第25話 閑話 夏の星祭り
「星祭りへの出店ですか?」
「ええ、そうなのよ」
困ったわと溜息を吐くアデルハイドを同じく困ったように見るのはアリッサだ。
夏季休暇に入ると直ぐにある星祭りは王都の夏を彩る風物詩でもある。
秋の豊穣を願い、精霊の目印になるようにと各家が家人の数だけランタンを灯す。
貴族の屋敷ともなれば使用人の数も膨大で貴族街や王城は花とランタンで溢れかえり観光としても映える見ものとなる。
家の花がある国らしく温室でこの日の為に咲かせた花を門扉に飾り、ランタンが塀に並ぶ。
そんな祭りの昼の楽しみが貴族街に店を持つ飲食店が出す露店だ。
平民街では露天商が並び、大きな祭りとなるが人手があれば治安もあまり良くはなく、貴族令嬢が平民街へ行くことはない。
代わりに貴族街の商業区は見回りを強化して若い貴族の学生も楽しめるようになっていた。
「平民街の食堂は焼鳥にするんだけど貴族街はねえ、匂いや煙は禁止されているからどうしたものかと」
出店は貴族街に店を構える飲食店全てに義務付けられている、外部の露天商を入れないためには必要な処置らしい。
「露店で出すなら片手で食べれて、サッと作れて美味しいものですか」
「うちは居酒屋でしょう?難しいのよねえ」
うーんと考え込むアデルハイドにアリッサがはたと思い出して耳打ちした。
「ポテトは蒸してしっかりマッシュします」
ギュッギュッと力を入れてボウルに蒸して皮を剥いたジャガイモをアリッサに倣い潰していく。
片栗粉と塩を加えて滑らかになるまで混ぜ合わせ牛乳で少し伸ばす。
一口大に取りコロコロと丸く成形して、一度窪みを作りチーズを入れてしっかり丸く形を整える。
下拵えはこれで終わり、後は提供時にカリッと揚げるだけ。
「ソースはどうしますか?」
「ベタなのは塩胡椒ですねぇ」
ハノイの質問にアリッサが答える。
「それだとつまらないわ、トマトペーストをベースにしたソースとガーリックソルト、それにバター、トッピングは追いチーズでどうかしら」
アデルハイドがハノイが揚げたポテトチーズボールを一つ摘んで味見をしながら提案した。
塩、トマトペーストにバジルと塩胡椒を入れ煮詰めたトマトソース、フライガーリックを細かく粉末状になるまで砕いて塩と胡椒を混ぜたガーリックソルト、バターと味付けのバリエーションとして増やした。
追いチーズは追加料金でのトッピングとなる。
厚手の紙皿に揚げたてを五つがワンセット、昼から夕方日が落ちるまでの露店営業にはハノイとアリッサが店に立つ。
アデルハイドはその間、王城で開かれる星祭りの茶会に出席しなければならない。
昼の露店は大盛況だったとハノイとアリッサから報告を受けて、二人に感謝を述べアデルハイドは避けておいたポテトチーズボールを幾つか揚げて各味付けを別皿に盛り二階へ上がった。
出窓を開くと眼下に通りのランタンがキラキラ輝いている。
街並みにランタンの光が星のように瞬くのを見ているとコンコンと控えめなノックが聞こえた。
「殿下?」
「夜分にすまない、僕も一緒にいいかな」
片手を上げて持って来たらしいワインの瓶を見せる。
「まぁ!勿論ですわ」
そう言ってフェリクスが持って来たグラスを受け取り出窓の近くにテーブルを寄せた。
座れる幅を取った出窓に腰掛け夜の街を見ながらポテトチーズボールを頬張る。
カリッとした表面の歯触りからモチっとした食感と芋の優しい味にミルキーなチーズがとろりと流れ出る。
赤ワインの渋みが口いっぱいに広がり、芳醇な香りが喉を抜けていく。
フェリクスと共に同じ景色を見ながら特に何をと言わず、窓の外を眺めながら飲むワインをアデルハイドは何時もより美味しく感じていた。
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