第28話 秋刀魚のしょうが煮と蒲焼き
学園の長期休暇が明け新学期が始まるとまた騒がしい毎日が繰り返される。
行事も多々あり忙しい学園生活を片手間にアデルハイドは終業早々に居酒屋「花結び」の裏口を開いた。
「今年は良い秋刀魚が出てましたよ」
そう言って氷が敷き詰められた木箱の蓋をハノイが開いて見せた。
「あら、サイズの違いはあるけどどれも美味しそうね」
ハノイが朝から市場で仕入れて来た秋刀魚を見てアデルハイドは喜色良い声をあげた。
「開きと焼きは大根おろしを添えて網焼きかしらね」
「そうですね」
「小さめはしょうが煮にしましょうか、比較的大きなものは蒲焼きにしましょう」
「辛いのと甘いのと、これは合わせる酒も楽しみですね」
ホクホクと二人で笑みを浮かべてハノイは準備に向かうアデルハイドを見送り、秋刀魚の下拵えに入った。
包丁の背を使いウロコを取り滑りも落として流水で流して水気を拭き取る。
一尾で焼く分を取り分けて、残りは腑を取り除いていく。
頭側に包丁を入れ骨で止めて腹側の穴の辺りからも包丁を入れる。
頭を持って引き抜けばずるりと腑が取れる。
流水で流して水気を拭き取ると下処理が終わる。
一尾で焼く分に塩を満遍なく振りかけてハノイが取り分けた下処理が終わった秋刀魚をアデルハイドに渡した。
少し小ぶりの秋刀魚を三等分に切り分ける。
たっぷりの生姜を千切りにして鍋に水と砂糖、醤油に酒と酢を入れ生姜を加える。
切った秋刀魚を加えて鍋に火をかけ沸騰したら火を弱め中火でコトコト。
灰汁を取って落とし蓋をして煮詰めていく。
煮汁が少なくなったら火を止め完成。
次は蒲焼きの準備に取り掛かる。
先にタレを合わせておく、酒に醤油と砂糖に蜂蜜を加えてしっかり混ぜる、蜂蜜が残りやすいので焼いてから入れると手際が悪くなりやすい。
秋刀魚は開いて半分に切り小麦粉をまぶして、熱したフライパンで皮目から焼いていく。
皮がパリッと焼けたらひっくり返して皿に焼いていく。
カリッと焼けたら合わせていた調味料を加えてトロミがつくまで煮詰めていけば出来上がりだ。
蒲焼きを焼いているうちに開店していた居酒屋「花結び」は香ばしい匂いに誘われた客で既に賑わいを見せている。
いつもより遅く顔を出したフェリクスとディオンがお腹が空いたと雛のように蒲焼きの匂いに釣られているのを見て、アデルハイドはご飯に蒲焼きを乗せ薄く焼いた玉子を千切りにして添え二人の前に出した。
「生徒会、お疲れ様」
学園が始まり一年生であるフェリクスたちも生徒会の活動が本格的になり放課後も業務に追われている。
「夏の間に結婚した生徒が学園を辞めてしまって人数が足りないんだ」
十五歳で成人を迎えるこの国の学園では在学中に結婚してそのまま退学することは珍しくない。
丁度人手が少なくなる時期と例の乙女ゲームヒロインらしき男爵家の令嬢のことで焦りを感じた一部の貴族家で夏の長期休暇に合わせた結婚が進んだ。
「これ上手いな、甘辛いソースに秋刀魚が香ばしくて少し味が濃いかと思ったが白米と合わせると絶妙な加減になる」
「腹が満たされる」
ガツガツとけれど品よく食べ尽くした二人にアデルハイドは熱いほうじ茶を出した。
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