカーのような物があれば」
そんなことをフェリクスがカウンターのアデルハイドが座る隣にチャッカリ座って言った。
「とは言ってもねえ?」
今日は定休日とあって時間もたっぷりあるため、アデルハイドは立ち上がり食糧庫を探ってみた。
「今日はこれと言って何もないわね」
「ならマーケットに行ってみないか?丁度今日は行商も入ってるから色々見れるんじゃないかな」
フェリクスに言われてアデルハイドも「そうね」と軽く身支度を始めた。
ゾロゾロと護衛を引き連れ帰りつくとフェリクスが抱えていたカボチャをカウンターに置いた。
「かぼちゃは花結びでは煮物か天ぷらにしかしてなかったからメニューを増やすのには丁度良かったわ」
口角を上げるアデルハイドに「それは良かった」とフェリクスも機嫌がいい。
「着替えて来るわね」
そう言ってアデルハイドは着替えに向かった。
ラフなワンピースにいつもとは違うエプロンを身につけて現れたアデルハイドにフェリクスが目を見開いた。
「そういうのも似合うね」
「そうですか?ありがとうございます?」
髪をひとつに纏めてくるりと巻き上げて止めるとカボチャを手にカウンターの中へ入っていく。
大きな包丁を取り出してカボチャを半分に切り、切ろうとして固さにアデルハイドは眉を顰めた。
「僕が代わろう」
フェリクスがアデルハイドの様子を見て立ち上がり、エプロンをしながらカウンターの中へ入りアデルハイドから包丁を受け取った。
「ここを切ればいいんだね?」
「ええ、結構硬いので無理はならさないで下さいませ」
心配するアデルハイドを他所にフェリクスがグッと力を入れてカボチャを半分に切り更にそれを半分に切った。
「後は薄く切っていくだけなので」
包丁を受け取りアデルハイドが先日作らせた置き型のスライサーを取り出した。
キャベツの千切りなど時間のかかるものがコレでかなり楽になっている。
薄切り用のスライサーを使いカットしたカボチャを薄くスライスしていく。
切り終わったカボチャの水気を取り、揚げ油を熱してカラッとするまで揚げていく。
カリカリになるまで揚げたらしっかり油を切り幾つかの器に分けた。
「一つは単純だけど間違いがない塩、今日は岩塩を使いましょう」
ガリガリと擦った岩塩を揚げたカボチャに振りかける。
「もう一つは粉チーズと塩胡椒、最後はさっき市場で買ってきたカレー用のスパイス」
三種類を用意してカウンターに並べた。
用意した酒はパナシェと呼ばれるビアカクテル。
ビールにレモン汁を加え炭酸水を一対一で混ぜる、それだけでは甘さが足りないので蜂蜜を加えた。
輪切りのレモンを飾りフェリクスに渡せば「これは初めて飲むよ」と興味深く透明な黄金色の液体を眺めていた。
エプロンを外しアデルハイドも椅子に座り塩味のカボチャチップスを摘む。
仄かに甘いカボチャを塩が引き立てて優しい甘さが口に広がる。
パリパリという食感も楽しい。
爽やかで甘みのあるビアカクテルは居酒屋「花結び」で提供することはない。
「チーズは間違いがないね、粉チーズの風味にカボチャの自然な甘さが良く合うし、このビアカクテルもすごく飲みやすいよ」
「カレー味はなんだか、こうそこはかとなく」
懐かしい気がすると最後は声に出さずにアデルハイドは言葉をビアカクテルと共に飲み込んだ。
多めに揚げたカボチャチップスを護衛の騎士たちに差し入れて、アデルハイドとフェリクスはのんびりとした休日を新メニューと共に過ごした。
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