第27話 タコの和風カルパッチョ
「タコね」「タコっすね」
そこそこ大きなマダコを前にアデルハイドとハノイが腕を組む。
それをいい笑顔で見つめるのはディオンだ。
「買ってきた!」
そう言いながらニコニコしているディオンに溜息を吐いてハノイが大鍋に湯を沸かし始めた。
「とりあえず下茹でしてしまいましょう」
ウネウネと足を伸ばして木箱から脱走を図るタコにアリッサとフェリクスは距離を取っている。
「唐揚げと刺身、酢の物と後はカルパッチョにしましょうか」
やったぁと拳を握るディオンをひと睨みしてアデルハイドはカウンターの内側に入った。
タコの下茹ではしっかり塩で滑りを取ったタコを沸騰したたっぷりのお湯で足からゆっくり入れていく。
くるりと足が曲がって円を描き、色が変わってしばらく茹でる、引き上げて粗熱を取る。
唐揚げはぶつ切りにした足や頭を小麦粉と片栗粉に塩胡椒を合わせて溶いたものをまぶしてカラッと揚げてレモンを添える。
酢の物は薄く輪切りにした胡瓜とワカメ、一口大に切ったタコの足や頭を三杯酢と混ぜる。
カルパッチョにする為足を薄く切って華のように並べていく。
ボウルにオリーブオイルみじん切りにしたニンニク、たっぷりのレモン汁に塩胡椒と醤油、みじん切りにした大葉を混ぜ合わせる。
皿に盛ったタコの上に作ったソースをかければ完成。
開店と同時に騎士団長が顔を出した。
「お?これがうちの領地で獲れたタコかい?」
ディオンの隣に座り、遠慮なくディオンの皿からごっそりと箸でタコを掬いパクリと口に放り込んだ。
「ちょ!父さん!俺のタコ!」
「美味いな、俺の分も頼む」
おしぼりを差し出したアリッサにタコのカルパッチョと冷酒を頼んだ騎士団長がディオンをチラッと見た。
「ディオン、お前の婚約の話だがな」
騎士団長にそう話し出されて箸を動かす手をディオンが止めた。
「破棄を視野に考えていると言われていたんだが、先日最近のお前の行動なら大丈夫だろうと、継続する方向で決まったぞ」
ホッとディオンが表情を緩めた。
「男爵家の令嬢だったかな、このままでは良くはないだろうな」
「でしょうね、殿下と俺は早々にターゲットから外れたようだけど」
「僕は婿養子に出れば王籍から外れるしディオンも伯爵家を継ぐわけじゃないからな」
「その辺りちゃんと見極めてるなら故意なのだろう、伯爵家は兎も角高位貴族の令息にはハニートラップに関しての教育が為されているはずなんだがなぁ」
はぁと溜息を吐く騎士団長は先々の混乱を憂いていた。
アデルハイドはそれを横目に、フェリクスがヒロインのターゲットから外れたらしいことに、何故かホッとしていた。
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